惣一が学校でプチ騒ぎを起こしているとき。


一昨日あたりから風邪でダウンしているつばめだが、

病院には行っていなかった。


つばめは大の病院嫌い、更に薬嫌いだ。

昨日も母親に駄々をこねて、結局病院に行かなかった。

今朝も熱が下がらず(というかむしろ更に上がり)、
母親に「ほらみなさい」と叱られたものの、

更にぐずってまた行かなかった。

しかも、「なら、市販の薬くらい飲みなさい」と言われて渡されていた風邪薬も、

飲んだフリをしてゴミ箱に捨てていた。


「だってヤなんだもん・・・」


昨日は一日中家にいてくれた母親も、

今日は買い物だとか用事だとかで、夕方まで家に帰ってこない。

つばめはベッドで寝ているものの、

病院に行かず、薬さえ飲んでいないのに良くなるはずもない。
元々基礎体力があるからか、

熱と喉の痛みと少しのだるさくらいでそこまで症状は酷くないが、
熱が下がらない限り学校に行けない。
でも、やっぱり病院も薬も嫌だ・・・。


そんな感じでつばめがベッドの中で悶々としている時。


ピンポーン


呼び鈴が鳴った。


「誰・・・? 面倒だなぁ・・・」


母親がいないので、自分が応対するしかない。

だるい体を起こして、

玄関まで下り、ドアを開けるとそこにいたのは・・・


「っ・・・光矢!?」


「よぉ。病院嫌い。風邪やって?」


往診バッグを持った光矢が立っていた。


「なんで・・・光矢が来んの・・・?」


つばめは自分の部屋に戻って、光矢を見て呆然としている。
すると、光矢がその問いに答えた。


「お前のお袋さんが朝電話くれたんや。
つばめが病院嫌いでいくら言うても行こうとせぇへんから、

悪いけど来てくれへんか、ってな。
で、うちの病院医者2人体勢で、

俺は今日は午前中担当やったし、学校の出勤日でもなかったから、
こうやって駆けつけたってわけや。」


「母さんの馬鹿・・・」


まさか、往診を呼ぶなんて思ってもみなかった。
しかも、よりによって雲居を呼ぶなんて。

余計なことを・・・と、つばめがボソッと文句を言う。


「こら、つばめがさっさと来てたらこんなんにはならんかったんやで?
ほら、診察するで。」


「うぅ・・・」


頭をコツンとやられ、有無をいわさず診察が始まる。
熱を測り、聴診器をあてられ、喉を見られ・・・


「まぁ、ただの風邪やな。薬飲めや。」


そう言って、カバンの中からいくつか薬と、ペットボトルの水を取り出す。


「やだぁ・・・(涙)」


途端に涙目になるつばめ。

出された薬は粉薬。

錠剤だった市販の薬すら飲めなかったのに、粉薬なんて飲めるはずがない。


「早よ飲めまんと、お仕置き増えんで?」


「・・・・え?」


耳を疑うような雲居の言葉。

聞き返したつばめが見上げると、いつの間にか雲居の目が険しくなっている。


「つばめ。お前、お袋さんから飲め言われた薬、どこやったん?」


「えっΣ(゚д゚;)」


雲居は、医者だけあって、健康のことや薬に関することにはことさら厳しい。
「捨てた」なんて言ったら、きっと絶対に怒られる。

冷静に考えれば、

こうやって問い詰められている時点でもうばれているだろうと分かるところなのだが、
熱のせいか、パニックになったか、つばめはとっさに誤魔化していた。


「の、飲んだよ・・・? 朝、ちゃんと・・・」


「ほぉ・・・飲んだんか・・・」


長い沈黙。気まずい。

つばめが俯いてもじもじしていると・・・


「つばめ。正直に言わんとお仕置き辛なるで?」


「っ・・・知らないっ・・・」


雲居から目を背けるつばめ。

そんなつばめを見て、雲居は溜息をついて、実力行使に出た。


「・・・タイムアップ。限界や。知ってるやろ? 

俺ははーくんと違って・・・気が短いってな!」


「うわぁっ・・・やだぁぁっ・・・」


勢いよく腕を引き、

そのまま膝の上にセッティングし、パジャマのズボンと下着を下ろす。


バシィィンッ


「いったぁぁぁぃっ」


「捨てたんやろ? ゴミ箱に!」


バシィィィンッ


「あぁぁんっ だってぇぇっ」


「だって、やないやろ? 薬捨てるなんて、ほんまに許さへんからな!」


バシィィンッ バシィィンッ バシィンッ


「やぁぁっ・・・いたぃっ・・・ふぇぇっ」


「だいたい、駄々捏ねて病院来ぇへんなんて、お前何歳やねん。」


バシィンッ バシィンッ バシィィンッ


「いたいぃぃっ・・・だってぇぇっ・・・病院いやぁっ」


「病院行かんで薬も飲まん・・・治らんで辛いんはつばめやろ?」


バシィィンッ バチィンッ バシィンッ バッシィィンッ


「あぁぁんっ・・・ふぇぇっ・・・なおるもんっっ・・・お医者さんなんていらなぃっ」


泣きながらも、頑固に駄々をこね続けるつばめに、雲居は溜息。


「あんなぁ・・・現に治ってへんやろが!!」


バシィィィンッ


「ふぇぇぇんっ・・・!!」


「あんまり駄々捏ねてると注射もするで?」


「っ・・・いやぁぁっ・・・注射やぁぁぁっ・・・」


「だったら反省せぇ!」


バシィィンッ バシィィンッ


「うぁぁんっ・・・ふぇぇっ・・・・」


「薬、飲むな?」


「・・・」


黙りこくってしまうつばめ。雲居は、また溜息をついて平手を振り下ろす。


バシィィィンッ


「いったぁぁぃっ」


「もっかい聞くで? 飲むな?」


バシィィンッ


「あぁぁんっ・・・ふぇぇっ・・・飲・・・む・・・」


「よし、ほんなら『ごめんなさい』は?」


「ふぇぇっ・・・」


バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィィンッ


「あぁぁぁんっ!・・・ごめんなさぃぃぃぃっ」


最後に連打を浴びて、つばめは叫ぶように謝罪の言葉を口にした。

それを聞くと、雲居はつばめを抱き起こすと、

すかさず薬と水をつばめに手渡した。


「うぅ・・・ 早い・・・」


「お仕置き直後の方がちゃんと飲むやろ? ほれ、早よ飲めや。」


「光矢・・・ゼリーないの・・・?」


「はぁ? そんなんなくても・・・」


呆れたように言おうとした雲居だが、

つばめにうるうるした瞳で見つめられ、言葉に詰まる。

仕方なく、診療カバンの中から小さい子用に一応入れてある薬用のゼリーを取り出し、

小さい器の中に入れ、薬と混ぜる。


「ほら、これなら飲むんやろ?」


「うん・・・・・・んっ!」


「丸呑みかいな・・・」


ゼリーを流し込むように一気のみしたつばめに雲居は苦笑するが、

つばめを抱き寄せて頭を撫でる。


「まぁ、頑張ったし良しとしよか。」


「んっ・・・光矢・・・」


「ほなら、いったん寝とき。寝て起きたら気分も良くなるやろ。」


そう言って、雲居が荷物をまとめようとする・・・と、

またつばめが潤んだ瞳で見つめる。


「・・・今度は何や?」


「行っちゃうの・・・?(涙)」


「はぁ?」


「寝るまでここにいて・・・」


「・・・医者はいらないんやろ?」


「っ・・・うぅぅ・・・」


ふくれるつばめに、雲居は苦笑しながら、

ベッドの縁に腰掛け、汗ばんだ額にはりついた髪を撫でる。


「ったく・・・赤ちゃん返りかい。しゃーないな、寝るまでおったるわ。」


「・・・ありがと・・・。」



風邪で、今日は母親もいなかったので寂しさがあったのだろうか。
雲居にあやされていると、つばめは瞬く間に眠りに落ちていった。


目が覚めると、熱もすっかり下がり、

翌日には元気に学校に登校できたのだった。