~後日談~

「きゃぁぁぁぁっ!!!」「おぉぉぉっ!!」


放課後の星ヶ原高校は、

女子生徒の黄色い声と、男子生徒のどよめきに包まれた。
運動部も文化部も部活そっちのけである。
外部活の生徒たちはもとより、

体育館部活の生徒たちは体育館シューズのまま外に駆け出し、
文化部の生徒たちは校舎の窓から身を乗り出している。

目線の先にいるのは・・・・・この高校のOBでもある、そう、風丘葉月。


「見て見て、風丘先輩よ!!」
「きゃぁぁっ 格好いい!! ものすごく美形、アイドルみたい!!」
「ほら、1年の妹さんの三者面談なんだって!」
「妹って、美少女で有名な1年の風丘?」
「美形兄妹か~~」
「あの伝説の風丘先輩だぜ!? 生で見ちゃったよ!!」




「あっちゃ~~~ そうだ、こいつを呼ぶとこれがあった・・・」

「なんだ、今頃気づいたのか? 天道先生。」

「そうよ、今更でしょう。今更。」

「地田先生も金橋先生もそんな呑気に構えてないでください~~~っ!!」


その様子を見て、職員室で頭を抱える天道と、

呑気にお茶を飲む地田と金橋。




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☆以下、葉月の高校時代の武勇伝。

 ダラダラと長いので、読み飛ばしてくださってもOKです by白瀬☆



そう、『風丘葉月』と言えば・・・というより、

葉月や光矢といったイタズラグループ五人組は、

この高校で知らない者はいないくらいの『色んな意味で』超有名OBだった。

葉月は、中等部では

ただ単にイタズラグループのリーダーとして有名なだけだったが、
高等部ではその頭脳明晰さ、運動神経、リーダーシップを

様々なところで遺憾なく発揮した。 

まず、テストの学年順位はいつも決まって、

理系1位は光矢、文系は森都、葉月のワンツーフィニッシュ。

部活では硬式テニス部で1年からレギュラー、

3年では部長も務め、副部長の光矢と共に県大会ダブルス優勝。

そして、『風丘葉月』の名がここまで有名になった極めつけの理由が、

3年で務めた生徒会長としての実績だった。

これで、葉月は伝説の存在となるのだ。


前述のように文武両面で輝かしい成績を残した葉月だが、

素行が良くなったわけではもちろんない。
むしろイタズラはパワーアップ、
教師は敵だと言わんばかりに、毎日毎日教師陣を相手取って、

五人組で何かしらやらかしていた。

まぁ、大概それは生徒たちの意向を汲んだものが多く、
大がかりなものなんかはある種のイベントと化し、

生徒達の楽しみにすらなり、
葉月は・・・というより五人組は、

全校から支持を得る人気者になっていたのだが。

しかも、頭の回転も悪知恵もパワーアップしていたため、

教師陣もなかなか敵わなくなってしまった(地田や金橋を除き)。

だから、フツーの場合、葉月は生徒会長などやれるわけがなかった。
葉月が生徒会長として実権を握れば、

いろいろと面倒なことになるのは目に見えている。
いくら生徒たちに人気があっても、

教師陣が認めなければ、その任につくことは不可能に近い。


・・・・しかし、この時は「フツー」ではなかった。

全校で葉月を生徒会長に推す運動が始まり、
葉月が『他に立候補者が居ないならやっても良い』という以外、

立候補者が一切でなかったのだ。
生徒会長不在、また、望んでいない生徒にやらせるわけにも行かず、

結局葉月の信任投票となり、

なんと信任率100パーセントで生徒会長に就任した。

これでは、いくら教師陣でも認めないわけにいかなかった。

ちなみに、この時葉月は副会長と書記兼会計の指名権を得て、

就任したのは副会長が光矢、書記兼会計が森都だった。


更に、就任してから葉月は、

生徒達に不評な校則の数々を片っ端から改正していった。
端から全てただ単に『校則撤廃』と言うなら、

教師達も「ふざけるな」と言えたのだが、
葉月は細かな改正案を次々作成し、

完全撤廃ではなくあくまでも『改正』だと毎週職員会議に乗り込んでプレゼンした。
時には校長に直談判までしていた。
昔から教師に大して派手に反抗してきた葉月たちには、
教師に対して『従わなければならない』だの『目上の人』だのといった意識や

恐怖心、遠慮等々は一切なく、
更に厄介なことにこの3人は弁が立つ上に論理的で、頭の回転が早い。
3人に本気で迫られれば、

いくら教師陣でも全てをはねのけることはできなかった。

そんなこんなで改正した校則数、17は、今まで例を見ない数だった。


更に、葉月は学校トップとして、学園祭実行委員長も兼任だった。
この時、抜本的な学園祭改革に乗り出したのだ。
教師主体、マンネリ化したイベントの数々を改善し、

予算もまたもや得意の交渉術で三十万円分も上乗せをひねり出した。

今では名物となったミスコン(という名の女装大会)やらを生みだし、
演劇部や軽音部が細々と内輪でやっていたミュージカルやライブを、

特別予算を支給する等々手を尽くし、
外部からも人を呼び込むくらい大きな目玉に作り上げさせたのも葉月たちだ。
生徒達から意見を募り、

生徒達もこんな奴らが生徒会なら・・・と珍しく本気でアンケートに答えた結果、
使えるアイディアが満載で、そこからミスコンやらライブの大規模化やらが生まれたのだ。

・・・・ちなみに第1回ミスコンは勝手が分からないからか参加者が少なく、

『それなら』となぜか出場した
葉月の『清楚なお嬢様』、森都の『和・クールビューティー』、
なぜかノリノリで参加した海保の『ネコ耳メイド』がトップスリーとなり、
この三作品は『男とは思えない美人&可愛さ』と、

今でも生徒会室前に写真が飾られている・・・。


何にせよ、生徒達の意見を次々と取り入れ、

行動していく葉月たちの生徒会は
『真の生徒会』と呼ばれ、今でも生徒会役員たちの目標となっている。



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そんな葉月が卒業して2年。

まだまだその余波は残っており、

語り継がれる伝説のおかげで全生徒が葉月の存在を知っていた。


「アハハ、みんな元気だね~~ ちょーっと早く来過ぎちゃったかなぁ・・。」


野次馬にも慣れたもので、ニコニコ笑って、全く気にせず校内を好き勝手歩く葉月。
歩くたびに上がる歓声も全く気にしない。

そして、生徒玄関口で立ち止まる。そこに現れたのは、花月だった。


「お兄ちゃん!」

「花月。」


伝説の人である兄の葉月と、

今学校で有名人な美少女、妹の花月のツーショットに、

野次馬から更にどよめきが起きる。


すると、生徒玄関向かいの職員玄関から天道が駆け出し、叫んできた。


「おい!! 風丘兄妹、早く校舎内入れ!」


この言葉に、野次馬から「えーっ」という言葉が漏れる。

校舎内に入られれば、そう簡単には見れなくなってしまう。


「えーっ、じゃねー!! お前ら部活中だろーがぁっ!! 

文化部の連中も!窓から落ちるぞぉっ!!」


天道の怒声に、文句たらたらで部活に戻る生徒たち。

そんな元顧問に、クスクス笑う葉月。 


「先生、相変わらずですねぇ・・・その声の大きさ。」


からかうようにそう言われ、天道はため息をついてまた叫んだ。


「風丘、お前なぁ・・・。だーれのせいでこんな大騒ぎになったと思ってる!!
てめー、自分が注目浴びてること知ってて校内歩き回りやがったな?」


「はいはい、すみません。っていうか先生、そんな言葉遣いだめですよ~?
今日、俺は花月の『保・護・者』☆」


更にからかう葉月に、天道がイライラしながら叫ぶ。


「『保・護・者』☆ じゃねぇぇぇっ!! 

風丘、てめー、教室じゃなくて生徒指導室に行きやがれ!!
妹の前に、どーしよもねーバカ兄貴から指導してやる!!」


「いやだなぁ、あんな物騒なとこ二度と入りません~~」


「何が物騒だ、てめーらがとんでもねぇこと

毎日毎日やらかしてたからだろーが!!
来い、強制送還だ!!」


「クスッ 先生にできますかー?? 

いくら体育教師でもとっくに三十路でしょ?」


ヒラリと天道ののばしてきた手を避けて、ニコッと笑う葉月。


「か~ざ~お~かぁ~~~」


「アララ、怒らしちゃった。」


ペロッと舌を出す葉月。

そして、振り向いて後ろでクスクス笑いをこらえている花月にウインク。


「花月。先生がお怒りらしいから、鬼ごっこ。

鬼の先生の角が引っ込むまでね?」


「なっ・・・風丘お前今なんつっ・・・」


「逃げろ!!」

「あっ、待ってお兄ちゃん!!」


「おい、なんで妹まで逃げる!! 

お前ら待てっつってるだろーがぁぁっ!!!」


駆けだした葉月に、ついていく花月、それを追う天道。




結局2人の体力に勝てず、

天道が白旗をあげて三者面談が始まったのは、予定時刻から1時間後。

葉月のために特別に日を組んだので、

次の人を待たせる・・・なんてことにはならなかったものの、
卒業してからも教師を振り回す葉月に、

天道は肩で息をしながら苦笑するのだった。