恩師の言葉 | (白物語)つくものがたり

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勉強したり、喋ったり、遊んだり、出かけたり。

「君はどこに行っても楽しそうだ」

 

 修習先の先生に言われた言葉だ。言われた自分は褒められたのだと喜んだ。確かにどこの修習についても,感想を聞かれたら「楽しい修習でした」と答えている。それが素直な気持ちではある。裁判官の活動も弁護士の活動も始めてみるものばかりで,物珍しさがあふれるのだ。初めて降りた海外の土地を歩いているのと同じ心境である。

 しかし,考えてみると先の言葉は「君は楽しいしか言わないな」というお叱りであったのかもしれない。そう思うと,喜んだというのは間違った対応だったのではないかと少し不安になる。世間の中には楽しくないことだってある。辛い物を食べること,長時間走り続けること,大人数の飲み会に参加すること,どれも楽しくないことだ。昨日はどうだった,と聞かれても,疲れたよ,という感想が勝る。仕事にだってもしかしたらそういうものはあるかもしれない。そういうものを知ることこそが修習の本筋ともいえるのかもしれないのだ。あの仕事は大変だ。あの仕事は楽しくない。だから,働いてる人を尊敬しよう。その苦労を理解しよう。そういう感情に至るのが修習というものなのかもしれない。その点から行くと,自分の感想は十分に修習せずに楽観的な考えで終わっているっだけなのかもしれない。

 

 先の言葉を言われた方は修習先の先生以外に,実はもう一人いる。高校の担任だ。大学に進学後,数年ぶりに挨拶に行ったとき,同じようなことを言われた。高校時代は理系か文系かさえはっきりさせずに勉強していたものだから,それを思い出しての言葉だと受け取っている。

 

 そういえば,似たような言葉でこんなことも言われた。

「怒られている時でも笑っていそうですよね」

 言ってくれたのは,中学の部活の後輩だったか。

 

 さすがに,怒られることは楽しくない。