「ほんで・・・同じ部屋でやるか? 

それとも俺らは保健室行くか?」


雲居が惣一とつばめに尋ねる。

とたん、2人はブンブンと首を横に振った。


「や、やだよ! いくら今日は雨澤先生がいない日だからって・・・・」
「音丸聞こえじゃんかよ、誰かが来るカモだし・・・」


雲居は、特に女子生徒に

「おもしろくてかっこいいお医者さん」として人気があり、
雲居が保健室当番の日は、

怪我をして無くても女子がおしゃべりなどにひっきりなしにやってくるのだ。
雲居は、特に具合の悪い生徒がいたりしない場合は、

そういうのを許していた。

今は放課後といえ、

そういったことから考えれば生徒が来る可能性も0ではない。
そんなところでお仕置きをされるなんてまっぴらだった。


「ほな、ここで一緒にやるか。

はーくん、待ってる間は正座でええか?」

「そだね。最初にやった2人は

そのぶんお尻出して立ってる時間増やして、帳尻合わせれば。」

「ええっ!? 今日お仕置き終わった後立たされるのぉ!?」

「しゃあないやん、4人もおんのに俺ら2人なんやから。」


つばめが文句を言うが、雲居にシャットアウトされる。


「せやな・・・・ほな、つばめからや。

惣一は正座。

ああ、ソファは俺が使うから床な。

ソファの前で、背向けて・・・せや。」

「じゃあ、こっちは佐土原からね。

ああ、俺らはピアノの椅子でやるよ。

吉野は、ピアノの椅子に背向けて正座。」


二人の指示を聞いて、洲矢は風丘が座ったピアノの椅子の傍らに立ち、

夜須斗はその近くの床にさっさと正座をする。


「ん、良い子。でも、怒ってるからね。じゃあ、やるよ?」


素直に来た洲矢の頭を軽く撫でると、風丘は洲矢を膝の上に引き倒す。


「ひゃっ・・・」


まだお仕置きに慣れない洲矢は狼狽えて声を上げた。

そんな洲矢の光景に釘付けになり、

つばめと惣一はまだ行動に移せない。


「ほら、お前ら何突っ立っとんねん。

見られてる洲矢の気持ちになってみ。とっととつばめは膝乗れや。
惣一は正座。聞いてなかったんか?」


しびれを切らして雲居が少しトーンの低い声で言う。

さすがに二人はやばい、と思ったのか
渋々つばめは雲居の膝に乗り、惣一は正座をした。


そんなこんなをしてるうちに、洲矢のお仕置きが始まった。


バシィッ


「んっ・・・・」

「なんで勝手に野良猫を学校で飼うなんて始めたの?」


バシィィンッ


「ったぁっ・・・・」

「ばれたら辛いのは佐土原たちなんだよ?」


バシィィンッ


「あぁぁっ・・そ、それは・・・・」




バッシィィィンッ


「うわぁぁぁんっ 痛いぃっ」

「痛いんは当たり前や、叩いてんやから!」


バシィィィンッ


「いったぁぁぃっ なんでよっ 僕放そうって言ったのに洲矢がっ」

「!!」


大声で叫んで抵抗するつばめの声。

その中に「洲矢」と自分の名前が出てきて、

風丘の膝に乗った洲矢はビクッと反応した。


「佐土原が・・・何?」


風丘が洲矢のその様子を見て、つばめに問いかけた。


「僕は放そうって言ったのっ・・・

でも洲矢が一度拾ったのに捨てるのはかわいそうで無責任って・・・」

「せやからって言いなりになったんやったら

それはただの言い訳やな。」


バッシィィィンッ


「うわぁぁぁんっ!」




「で? 佐土原。それはほんと?」

「・・・・はい。」


バッシィィィンッ


「ひゃぁぁぁっ」

「確かに捨てちゃうのはかわいそうだけど・・」


バシィィンッ


「いたぁぁぃっ」

「この後ちゃんと飼える保証もないのに

拾って、育てるのも無責任な行為だよ?」


バシィィィンッ


「うぁぁぁっ・・」

「その後結局放さなきゃいけなくなったりしたら、どうするの? 

お互い辛いでしょ?」


バシィィンッ


「あぁぁっ・・・うっ・・ふぇ・・・・どうすればいいかわかんなくってっ・・・ふぁ・・」

「一言相談欲しかったよ。

勝手にやられたらこっちもどうしようもないんだもの。」


バッシィィンッ


「うぁぁぁんっ・・・・ご、ごめんなさいっ・・・ふぇぇ・・・

勝手にこんなことしてっ・・・ごめんなさいっ・・・」

「はい、OK。じゃああと10回。

暴れちゃダメだよ・・・って佐土原は暴れないか。」

「・・・・はい・・・」
              

バシィンッ  バシィンッ  バシィンッ  バシィンッ バシィンッ
バシィンッ  バシィンッ  バシィンッ  バシィンッ バシィンッ


「ふぇぇぇぇぇんっ」

「はい、おしまい。洲矢。よく頑張りましたっ」


風丘が優しい笑顔で洲矢を抱き起こす。


「先生・・・・痛いっ・・・」

「あー・・・冷やさなくっちゃね・・・

吉野、正座いったん解いていいから、冷凍庫に入ってるタオル出してくれる?」

「・・・冷凍庫にタオルなんて入れてんの?」

「うん、常備品♪」

「・・・・・・・・」


夜須斗は顔を引きつらせながら、

正座をといて冷凍庫付きの冷蔵庫のもとへ行く。


「ずりぃよ夜須斗・・・」

「新堂は、そのまま立って冷蔵庫まで歩けるの?」

「えっ・・・・うっ・・・・それはっ・・・・」

「痺れて立つのだってまともにできるか怪しいんでしょ。

自分ができもしないのに安易にうらやましがったりしないの。」


風丘は苦笑しながら惣一を注意する。


「ああ、洲矢君。

ソファー使ってるから、どうしよ・・・床にうつぶせでいい?」

「はい、大丈夫です。」

「はい、タオル。」

「ありがと。

じゃあ、洲矢君・・・ 俺ちょっと休憩するから。

吉野のお仕置きが始まったら、冷やすのやめて、

お尻出して立つんだよ?」

「・・・はい。」


洲矢はまだ潤んだ目でちょっと無理してニコッと笑って、

風丘の膝から降りると、トコトコと歩いて、
少し離れた床にうつぶせになって自分でタオルをお尻にのせた。



そんな風丘の洲矢へのお仕置きが行われている一方で、

もう1つ。ソファーは大騒ぎだった。


「やだぁ!」

「やかましい!」


バシィィィンッ


「ふぇぇっ 放してよっ ヤダヤダヤダ!」


つばめは全力で暴れている。

それを、雲居が全力で押さえつけているから2人とも必死だ。


「僕悪くないのにぃっ」

「せやから一緒にのったお前も同罪や言うてるやろ!」


バッシィィィンッ


「ふわぁぁぁんっ なんだよ光矢のバカっ バカバカバカ! 

鬼畜眼鏡! 大っ嫌い!」

「はぁ? お前なぁ・・・・ そんなん言うのもたいがいにせぇよ・・・・」


つばめの数々の暴言に、ついに雲居がキレた。

雲居を怒らせたらどんなに恐ろしいか身をもって知っている夜須斗は、
その光景を見て(あーあ・・・・)と心の中でため息をついた。


「人にばっかり責任押しつけるわ、逆ギレして八つ当たりするわ・・・

そんなんしてる奴、俺は絶対許さへんからな!」


バッシィィンッ バッシィィンッ バッシィィンッ


「うわぁぁぁぁぁぁぁんっ!」


雲居の手加減なしの3連打に、

つばめは火がついたように泣き出した。


「なんでっ けほっこほっ・・ なんでぇっ・・・・」


向こうでは洲矢がもうすでにお仕置きを終えて床にうつぶせになっている。
洲矢が言い出したのに・・・ 洲矢の方が・・・ 

なのに自分の方がお仕置き厳しいなんておかしい・・・
そう思えてしまって、それがなんだか悔しくて、

つばめはなかなか反抗的な態度を崩せずにいた。


「なんでやとぉ? お前が暴言ばっか言うて、反抗的やからやろ! 

反省のかけらも見えへんわ!」


バッシィィンッ


「ああああぁぁっ! ふぇぇっ・・・ひくっ・・・ひっく・・・」

「あーあ、なんだかすさまじいね・・・・・」


見かねた風丘が、洲矢の元へ歩み寄る。

しゃがんで、真っ赤に泣きはらしたつばめの目を見つめて言った。


「納得できないんでしょ。 

洲矢君の方がお仕置き軽い、って思っちゃって。

それで、悔しくて、反抗的になっちゃうんだよね?
でも、洲矢君のお仕置きが太刀川より軽いのは、

素直な態度でお仕置きを受けたからなんだよ?
言い訳しないで、ちゃんと反省してるのを態度で示したから。

太刀川だって出来るでしょ?」

「ふぇぇっ・・・風丘っ・・・・」

「素直じゃないねぇ、太刀川。

新堂とのケンカの時もそうだったじゃない。泣き虫なくせに。
ほら、お尻も目ももうすっごく真っ赤だよ。

早くごめんなさいって謝っちゃいな。
ほんとは、自分も悪いって思ってるっちゃ思ってるでしょ。」


風丘はそう言い終わると、立ち上がり、

雲居に「続けて。」と目で促した。


「謝って反省せんと終わらへんからな。」


バシィィィンッ


「ふわぁぁぁんっ ご・・・ごめんなさいっ!」

「・・・・・ええやろ、もうこんな真っ赤になって叩くところがあらへんわ。
ほら、早よ尻出して立ってろや。洲矢も! 冷やすの終わりやで。」

「あ、はい・・・・」


「なんでぇっ!? 僕、冷やしたい・・・」

「あー、しょうがないね、

俺、休憩っていうかつばめのお仕置き終わるの待ってただけで・・・

ああ、でもちょっとかわいそうか・・・」


風丘は苦笑して、


「洲矢君。ちょうど5分ぐらい冷やしてたよね? 

つばめ君にそのぶんだけ冷やす時間あげてもいい?」

「はい、もちろん。」

「・・・・洲矢ぁ・・・・ありがとっ! やっぱり洲矢最高!」

「わぁっ! もう、さっきまで全部僕のせいにしてたくせに・・・」


つばめが洲矢にとびついた。

お仕置きが終わり、仲直りしてほんわかしているこちらの2人。


そしてもう2人は・・・・


「ハァ・・・・ほら、俺らの番だぞ。」
「もう立てねぇよ・・・・」


地獄の時間が始まろうとしていた・・・