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※こちらの作品は、「黒執事」二次創作の
 スパ小説となっております。
 原作を知らなくても
 ある程度ストーリーが分かるように構成しているつもりですが、
 あらかじめご了承ください。
 また、二次創作が苦手な方、原作のイメージを壊したくない方は
 バックお願いします。






「おはようございます、坊ちゃん。」


「ん・・・」


いつものように、セバスチャンがシエルを起こす。

シエルは寝ぼけ眼だが、

そんな主人の周りをてきぱきと動き回って、

セバスチャンはどんどんシエルの身なりを整えていく。


「本日のアーリーモーニング・ティーは、アールグレイをご用意いたしました。」


「ん・・・」


セバスチャンが差し出すカップとソーサーを受け取り、優雅に飲むシエル。

そんなシエルの様子を見ながら、セバスチャンは身支度を続ける。


「朝食は定刻通り9時でよろしいですか?」


「あぁ。」


「本日のメニューは、サーモンのムニエル、スクランブルエッグ、

ほうれん草とベーコンのソテー、スープをご用意いたしました。
付け合わせはトースト、スコーン、マフィンがご用意できますが。」


「スコーン。ほうれん草はいらない。」


そう言うシエルに、セバスチャンは軽く咎めるように答える。


「好き嫌いはいけません、坊ちゃん。

ほうれん草もちゃんと召し上がっていただかないと。」


「うるさい。いらないと言ったらいらない。」


「ですが坊ちゃん・・・」


「何度も言わせるな。セバスチャン。

お前は主人の僕の言うことが聞けないのか?」


シエルはキッとセバスチャンをにらみつける。
そんなシエルの様子を見て、セバスチャンは溜息をついて返す。


「・・・仕方有りませんね。・・・・・・こちらが、新聞になります。」


「・・・ふん・・・」


「それでは、朝食の時間になりましたらまたお迎えに参ります。

・・・失礼いたします。」


セバスチャンが、一礼して部屋を出て行こうと踵を返した瞬間。


シュッ


パシッ


「チッ・・・」


シエルはセバスチャンの頭めがけて、手に持っていたソーサーを投げつけた。
が、セバスチャンはそれを見向きもしないで人差し指と中指で挟み取る。


「いけませんよ、坊ちゃん。人に向かって物を投げては。」


「お前は『人ではない』だろう。」


当然のように言い放つシエルに、セバスチャンは笑う。


「クスッ・・・そうでしたね。・・・一本取られました。」


「・・・つまらん。」


どんなときも冷静なセバスチャン。

シエルは少しふて腐れた様子で、セバスチャンから目をそらす。


「ですが、いずれにせよ、物を投げるのはお行儀が悪いですよ。」


セバスチャンがソーサーを戻しにシエルのもとに戻る。
そんなセバスチャンを、シエルは忌々しそうににらみつけた。
その目を見て、セバスチャンはまた微笑んで一言。


「いい目をしていらっしゃいますね、坊ちゃん。」


「うるさい。早く出て行け。」


「御意。」


セバスチャンは、最後まで笑みを崩さず、シエルの部屋を出て行った。









「・・・なんだ、これは。」


それからしばらく経って、朝食の席についたシエル。

目の前には、セバスチャンが報告し、

その後シエルが指示したとおりのメニューが並んでいる。
・・・ただ1品を除いて。

ムニエル、スクランブルエッグは当初のメニュー通り、
焼きたてスコーンに、

ソテーはなくなり、バターコーンになっていたのはリクエスト通り。
・・・が、スープの代わりに出てきたのは、緑色をしたポタージュだった。


「スープ、とお前は言ったな?」


「えぇ。ですが、坊ちゃんが

ほうれん草のソテーをお召し上がりにならないとのことでしたので、
代わりにスープをポタージュにさせていただきました。」


悪びれもせず、しれっと言うセバスチャン。


「僕は『ほうれん草がいらない』と言った。

『ほうれん草のソテーが嫌だ』と言ったわけじゃない。」


「そちらのポタージュには牛乳をたっぷり使っております。

苦みも気にならないかと思いますが。」


「うるさい。僕はほうれん草はいらない。下げろ。」


「いけません、坊ちゃん。少しは食べていただかないと。」


「主人が嫌がる物を無理矢理食べろと言うのか?」


「好き嫌いは成長を妨げます。

主人の健やかな成長を願うのは、執事として当然のことと存じますが。」


「・・・」


「それに坊ちゃん。

ほうれん草が食べられないなんて・・・

子供らしいところもおありになるのですね。」


「っ・・・僕は子供ではないっ」


「なら、召し上がってください。

全部召し上がってくださいとは言いません。一口でいいですよ。」


「っ・・・」


ガシャンッ


「・・・坊ちゃん。」


「っ・・・」


その瞬間、だった。
いつもならそんなことはしないのだが、よっぽど嫌だったのか。
シエルは、ポタージュの入った皿を、床に払いのけていた。


「ふぅ・・・全く、仕方有りませんね。」


ひっくり返った皿と、床に飛び散ったポタージュを見て、

セバスチャンは溜息をつく。


「メイリン、ここを片付けておいてください。」


「は、はいですだ!」


部屋の隅に控えていて、

一部始終を見てどうなることかとオロオロしていたメイリンは、
突然呼ばれて、飛び上がって動き出した。


「それからフィニ、バルド。残りの朝食は、下げて食べていいですよ。
坊ちゃんは、この後用事が出来てしまいましたから。

残しておいても、食事は冷めてしまいます。」


「何を勝手なことを言っている。僕は用事など・・・」


「主の教育も執事の務め、ですから。」


「なっ・・・」


『教育』と言われ、シエルは目を見開く。
が、次の瞬間、気づくとシエルは、セバスチャンに抱き上げられていた。


「離せ、セバスチャン!」


シエルは喚くが、セバスチャンは聞く耳を持つ様子はなく、

そのままシエルの部屋に入り、

そこでやっと、ベッドの縁にシエルを下ろした。


「セバスチャン! なぜ僕が命令したのにその場で離さなかった! 

主の命令を聞けないのか?」


「今の坊ちゃんは、私が命令を聞くに値する主ではございませんので。」


「・・・どういう意味だ。」


「悪いことをなさった坊ちゃんが、反省して良い子になるまで、

私は命令を聞きません。」


「なっ・・・」


あっさり、シエルのセバスチャンに対抗する唯一といってもいい手を封じられ、
シエルは言葉を詰まらせる。


「クスッ。申し上げたでしょう? 

主の教育も執事の務め、だと。執事の務め、全うさせていただきます。」


「っ・・・離せ、セバスチャ・・・うわっ」


その瞬間、セバスチャンはシエルの細い手首を掴んで抱き寄せ、
自分がベッドに座ると、ヒョイとシエルを抱き上げて膝に乗せた。
そして、シエルの履いていたものを全て下ろしてしまう。
真っ白な、それこそ絹のような素肌が晒され、シエルは焦ってもがく。


「やめろっ・・・っ・・・」


が、セバスチャンにはかなうはずもなく。


「それでは、いきますよ? しっかり、反省なさってくださいね。」


バシィンッ


「いっ・・・」


1発目が振り下ろされた。痛みに顔をゆがめるシエル。
しかし、セバスチャンは容赦なく痛みを与えてくる。


バシィンッ バチィンッ バシィンッ バシィィンッ


「いっ・・・うぁっ・・・うぅっ・・・痛っ・・・」


「全く・・・坊ちゃんともあろう方が、あんなことをなさるなんて。」


バシィンッ バシィンッ バシィンッ バチィィンッ


「いたぃっ・・・うくっ・・・うぁっ・・・っっ・・・」


「好き嫌いはいけません、と常々申し上げておりますよ? 

しかも、一口で良いと申し上げましたのに。」


バシンッ バシィィンッ バシィィンッ バシンッ


「いっ・・・一口だって・・・うぁっ・・・食べるかっ・・・うぅっ・・・あんなものっ・・・」


「ふぅ・・・坊ちゃん。お昼にもう一度お出しします。

その時に、一口召し上がってください。
ポタージュなんですから、ソテーよりもだいぶ召し上がりやすいはずですよ?」


バシィィンッ バシィィンッ


「いたぃっ・・・やっ・・・いやだっ」


「坊ちゃん・・・全く・・・強情でいらっしゃるんですから。」


「うるさいっ」


「クスッ・・・それなら、お昼に召し上がってくださらなければ、
これから召し上がってくださるまで、

ティータイムにほうれん草のお菓子をお出ししましょうか。
ほうれん草のケーキ、ほうれん草のスコーン・・・」


「なっ・・・そんなのいやだっ」


シエルは、セバスチャンの作ったお菓子以外食べないくらい、

セバスチャンの作ったお菓子が大好きだ。
1日の楽しみでもあるのに、それをほうれん草にされたら・・・

セバスチャンは、シエルの嫌がることをよく知っている。
こう言えば、シエルは「昼に食べる」という選択肢を

最終的には選ばざるを得なくなるだろう。


「なら、召し上がってくださいますね?」


「っ・・・」


バシィンッ バシィンッ バッシィィンッ


「いぁっ・・・くっ・・・いたぁっ・・・」


「坊ちゃん?」


「・・・っ・・・一口・・・だからなっ・・・」


絞り出すように答えたシエルに、セバスチャンはニッコリ笑う。


「えぇ。良かったです。・・・・・・・・・・」


「・・・・・・セバスチャン?」


おかしい。話は終わったはずだ。

なのに、いっこうにセバスチャンが自分を押さえつけている手を離しそうにない。
訝しんで、シエルが振り向くと。


「坊ちゃん、『ごめんなさい』は?」


「なっ・・・」


予想外の言葉に、シエルは驚いて目を見開く。


「『ごめんなさい』が言えるのが反省なさった証拠です。」


「だっ・・・誰が言うか、そんなこと!」


「そうですか。

それではまだ反省はなさっていない、ということですね。残念です。」


ちっとも残念そうではない声色で紡がれた言葉。

次の瞬間、予想だにしていなかった痛みが、

すでに赤く染まったシエルの小さなお尻を襲った。


ビシィィィンッ


「いたぁぁっ・・・なっ・・・セバスチャンっ・・・」


「先ほどまでは召し上がっていただく、

という約束を取り付けなければいけませんでしたから、
坊ちゃんがお話できる程度に手加減させていただきましたが。
ここからは、反省して『ごめんなさい』と仰っていただくだけですので、
少し力を強くさせていただきます。」


ニッコリ笑ってそう言われる。


その後に降ってくる痛みは、先ほどとは比べものにならないもので。


ビシィィンッ ビシィンッ ビッシィィンッ


「いたぃっ・・・やめっ・・・いたぃっ・・・ふぇっ・・・」


鞭のように鋭い痛み。

さすがのシエルも耐えきれず、

目の端から涙がこぼれ、悲鳴に泣き声が混ざる。
一度終わりだと思ってしまったことが、余計にきつい。


「このっ・・・悪魔っ・・・」


「えぇ。私は「あくまで」、執事ですから。」


ビシィンッ ビシィンッ ビシィィンッ


「いたいっ・・・もっ・・・やだっ・・・ふぇぇっ・・・」


「坊ちゃん。」


「うるさいっ・・・僕は言わないっ・・・」


「そうですか。私は構いませんが・・・坊ちゃんがお辛いだけですから。」


ビシィンッ ビシィンッ ビシィンッ


「ふぇぇっ・・・いたいっ・・・やめっ・・・やめろぉっ・・・」


「やめて欲しいなら何と仰ればよろしいんですか。もうご存じでしょう?
あぁ、命令じゃありませんよ?」


ビシィィィンッ


「ふぇぇっ・・・ぇっ・・・くっ・・・ご・・・」


ビシィンッ


「うぅっ・・・ごめっ・・・なさっ・・・」


消え入るように言った「ごめんなさい」。
それでも、プライドの高いシエルがそう言ったのは、それだけで十分だった。


「もうしませんか?」


ビシィンッ


「いたぃっ・・・しない・・・」


「それなら、お仕置きはおしまいです。」


ニッコリ笑って、セバスチャンはシエルを下ろし、

そのままベッドにうつぶせで寝かせる。






「痛い・・・この悪魔め・・・」


セバスチャンが用意してきた冷やしたタオルをお尻にのせる。
だが、まだ目は潤んだまま。


「クスッ・・・事実ですから。」


「・・・セバスチャン・・・」


「たまには、このようなお仕置きも良いですね。」


さらっと言われ、シエルは顔を赤くして反論する。


「なっ・・・どこが良いものか!」


「坊ちゃんは、いつも必要以上に大人びていらっしゃいますから。
もちろん、そんないつもの凛々しい坊ちゃんも素晴らしいですが、
このように・・・」


「っ・・・!?」


セバスチャンは、シエルの寝ていた横に腰を下ろし、

シエルの頭を膝に乗せて髪を撫でる。


「子供じみたことでお仕置きされて、

泣いていらっしゃる坊ちゃんも、年相応でとても可愛らしいですよ。」


ニッコリそう言われ、シエルは顔を赤くして声をあげる。


「うっ、うるさいっ」


それでも膝から離れようとはしないシエルに、

セバスチャンは声に出して指摘はしないがニッコリ微笑む。


「今日のおやつはレモンメレンゲパイです。

ほうれん草のケーキにならないように、お昼は頑張ってくださいね。」


「うるさい・・・っ・・・分かって・・・いる・・・」


泣き疲れたか、安心したか。
シエルはセバスチャンに髪を撫でられながら、

セバスチャンの膝でいつの間にか眠りに落ちていった。
その寝顔はとても安らかで、

セバスチャンはその寝顔を見てまた微笑むのだった。