(惣一視点)

「今日からうちのクラスに入ることになった、

柳宮寺 仁絵(りゅぐうじ ひとえ)君です。」


綺麗な奴・・・

それが、俺のそいつ・・・柳宮寺仁絵の第一印象だった。

ただ、フツーの奴じゃねぇ・・・

そーとーのワルだろう、ってことも想像はついた。
全身校則違反だ・・・・

いや、俺もそんな感じだけど、俺なんかを軽く超越してる。

耳にピアスあいてるし、シルバーアクセつけまくり。
転校初っぱなにすでに学ランのボタンは飾りボタンに変わってるし、っていうか

ボタンを1つも閉めてない。
学ランは羽織ってるだけで、

下に着てるシャツはワイシャツなんかじゃなくて派手なパンク系のTシャツ。
ベルトだって派手な飾りのついたキラッキラのやつ。
極めつけは・・・・髪の毛。

肩につくぐらいの髪は、ワックスとかは一切つけてなくて
女子もうらやましがるだろうくらいに風になびく感じのサラッサラヘアだけど・・・
色はいかにも染めました、って感じの見事なまでの金髪。

外人でもそうはいねぇってくらい。
そこらの不良だって、

中学生だと染めるっつったら金髪と茶髪の中間ぐらいにするんだけど、
こいつはほんとに、『金』っていうのにふさわしい色。
まぁ、ものすっげぇ女顔の美人なせいで似合ってるんだけど・・・・


・・・・・っていうか、俺こいつどっかで見たことある・・・? 

名前も聞いたことが・・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「仁絵君? 自己紹介しないのー?」

「・・・・・」


うわ、風丘に睨みきかせてるよ・・・・あいつにそんなのきかねぇって。
ってかほんと、誰だっけ・・・・柳宮寺・・・柳宮寺・・・・


「まぁ、しないならいっか。

みんな、適当に聞きたいことあったら聞いて、仲良くなってね。んじゃ席は・・・・・」


「仁絵!?」


遅れて教室に入ってきた夜須斗が声をあげた。


「夜須斗君、どこ行ってたの?」

「・・・トイレ。」

「・・・・まったく。ほら、じゃあ席着いて。

あ、この子、転校生の柳宮寺仁絵君ね。なんかお名前知ってたみたいだけど。」

「なんだ、ここ夜須斗のクラスなわけ。」


・・・・・え? 知り合い?


「お前・・・転校って・・・・天凰学園(てんおうがくえん)どうしたんだよ?」

「乱闘起こして退学処分。

今まで親父が権力乱用で無理矢理停学に変更させてたけど、
親父に愛想尽かされてほっぽり出されたんだよ。」

「お前なぁ・・・・・」

「別に。あんだけやって退学になってなかった今までがおかしいだろ。
俺はもともとあんな坊ちゃん嬢ちゃんの巣窟ごめんだったから好都合。」


天凰・・・天凰・・・・・・・あーーーーーーーーーーーーーっ!!


「お前・・・・『天凰の女王様(クイーン)』!」


思い出した。

ここらの中学じゃ喧嘩最強の筋金入りの不良。
中1・1学期にしてここらの中高生不良のトップだったってことは
俺みたいなちょっと不良かじってる奴らなら誰だって知ってることだ。

そいつの女顔で綺麗すぎる顔立ち、
金髪をなびかせて息も乱さず、

あっさり1人で10人の高校生不良たちを倒すその華麗さ、 
相手へのデカすぎる態度・・・そんなのから奴についたあだ名。

それが『女王様』。または『クイーン』。
出身校が名門私立天凰学園っていう珍しいやつだったから、

学校名もつけてよく『天凰の女王様(クイーン)』と呼ばれていた。


「気安く呼ぶんじゃねぇよ。俺はそうやって呼ばれんの好きじゃねぇ。」


俺がその通り名を叫んだ瞬間、

女王様・・・仁絵はキッと睨んで低い声でそう言った。


「夜須斗君・・・柳宮寺君と知り合いなの?」


洲矢が夜須斗に聞く。

そういえば夜須斗、こいつの名前知ってた・・・・


「ああ・・・・・俺の従兄弟。」


「「「「「ええええええええええええっ!?」」」」」


マジで!? 俺達を始め教室中が騒然とする。風丘もびっくりしてる。


「そうなの!? 知らなかったよ・・・・。」

「こいつの母さんが俺の親父の妹。な。」

「・・・ああ。・・・・ねぇ、あんた。俺の席、夜須斗の隣で。」


風丘に言い放ってる・・・・

おい、夜須斗の隣って・・・・・・・俺いるし!!


「いや、俺いるんですけど!」

「どけよ。」

「はぁ!? 端が空いてるだろ、そこ入れよ!」


うちのクラスは縦6列横6列で机が並んでんだけど、

今は仁史がいなくなって34人だから、
最後列は仁史が座ってた席と

廊下側の一番端の席が続いて2つ空いてる机があるんだ。

あ、うちの学校、机が36もともと並んでて、

席替えとかは体だけ移動する、って形式なわけ。

ちなみに、一番後ろの列はそこ以外つばめ、洲矢、俺、夜須斗の順に座ってる。
夜須斗は今一番窓際に座ってるから、隣っつったら俺の位置しかいない。
にしても・・・・


「空いてんだったらお前がそこに動けばいいだろ。」


こんのでかい態度・・・・マジで女王様気取り。

風丘がいなきゃぶん殴ってる・・・


「あーあ、2人ともストップストップ。

仕方ないなぁ・・・つばめ君。2つずれて廊下側の端の列まで動いてもらえる?」

「えっ? いいよ。別に。」

「はーい、後ろの4人、つづいて2つずつずれて。

そしたら惣一君どかさなくても夜須斗君の隣がもう一つできるでしょ?
仁絵君はそこ入って。」

「・・・・どーも。」

「結局俺動くんじゃねぇかよ!」

「まぁ、夜須斗君の隣は確保してるじゃない。隣が良かったんでしょ?」


にっこり言うなにっこり! っていうか別に夜須斗の隣が良いってわけじゃ・・


「へぇ~ ラブラブなんだ?」


こいつ・・・・・っ!

俺はついに殴りかかろうとした。

少し尻が痛くなろうとぶん殴ってやる。そう思った・・・・はずなんだけど。


「惣一君!」


大声で呼ばれた。モーションを止めて振り返ると・・・・


「お部屋に行きたい?」


満面の笑みの風丘。

でもその笑いにはさっきと違ってどす黒いオーラが見える・・・・・。
思わず振り上げてた拳を下ろしちゃってる。

・・・すり込まれてるなぁ、俺(泣)。


「クスッ・・・・・意気地無し。」


こいつ・・・・・っっ

後でぶっ殺す!! 

ってか綺麗すぎる笑い方が逆に見下されてる感満載でむかつく!


「よし、じゃあ授業始めるよ~ 

教科書40ページの・・・・・・・・・・仁絵君、足を下ろしなさい。」


・・・・・・・・ゲッ! こいつ今度は机の上に足のっけて組んでるし! 

俺でもここまでする勇気は最初っから無かった・・・


「おい、いい加減やめときなって仁絵。

風丘なめてたら痛い目みるよ。」


夜須斗が見かねて注意する。

そりゃあそうだ。普段の俺らがこんなことしようものなら即部屋行きだ。
いや、部屋行きだけならまだいい。定規なんかも確実だ。


「・・・何。夜須斗までセンコーの言うこと聞く

良い子ちゃんに成り下がったわけ?」


夜須斗の忠告に、仁絵はかったるそうに足は下ろした。

風丘もそれを確認して板書を始める。
でも、すぐにこの女王様はそんなふざけたこと言ったんだ。


「あのさぁ。俺はお前の為を思って・・・・」

「ふーん・・・・・俺の為を、ねぇ・・・・」

「お、おい、仁絵お前っ・・・」


シュッ


「風丘!」

「?・・!! ったぁっ・・」


ドゴッ

カシャンッ



瞬間だった。

夜須斗が顔色を変えたのは、

仁絵が社会の教科書を振りかぶって風丘にねらいを定めてたからだった。
しかも、モロ頭を狙って。

そして、風丘が板書の説明をしようと振り返った瞬間を狙って投げやがった。
絶妙なタイミング。

さすがの風丘も避けきれず、眼鏡もろとも顔の左側に当たった。
当たった瞬間、風丘の眼鏡は衝撃で床に落ちた。


「だっさ。やっぱフツーのセンコーと変わんねーじゃん。

夜須斗が従うくらいだから、どれほどの奴かと思ったら。」


またあのむかつく綺麗な笑みを浮かべながら、

立ち上がって顔を押さえてる風丘に近寄る柳宮寺。

つーかいくら風丘でもよけられるわけねーじゃんあんなの!!


「ねぇ、叱らないわけ? 怒鳴ったらいいよ。

めちゃくちゃ怒ってるんでしょ?」


すげー挑発。風丘はそのまま立ってるだけ。

そして、次の瞬間、こいつはとんでもないことをしでかした。


「ねぇ、なんとか言ったら? 

センコー嫌いの夜須斗まで丸め込んだスーパー先生サマ?」


グシャッ


「「「「「!!!!」」」」」


クラスが騒然となった。

こいつは・・・・柳宮寺仁絵は、床に落ちた風丘の眼鏡を踏みつぶしたんだ。
その綺麗な笑顔のまんまで・・・・

おっそろしい奴だ・・・命惜しくないのか?(汗)


ダンッ!!


「「「「「!!!!」」」」」


クラス中がビクついた。風丘が教卓をぶっ叩いたんだ。


「・・・・・・今日は自習。」


それだけ言って風丘は教室のドアを開けて出て行こうとした。
そしたら、命知らずで怖い者知らずなこの唯我独尊女王様は笑って言った。


「叱らないんだ? 残念。」


その俺らから聞いたら自殺宣言みたいな言葉に

風丘は少し立ち止まりはしたけど、
そのまま行っちまった。

残されたのは呆然としてる俺らクラスメイトと、

満足そうに笑ってる女王様だけだった。








(視点チェンジ)


その後の風丘はというと、雲居のいる保健室に来ていた。


ここまでの経緯を説明する。


「『天凰の女王様』か・・・・ 

どこのどいつか知らんけど、ずいぶんと命知らずなやっちゃなぁ・・・。
一丁前にはーくん挑発するて・・・・ってか眼鏡予備あったん?(苦笑)」

「うん。一つ学校においてあったんだよね。」

「さよか。にしてもはーくんよぉキレへんかったな。

俺やったらそないなことされたらその場で一発はぶん殴っとるで。」


雲居は眉をひそめる。


「危なかった。感情的になって・・・・怒鳴って、

その場で乱暴な行動をしようとする一歩手前までいってたよ。
何とか押し殺したけど。

だってそれじゃ『お仕置き』できないじゃない?」

「『お仕置き』は感情的になったらあかん、ってか。」

「うん。難しいけどね・・・・・。」

「で、その女王様のお仕置き、どうするん?」

「転校初日だし、いろいろ大目に見てあげようかとも思ってたんだけど・・・・

なんかあの子、それじゃあダメみたいだから。

最初が肝心、ってことで徹底的にやる。」

「ああ、それがええな。

そういうタイプの奴になめられると後がやっかいになるさかい。」

「うん。だから光矢・・・・『靴べら』貸して。」


風丘は雲居から、

かつて夜須斗たちを泣かせたこともあるあの『靴べら』を受け取って、

保健室を出て行った。