我がアルバイト先でもインフルエンザが猛威を奮っている。月の頭には相次いで二人が罹患し、アルバイト先は人数不足によりかつてない窮地に立たされたという。そしてまた一人、38℃を優に超える高熱に魘され休みを余儀なくされている。彼女もまたインフルエンザと診断されるだろう。私は年末から年始にかけて喉を著しく痛める風邪にこそ罹ったものの、幸いにして未だインフルエンザは患っていない。この時期は、と言わずいつだって罹りたくはないものである。
さて、インフルエンザの対策といえばまず挙げられるのがマスクである。我がアルバイト先にもマスクを着用する者が増え始めた。「接客業がマスクをつけるなんて!」という声もチラホラと耳にはするが、そんな時代錯誤な意見なんぞ馬耳東風である。身体こそが資本、身体を守るために予防として着用するのは基本中の基本である。事実、この季節マスクをする者の多くは「テスト期間にインフルエンザを貰いたくない」と単位に危機感を覚える者が殆どで、あとは「親がインフルエンザになったから」か「先日までインフルエンザで休んでいたので一応は移さぬように」という理由がほとんどである。
しかし、この男は違う。日頃より常に外出するたびにマスクを着用し、誰よりも危機管理を徹底した風貌をしているが、その真なる理由はインフルエンザと遠く離れたところにあるのだ。
その一つが防寒である。冬は兎角寒い。外を歩けば身を裂かんとする寒風が吹き荒び、バスを待っていれば徐々に冷凍されるのではないかと錯覚する寒気に身を凍らせる。そんな寒さから身を守る上で、顔はあまりにも無防備である。マフラーやらニット帽などを足しても足りぬ。それ故に、吹き荒ぶ寒風から身を守り、少しでも温もりを与えようと身に付けた。
他にも理由はある。何を隠そうこの男、大のニンニク好きである。あまりにもニンニクが好きすぎるあまり、料理を作ろうとすれば隙あらば味付けにニンニクチューブを取り出し、ラーメン屋に行けば当たり前のようにニンニクを増しにする。これは接客業として以前に人として如何なものか。常にニンニク臭を漂わせる男なんぞ、社会から迫害されて然るべきである。勿論、私自身もそれを痛烈に自覚している。ニンニクを食せばうがいやらブレスケアやらで必死に消臭に勤しむ。さりとて、付け焼き刃程度の消臭では悪魔の臭いを完全に取り除けるはずがない。そこで行われる最後の抵抗こそがマスクである。臭いをマスクの内に封じ込め、外に漏らさぬようにする。実際にシャットアウト出来ているのかといえば甚だ疑問ではあるが、無いよりはマシであろう。
まだ理由はある。私として少しは身嗜みに気を配り、巨大なニキビやら吹き出物に憂鬱になるのだ。そしてこの季節は肌がとにかく乾燥する。親から保湿液の類を頂戴し、少しは保湿に取り組んではいるが、中々どうして効果はなく、知らぬ間に乾燥した肌に爪で引っ掻いたと思われる傷が出来てしまうのだ。それを世間に晒すのは些か抵抗がある。私とてプライドやら恥やらはあるのだ。プライドや恥のため、傷を隠す。マスクにはそういった効果もあるのだ。
他にも些細な理由も枚挙すればキリがない。ただここで言えることは一つ、「マスクは風邪の予防のため」という本来あるべき理由は私にとって二の次三の次なのだ。とはいえ、二の次三の次といえど、結果的にこれで予防が出来るなら儲け物である。私はこれからもマスクを着用しよう。皆から素顔を忘れられたとしても決して外すことはないだろう。