鳥学会2006年度大会でのツバメの研究発表 びっくり新発見! | ツバメブログ

鳥学会2006年度大会でのツバメの研究発表 びっくり新発見!

9月16~18日、盛岡市の岩手大学で鳥学会が開催されました。今年はツバメの研究発表が3題あったので、その要約をお伝えします。

■ツバメの営巣に影響を与える景観構造 (リングフォーファー萌奈美、藤田剛、樋口広芳)

ツバメネットも協力している、石川県の小学校で35年間続けられているツバメ調査(石川のツバメ総調査)の記録分析です。この記録から分かることはたくさんあると思いますが、今回は第一弾の発表で、1988年の記録を対象に、どのような環境の場所にツバメの数が多いかという分析でした。

一気に結論を言いますが、水田、住宅、牛舎、そしてツバメの多い場所の近くほど、ツバメが多いという結果でした。初めの3つは巣場所や餌場なので、確かに納得がいきます。

「ツバメの多い場所の近くにはツバメが多い」というのは、言葉が堂々巡りしているみたいなので、具体的に書きますね。

今回の分析は市を単位としてデータを集計しているのですが、ツバメが多い市の隣の市にもツバメが多い、という結果になったのです。その理由は「ツバメが多くいる場所ではヒナがたくさん生まれるので、そのヒナが分散したり、成鳥も近くに移動したりして、ツバメの数が増える」のではないかと考えているそうです。今後は、さらに学校区単位で詳しい分析を進めたいということでした。


■ツバメ雛のbeggingが親の給餌に与える影響 (北村亘、藤田剛、樋口広芳)

begging=ベギングと読むんですが、エサをねだってピーピーバタバタすることです。

千葉県富津市にあるツバメの巣をビデオで撮影して調べたところ、ベギング回数が多い巣ほど親ツバメがエサを持ってくる回数が多く、さらにベギング回数が多いヒナほどたくさんのエサをもらっていたと言うことです。


■日本のツバメは喉が赤いほど性選択上有利 (長谷川克、新井絵美、渡辺守、中村雅彦)

これは大発見だと思います。少なくとも私にとっては、自分の「常識」をひっくり返された感じがしました。

少し長くなりますが、はじめに性選択という言葉の説明をします。

性選択というのは、ある外見的な特徴が結婚相手選びの基準になることで、世代を経るに従ってその特徴が強められていくことを言います。性選択の例として、雌クジャクが尾羽の派手な雄を選ぶせいで、雄クジャクの羽が派手になったという話を聞いたことがある方はいないでしょうか。人間でも、男性の髭や女性の乳房などが本来の機能と関係ないのに発達しているのは、異性から選ばれることでその特徴を持つ人ほど多くの子孫を残し、結果としてその特徴を持つ人(そして、その特徴を好む人)の遺伝子が広まったためではないかと考えられています。

性選択によって体の特徴が選ばれ、その特徴が発達していくには、その役立たずで表面的な特徴とセットになった役に立つ能力が必要です。尾羽のきれいなクジャクは、そうでないクジャクに比べて、病気に強いとか、逃げ足が速いとか、外からは見えない優秀さがあり、尾羽の美しさが内面の優秀さの印になっているのだと言われています。もっとも、「尾羽のきれいな雄が好き!」という嗜好が定着してしまえば、内面の優秀さとは関係なく見栄えのいい雄が選ばれ続けるので、現在生きているクジャクで、尾羽の見栄えがいいものの方が優秀かどうかは分かりません。少なくとも、大昔にそのような傾向がスタートした頃は、尾羽がやや派手な雄の方が内面的にも優秀であったと思われます。

ほとんどの鳥は、雌が雄を選びます。ですから雄は、色がきれいだとか、歌がうまいとかいった特徴で雌を引きつけ、そして雌を引きつける雄は多くの子孫を残すので、その特徴の遺伝子が広まっていくのです。

では、そろそろ本題に入りましょう。じつはツバメの雄の尾羽が長いことも、雌がそういう雄を好むせいであることが分かっています。いや正しくは、私はそう分かっているのだと思い込んでいました。雄ツバメの尾羽を切って短くすると結婚できる率が下がり、逆に別のツバメから切り取った尾羽を付けて尾羽を長くしてやると、結婚率が上がるという外国(たぶんヨーロッパだったかと思います)の実験があったのです。そして尾羽の長いツバメは雌に好まれるだけでなく、実際に繁殖成功率が高いため、尾羽が長いことは強い雄である目印になっていると言われていたのです。

ところが長谷川さんたちが新潟県上越市で調査したところでは、喉の赤い部分が、より濃く、より大きな雄ほど早く繁殖を開始したということです。さらにそのような雄は、そうでない雄よりも二回繁殖することがずっと多かったのです。ツバメの雄の繁殖の優秀さは、尾羽の長さよりも、喉の赤さと大きさとに関連していたというわけです。

そして日本の雄ツバメの喉の赤い部分の大きさは、ヨーロッパのツバメに比べて二倍以上大きく、一方、尾羽の長さはヨーロッパの雄ツバメより短いそうです。これはヨーロッパと日本では、雌ツバメに好まれる雄ツバメの見かけの特徴が違っている可能性を示唆しています。

来年、みなさんのお宅にツバメがやってきたときは、喉の赤い部分の濃さと大きさを見てください。その部分が立派な雄ほど、たくさんのヒナを育てるはずです・・・と言いたいところですが、どうやって計ればいいのでしょうね。写真にとって、近所のツバメと比べてみましょうか。