「「き、霧山!?」」


「お久しぶりですねえ、お2人とも。

いろいろ聞きたいことがあるんですが?」

「へっ? な、なんのこと・・・? 

つーか、なんで霧山が雲居んちに?」


惣一が冷や汗を流しながら答える。


「聞いてませんでしたか? 光矢に。

僕が昼食を作るように頼まれてたんですよ。」


「「えええええええっ!?」」

「頼んであるって・・・その頼んであるだったんスか!? 

フツーにデリバリーのピザとかかと思ってたし・・・」


と仁史。


「いつもは亜輝羅君の面倒を見るのは僕の仕事なんですよ。

だから亜輝羅君とももちろん顔なじみです。
今日は午前中に少し用事が入ってしまったから、

それまで誰かに頼めないか、って光矢に言ってあったんです。
・・・・・まぁ、とにかく、リビングに来てもらいましょうか?」






(逆らえないから)言われるがままリビングに行くと・・・


「「・・・・・・・・」」


そこはひどい状況だった。

インテリアとして置かれていた絵皿や花瓶が倒れて、

ひどいものは割れているし、
花瓶の水も零れて床には水たまりが出来ていた。


「な、何だよこれ・・・・」


「聞きたいのはこっちです。

まぁ、これの片付けは後で。こっちに来てください。」



そう言うと霧山はリビングに置かれたソファーに座ると、

自分の前に惣一と仁史、そして亜輝羅を立たせた。


「さぁ、じゃあ一つ一つ聞きましょうか。

まず、リビングをこんなめちゃくちゃにしたのは誰ですか?」


その問いに答えたのは、亜輝羅だった。


「ふぇ・・・僕・・・・」


「じゃあ亜輝羅君に聞きましょう。

どうしてこんなことになったんですか?」


「ボールで・・・遊んでたら・・・ふぇ・・・

ボールが飛んでっちゃって・・・お皿とか割れちゃったぁ・・・」

「ふぅ・・・『割れちゃった』じゃなくて

亜輝羅君が『割った』んでしょう?」


霧山に問いつめられて、

亜輝羅は半泣きで小さくコクリと首を縦に振った。


「だいたい、どうして室内でボール遊びなんてしたんですか? 

確か前にも1回やって、光矢に叱られたとか聞きましたけど?」


「だって・・・ふぁ・・・お外・・・雨降ってたしっ・・・

お兄ちゃんたち・・・遊んでくれなかった・・・ふぇぇぇ」


「「!!」」


惣一と仁史は一瞬顔色を変えた。

今までは完全に亜輝羅に非がある、というような話の展開だったが、

これは・・・


「でもそれは言い訳じゃないですか?」


「「(え?)」」


自分たちに話が振られなかったことに対して、2人は拍子抜けした。

だが、何もなくすまされるはずがない。
この場で叱られないというのは

一応年上の面目を保たせようと考えてくれたからか?
いやいや、今叱ったら時間がかかるから後回し、とか?
様々な思いが2人の脳裏を駆けめぐる。


そんな中、霧山のお説教は続いていた。


「亜輝羅君は光矢とのお約束を破って

家の中でボール遊びをして、部屋をめちゃくちゃにした。

違いますか?」

「ふぇぇぇぇん・・・」


「泣いてちゃ分かりません。ちゃんと答えてください。

お約束、破ったんですね?」


「う・・・ん・・・・」


霧山は、亜輝羅の返事を聞くと少し声のトーンを低くして


「なら、お仕置きです。いいですね。こっちに来なさい。」


と言うと、ソファーに座っている自分の膝を叩いた。


亜輝羅はもうすでに涙を流して泣いていたが、

泣きながらも霧山の膝に自分から乗った。


「10回です。しっかり我慢しましょうね。」


惣一たち中学生のお仕置きの回数ならば少ないが、

5歳の幼稚園児の子に対するお仕置きはこれで十分すぎるくらいだ。

ズボンと下着を下ろされ、一発目が当たったときから大泣きだ。


パシィンッ


「ふわぁぁんっ」

「お部屋の中でボール遊びしないってお約束でしたよね?」


パシィィンッ


「ああああんっ」

「お約束を破るからこうやってお尻痛くされるんですよ。」


パシィィンッ


「やぁぁぁんっ」


「分かりましたか?」


パッシィィンッ


「ああああああんっ ひくっ・・・えくっ・・・わかったぁ・・・」


もちろん手加減はしているんだろうが、

それにしても亜輝羅のお尻はほのかに赤く色づいていて、

かなり痛そうだった。

そしてこの光景を見せられている惣一や仁史も辛かった。

2人ともあまり人のを見せられる、という経験が無かったため、
慣れもなく、自分がされているわけではないのに

痛みを感じているようにすら思え、
目をつぶってなるべく別のことを考えるようにしていた。




「・・・亜輝羅君、ちゃーんと反省できましたか?」


霧山が叩いている手を止めて、大泣きしている亜輝羅に問いかけた。


「ふぇぇぇんっ・・・」


だが、亜輝羅は大泣きして嗚咽がひどく、

パニック状態に近くなっているため、なかなか返事ができない。


「お返事しないと分かりませんよ?」


霧山が少し優しく、背中をさすって返事をうながすと、ようやく


「・・・したぁっ」


と絞り出すような声で言った。


「・・・・はい、いいですよ(ニコ)。 

携帯で光矢に電話しますから、

お部屋でこのこと光矢にもちゃんと言って、謝るんですよ。
大丈夫です。そんなに心配しなくても、光矢には僕が叱ったってちゃんと

言ってありますから。またお仕置きされたりはしませんよ。」

「うんっ・・・・」


亜輝羅は霧山に優しい声であやされながら、自分の部屋に行ってしまった。

取り残された2人には重い沈黙・・・

いつもなら逃げようか、とかどうやって少しでも数を減らすか、とか

そんなことを考えるのだが。
今回は、目の前で自分の年の半分以下の子が

お仕置きされたのを見せつけられたのだ。
しかも、原因はどちらかといったら自分たちにあるわけで・・・。
ここで逃げるなんてことは出来ない、

そう思うと、もうおとなしくこれから下されるであろうお仕置きを受ける、

という選択肢しかなくて、気持ちが沈んで、沈黙が生まれてしまうのだった。




しばらくすると、霧山が戻ってきた。

いつのまにか眼鏡を外していて、

さっき亜輝羅をあやしていた温和な表情から一転、
鋭い目つきで、有無を言わさないオーラを放っていた。


「さて・・・・話を聞かせていただきましょうか、お二人とも。」

「「うっ・・・・」」

「君たちは亜輝羅君の面倒をみるために

光矢の家にわざわざ呼ばれたんでしょう?
なのになぜ君たちは部屋でゲームをしていて亜輝羅君は1人、

しかもボール遊びして物割ったり・・・なんてことになってるんですか?」

「それは・・・その・・・俺らゲームに夢中になっちゃって・・・」

「亜輝羅・・・ほったらかしにしちゃったもんで・・・」


惣一も仁史もしどろもどろである。


「光矢が『あいつらのことやから飽きて

亜輝羅ほったらかしにするかもしれんから早めに行ったって。
亜輝羅はほったらかしにされて

長時間おとなしゅうしてられるような奴ちゃうから。』て言われてたんで

お昼のデリバリーをやめてもらって、

食事作りも兼ねて、予定より早めに来たつもりだったんですけどね・・・。
君たちはよく予想以上のことをしますね・・・。悪い意味ですよ、もちろん。」

「悪ぃ・・・」
「ごめん・・・」


今回は、自分たちだけでなく

小さい亜輝羅にまである意味のとばっちりを受けさせてしまったので、
多少の罪悪感もあるのか2人ともしおらしい。
でも、それで許されるはずもなく・・・。


「光矢が帰ってくるのは夜ですし、葉月をわざわざ呼ぶわけにもいきませんしね。
2人まとめてやりますよ、いらっしゃい。お仕置きです。」


2人にとって悪夢のような時間が幕を開けた・・・。










霧山が2人にお仕置きの宣告をして、ローテーブルを指す。

逃げたいが、ここで逃げたら亜輝羅だけがお仕置きを受けて

自分たちは逃げた、ということになる。
そんなことはさすがにできないし、

またそんなことが霧山に許されるはずもない。

2人は覚悟を決めて、霧山が指したローテーブルに手をつく。
頭の位置が下がり、お尻を突き出した少し恥ずかしい格好だ。

だが、ほんの数分後には恥ずかしいなんて言っていられなくなる。


「自分で・・・・下ろすのは酷ですかね。まぁ、いいでしょう。」


霧山がブツブツ言いながら2人のズボンと下着に手をかけ、

そして一気に膝下まで下ろした。


「「・・・・・」」


2人は何回もされていることながら、慣れる事なんてできず、

恥ずかしさで顔を少し赤くした。


「それじゃあいきますよ。」


霧山がそう言った次の瞬間。


ビシィィンッ


「ってぇぇっ!」


ビシィィンッ


「ったぁっ!」


惣一、仁史の順に叩かれた。
そして悲鳴をあげた2人に目もくれず2発目が・・・


ビシィィッ


「うぁぁっ」


ビシィィッ


「いっっ・・・」


次々と振り下ろされる平手。

その間、霧山は終始無言だった。


「(そうだった、こいつの叩き方って・・・・)」


惣一は痛みに声をあげ、

泣きそうになりながら思い出した。

霧山の叩き方は、

手を鞭のようにしならせて、ピンポイントで叩くのだ。
現に、今はお尻の右側の真ん中しか叩かれていない。
そこだけが真っ赤になり、他は普通の肌の色だ。
惣一はこの叩き方が苦手だった。

一カ所しか叩かれないからとにかく痛い。


ビシィィィィッ


「いってぇぇぇっ」


ついに惣一が音を上げた。

10発を少し超えたあたりだろうか。
あまりの痛さに大きな悲鳴をあげ、

手でお尻を抱えてしゃがみ込んだ。

霧山はとりあえずそれを無視して、

仁史に同じぐらいの強さの平手を落とす。


ビシィィィィッ


「うぁぁぁぁっ」


仁史も大声をあげたが、

かろうじて手をローテーブルから離してしまうだけでなんとか耐えた。

しかし、惣一はしゃがみ込んだまま。
それを見て、ついに霧山が口を開いた。


「まだ終わってませんよ。」

「・・・・・・ったいって・・・その叩き方やめろよ・・・」

「・・・・やめろ、ですか? 命令形に聞こえるんですが?」

「・・・・・・・・・・・・やめて・・・・ください・・・。」

「ダメです。」

「・・・・・・・!!(んっだよ言わせといて!!!!)」


惣一は内心キレそうになったが、

ここは長年の(?)経験で口に出してはいけないと、必死で耐えた。

仁史は密かに惣一の成長に感心していた。


「(すげぇ惣一・・・ 昔ならカンペキキレてたのに・・・

つーかサドだな、霧山って・・)」


「君にお仕置きの仕方をどうこう言われる筋合いはありませんよ。

それに、悪いのは約束を破った君たちでしょう?」

「・・・・・・・」

「あれだけ葉月に叩かれてきてるのに、

一向に我慢できないんですね。」

「・・・・・・だって痛ぇし・・・・」

「痛くしてるんですからね。気持ちよくしてるわけじゃなし。」

「・・・・・・・・・・・」

「じゃあ、仁史君を待たせるのもなんですし、仁史君は仕上げにしましょう。

残り5発。一発ごと自分で声を出してカウントして、
最後に「ごめんなさい。これからは約束をちゃんと守ります」と

言えたら終わりです。
惣一君、君には選択肢を与えます。

仁史君のあと、僕から仕上げの5発同様にを受けるか、

残りは光矢にやられるか。
仁史君のお仕置きの間に考えてなさい。」

「「なっ・・・」」


2人はその内容に絶句した。

叩かれ、謝る上に数のカウント。しかもやらないと終われない。
この様子では、声が小さかったりしたらやり直しだってありうるだろう。


「さあ、じゃあ仁史君。いきますよ。」


霧山が声をかける。そして・・・


ビシィィンッ


「うぁぁっ い・・・いち。」


ビシィッ


「ってぇぇぇっ ・・・・・に!」


ビシィィィンッ


「ぎゃぁぁっ」

「ほら、数えて数えて。」

「・・・・・さん・・・」


緩急をつけた叩き方。それでも叩く場所はピンポイントに一カ所だけ。

本当に痛くて痛くてたまらない。


ビシィィンッ


「ひゃぁぁっ よ・・・・よん・・・」

「はい、最後ですね。」


ビシィィィィンッ


「うぁぁぁぁぁっ!! ・・・・・・・・ご・・ご!」

「それで?」

「あ・・・・ご、ごめんなさい・・・・これから・・約束守る・・・・」

「はい、お疲れさまでした。いいですよ。

冷蔵庫に冷やしたタオルが入れてありますから、

それで冷やしてくださいね。」


仁史は目に涙を浮かべながら、ズボンをあげてキッチンの方まで駆けていった。


「さて・・・・で、どうするんですか。惣一君。」


これは究極の選択だ。

だが、結局惣一の下した決断は・・・・


「・・・・あんたで・・・いい。」

「そうですか。じゃあ、手をついてください。」


惣一は言われたとおりの体勢になる。

このあたりは風丘に叩かれた経験のおかげで早い。


「仁史君と同じように、ですね。いきますよ。」


ビシィィッ


「ったぁぁぁっ ・・・いち。」


ビシィィィンッ


「ああああっ! ・・・・に、にぃ・・・・」


ビシィィン


「ひゃぁぁっ ・・・・さん・・・」


ビシィィィンッ


「あぅぅぅっ ・・・・よん・・・」


ビッシィィィィィンッ


「いったぁぁぁぁぁっ!」


「ほら、最後なんですよ。回数と反省の言葉は?」

「・・・・・・・・・・」

「言えないんなら・・・」


霧山がもう一発叩こうとお尻を撫でた。すると惣一は慌てて


「ちょ、まっ、分かった、分かったよ! 5! 

あと・・・・・えと・・・ご、ごめんなさい、・・・・・・・・これからは約束守る・・・・」

「何がごめんなさいなんや?」

「え・・・・? ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁぁっ!」

「何そんなびっくりするんや。ここ、俺らの家やで?」


そこには、帰ってきた光矢と姉の灯が立っていた。


「ああ、光矢。早かったですね。」

「ちょっと予定早まってな。

それよりはよ下ろしたり。もう終わりなんやろ?
亜輝羅かて悪いんやから、もうええて。」

「ああ、惣一君、そういうことでもういいですよ。

仁史君のところに行ってください。」

「・・・・・ああ。」


惣一は灯に見られて

顔を真っ赤にしながらキッチンの方へと走っていった。



「もりりん、お疲れやったな。まぁ、ある程度予測してたこととはいえ。」

「ほんとですよ。亜輝羅君も含めたら3人連続なんて初だったんですから。」

「ごめんなさいね、亜輝羅がやんちゃだから・・・」





このあと灯が手料理を振る舞い、3人の機嫌はすっかり直っていた。