映画『長崎ぶらぶら節

◆監督:深町幸男

◆脚本:市川森一

◆キャスト:愛八…吉永小百合、古賀十二郎…渡哲也


【解説】

長崎・丸山を舞台に、無償の愛に生きた芸者の人生を描く文芸ロマン。

監督は、本作が映画初監督作となるTV『あ・うん』の深町幸男。

第122回直木賞を受賞したなかにし礼による同名小説を、「異人たちとの夏」

の市川森一が脚色。主演は、「時雨の記」の吉永小百合と渡哲也。

【あらすじ】

日本三大花街のひとつと言われた丸山の遊郭に売られておよそ40年、

長崎一と言われるまでの名芸者となった愛八は、その気っぷのよさから

誰からも慕われていた。

ある日、彼女は五島町の大店・万屋の十二代目で、長崎でも指折りの

風俗研究の学者・古賀と運命的な出会いを果たす。学問を極める為なら、

財産を使い果たしても構わないと考えている古賀。そんな古賀の頼みを

受けて、愛八は長崎に伝わる歌を探し記録する旅に同行する。

旅は約二年間に渡り、やがてふたりの間に特別な感情が芽生えるが、

決して肌を重ねることはなかった。旅の終わり、ふたりは長崎ぶらぶら節

という歌に出会う。それは、愛八にとって想い出の歌であった。彼女が

遊郭に売られる時、女衒の男が歌ってくれた歌だったのだ。

歳月が過ぎ、年号は昭和へ移った。古賀と会わなくなっていた愛八は、

少女の頃から可愛がっているお雪に芸を仕込んでいた。ところが、その

お雪が肺病にかかってしまう。決して安くはない治療費用を捻出する為、

詩人・西條八十の紹介で“長崎ぶらぶら節"をレコードに吹き込み、その

印税を全てお雪の治療費に当てる愛八。今や、お雪は愛八の人生その

ものとなっていた。

お陰でお雪は快復し、お披露目の日を迎える。だが、その席に披露目の

資金を提供してくれた古賀が招待されていることを知った愛八は、決して

顔を出そうとしなかった。

彼女は、古賀への想いを一通の手紙に認めると、参詣した身代わり天神

の境内で息絶えるのであった。


何故か急に観たくなり、昔録画したビデオテープを引っ張り出してきました。

私の好きな日本映画のうちの1本で、録画して以来これで3回目の鑑賞と

なります。


着物、三味線、長唄…日本文化のしっとり感、日本女性の背筋の通った

生き様が感じられる映画です。映画の見所の1つに、吉永小百合さん

が“土俵入り”を披露する場面がありますが、吉永さんはこのシーンの為に

『雲竜型』の稽古をしっかりされたそうです。



今の男女の関係や恋愛感からは共感しにくい部分もあるかも知れませんが、

女性が惚れた相手を想う気持ちは、時代を超えて一本道だなぁとしみじみ

感じました。女性の愛情は普遍的


この物語は実話を題材にしており、実在の丸山芸者、愛八さんの人物像

としては、


・たいへん義侠心の強い女性で、特に苦労をしている若い人、子供に対して

は身銭を切って援助した。

・宵越しの銭を持たない、江戸っ子気質を持つ芸者であった。  

・角力、海軍好きでもあった。

※長崎で角力の巡業があると愛八の羽織が飛び、かけ声がかからないと

始まらないとさえ言われた。ここでも若い人好きの性格が出て、関取になる

前の若い力士を援助していた。このような縁で、東京大角力協会より木戸

御免のバッジをもらっていた。


ところどころ共感できる気質の方で、結構、私が好きなタイプの女性です。


数年前、偶然近所の図書館で愛八さんが吹き込んだ『長崎ぶらぶら節』他

の復刻版CDを発見しました。その時にダビングしたものを何度も聞き返し

ますが、優しいおっとりした節回しで、本当にホッとする声です。

“古い日本人の声”ですね。


相手を想う気持ちの原点に返りたい時、一度は観ていただきたい一本です。