そして、こちら2人は・・・・


「その目で人見んのはあかんで。

ケンカ売ってる目やろ? それ。」


ものすごい形相で自分を睨みつけている仁絵に、雲居がそう言った。
しかし、仁絵は睨みつけるのをやめようとはしない。
それどころか、雲居に向かって吐き捨てるようにこう言った。


「その通り。ケンカ売ってんだよ。てめーにな。」


「なんやと・・・?」


雲居が眉をひそめる。この状況下で、なんて奴だ。


「俺は夜須斗みてぇに素直じゃねぇからな。

だいたい、怪我なんてしてねぇから手当もいらねー。
手当されねーなら、んなバカみてーなことされる理由もねぇだろ?
もちろん、服も脱がねぇ。」


「仁絵・・・・お前なぁ・・・」


「ただの変態の分際で気安く俺の名前呼ぶんじゃねーよ、

この変態ヤロー。」


そして、ハッと鼻で笑う仁絵。

その瞬間、雲居の目つきが変わった。


「お前・・・・許さんで・・・?」


仁絵は、どうやら人をキレさせる天才らしかった。

仁絵の言葉に完全にキレてしまった雲居。


しかし、それでも仁絵は止まらない。


「勝手に言ってろよ。俺は帰る。」


そう言って、踵を返そうとする仁絵。

しかし、素早く雲居がその腕を捕まえた。


「っにすんだよ離せ!」


「おわっ」


強い力でその手をふりほどき、雲居を突き飛ばす。
さすがに耐えきれず、雲居もよろける。


「何、お前。本気でぶっ飛ばされたいわけ?」


「ほぉ・・・・手当必要あらへんってのはほんまみたいやなぁ。

そんなん威勢ええんやったら・・・」


「だから言っただろ?」


「ほなら・・・仕置きも手加減せぇへんでええっちゅうことやな?」


「だから言ってんだろーが。」


雲居の言葉に、再度仁絵が鼻で笑って言う。


「俺は素直にそんなもん受けな・・・・っ!!」


瞬間だった。

雲居が間合いを詰め、仁絵を抱え込むようにすると、

ベッドに座って膝の上に組み伏した。


「っ・・・・ざっけんなっ・・・離せよっ!!」


この体勢になると、

風丘相手でなくても少しは気持ちが弱くなるのか、

若干抵抗の手は弱まるが、それでも悪態は健在。


「そんなん言ってられんのも今のうちやで?」


あっという間に仁絵の履いてるものをおろしてしまうと、

雲居は1発目を振り下ろした。


バッシィィィィンッ


「っ・・・・・・・・」


「(・・・・?)」


夜須斗にも食らわせていないような渾身の平手。

なのに、仁絵は唇を噛んでじっと耐えているだけ。


バッシィィィィンッ

バッシィィィィンッ

バッシィィィィンッ


「んっ・・・っ・・・くっ・・・・」


「(こいつ・・・骨あるんは確かみたいやな・・・)」


ろくに声も上げずに耐える仁絵。

拳を握りしめ、唇をギュッと噛みしめ、目もギュッと閉じて、
ただひたすらに降ってくる平手に耐えている。


バッシィィィィンッ

バッシィィィィンッ

バッシィィィィンッ


「っんっ・・・うっ・・・んぅっ・・・・」


「(こら、あかんわ・・・)」


平手の威力は全く落としていない。

お尻はまだ10発いっていないのに、手形でかなり赤く染め上げられている。
それでも仁絵は陥落する兆しすら見せない。


バッシィィィィンッ

バッシィィィィンッ

バッシィィィィンッ


「・・・・・・・・っぅ・・・ぅっ・・・」


「これは・・・・」


まずい、と風丘もその様子を見ていて思った。

仁絵は、頑なに雲居への謝罪を拒むことを、

お仕置きを受けるその態度で示している。
そして、それは並大抵では崩せないだろう、ということを感じた。
自分の中での限界が超えても、耐え続けてしまうだろう、と。

さすがにお仕置きで出血だの失神だのまでいかせるわけにはいかない。
だが、このまま仁絵の謝罪を待っていたら、

そこまでいってしまうんじゃないか、というくらいの雰囲気だ。


「俺・・・・外にいるよ。」


「えっ・・・うん。」


この様子を見て耐えられなくなったのか、気を遣ったのか、

夜須斗がそっと退出した。

雲居も最初はぶち切れている様子だったが、

どんなに強い平手を与えても耐えるだけで全く反応せず、
説教しても聞く耳持たない仁絵の態度に、困った様子をのぞかせている。


「タッチ交代かな・・・・」


風丘はため息をついて、仁絵と雲居のもとに行くと、

しゃがみ込んで仁絵の目線にあわせた。


「はーくん・・・・こら、あかんわ・・・完全拒絶されてんで、俺。」


「うん、そうだね。(苦笑)」


お手上げ状態の雲居が、平手の手を止める。
風丘は苦笑しながら、仁絵の肩を叩いた。


「柳宮寺、柳宮寺。唇噛むのよしなさい。拳も。」


唇は強く噛みすぎて血がにじんでいる。

拳も強く握っていたため、爪が食い込んでこちらも血がにじんでいる。


「血がにじんでるじゃない。

どうしてこんなにまで頑張っちゃうの。

素直に謝れば、それで済むことでしょう?」


本当は素直なくせに、と心の中で風丘はつぶやく。


「俺にはできるじゃない。どうして光矢にはできないの?」


「・・・・くせに・・・」


「何?」


「わかってるくせに!」


そう叫び、膝の上のまま風丘に向けて拳を向ける。

しかし、そんな不安定な体勢でのパンチは当たるはずもなく、
あっさり風丘に受け止められた。


「こいつ・・・この期に及んで・・・」


それを見て、雲居が再度平手を振り下ろそうとする。が、


「待って、光矢。」


それを風丘が止めると、


「しっかり押さえててね。」


そう言って、自分が平手を振り上げた。


バシィィンッ


「いったっ・・・・」


「(こいつ・・・)」


初めて反応らしい反応を見せる仁絵。

そして、雲居は完全に理解した。自分ではダメなんだと。


「はーくん、代わるわ。」


「うん。」


そして、仁絵の体が雲居から風丘に移される。
ここからが、仁絵の本当の反省の時間の始まりだ。



「・・・俺、おっても平気か?」


「大丈夫。

もともとは光矢にお仕置きされて謝らなきゃいけなかったんだから、

それぐらい当然。」


「・・・ヤダ。」


「却下。それじゃあいくよ。」


バシィィンッ


「いっつ・・・」


「今日何が悪かったんだか言ってみなさい。

夜須斗君の聞いてたんだから、わかるでしょう?」


バシィンッ バシィンッ バシィンッ


「いったっ・・・うっ・・・うぅっ・・・」


「ほら、お返事は?」


ペチペチ、と軽く叩いて促す。しかし、


「知らない!」


と強気で返す仁絵。

しかし、この様子は先ほどの頑なな様子では全くなく、むしろ・・・


「(なーんや、ほんまはただの駄々っ子やん・・・ 

さっきまであんな無表情しとって・・・
そんなにはーくんがええんかなぁ・・・)」


「あっ、そう。分かった。そんなに泣きたいんだね。」


「っ・・・・」


風丘が平手を高く振りかざす。そして・・・


バッシィィィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィィンッ


「いったぁっっっ!! ふぇっ・・・ったいっ・・・ば・・・バカァァッ 風丘のバカァァァッ」


ついに、リミッターが外れたらしい。


そもそも、あれだけ雲居の平手を耐え抜いて、もう限界だったんだろう。
雲居のお仕置きの途中で、

目の前の風丘の顔を認識したときにすでに涙目だった。


「あんな変態の前でっ・・・泣きたくなかったのにぃっ・・・こんなっ・・こんなのぉっ・・・」


「こら、変態とか言わないの。」


バシィィィンッ


「うぁぁんっ・・・バカッ・・・俺が・・・あんたじゃなかったら謝れないって知っててっ・・・
なんであんなやつに先にやらせんだよぉっ・・・
バカっ・・・バカバカバカバカバカァッ・・・」


さっきまでのはいったい何だったんだ、というくらい

なりふり構わず泣きじゃくる仁絵に、
雲居はあっけにとられ、風丘は慣れたものの、苦笑している。


「・・・まーったく。リミッターはずれたら言いたい放題だねぇ・・(苦笑)。
分かった分かった。後でその言い分は聞くから、とにかく。
今日、何が悪かったの? それ言って、謝らないと終わらないよ?」


バシィィンッ


「ふぇぇっ・・・ケンカっ・・・したっ・・・」


バシィィンッ


「ったぁぁぁっ」


「そう。それから?」


「心配・・・・っかけたぁっ」


「はい、正解。」


バシィィンッ バシィィィンッ バシィィンッ


「いたぁぁぁぁぁぃっ!!」


「あと、光矢のこと『変態』とか『あんなやつ』とか言わないの。いい?」


バシィンッ


「あぁぁっ・・・わ、分かったっ」


「はい、じゃあごめんなさいは?」


バシィィンッ


「うわぁぁんっ ごめんなさぃっっ」


仁絵が謝罪の言葉を叫ぶと、風丘は平手を止め、仁絵を抱き起こした。


「はい、よくできました。(ニッコリ)」


「・・・・・・・・・・」


「・・・・?」


「・・・・・・・」


無言で風丘を見つめる仁絵。

風丘は一瞬意味が分からず首をかしげる。
が、すぐに意味が分かり、クスッと笑った。


「あー、分かった、だっこね! はいはい、おいで~」


「はぁ!?」


「ふぇ・・・・バカァァァァァッ」


あまりのことに声を上げて驚く雲居。
かくいう仁絵は、

雲居を追い出してからしてくれればよかったのに・・・と思いつつ、
それでも誘惑には勝てなくて、風丘に抱きついた。


「バカ・・・あいつにばれたじゃん・・・」


「いずれはばれるでしょうに。このペースで悪さしてたら。」


「こいつのところに連れてこられるなんて・・・

想定外だったんだよ・・・」


「だって怪我してるって思ったから。」


「あの程度で・・・怪我なん・・・て・・・しないよ・・・」


「こら、あの程度って・・・あれ?」


寝息を立てて、コロッと寝てしまった。

それを見て、雲居がため息をつく。


「これ・・・ただの赤ん坊やん・・・」


「そんなこと言わないの。難しいんだから。いろいろと。

・・・なんかお父さんと上手くいってないみたいだしね・・・。
今度話してみようかな・・・。」





この後、日付が変わったくらいに、

仁絵と、廊下で待ちながら寝ていた夜須斗を起こし、
家に送り届けた。


夜須斗の家では雲居が夜須斗の祖父を何とかなだめすかし、

仁絵の家では、風丘が運良く・・・なのか、

今日帰ってきていない父親の代わりに、西院宮に事情を話し、
ひとまずこの事件はなんとか落着したのだった。