大学四年の末尾にもなると、キャンパスに通う機会がめっきり減ってしまう。週に一度通えばまだ多い方で、そもそも大学に一度も行かない週があることも何らおかしくない。このブランクは、言わずと知れたラーメン激戦区たる我が大学前においては致命的な間隙となる。割引やポイント2倍、限定メニューなどの耳寄り情報を逃すのは勿論、果ては店の移り変わりすら逃してしまう。
 先日、卒論を提出して以来久方ぶりに大学へと訪れた。学び舎に向けて伸びる通りを抜け、正門を正面にしたT字路の一角。普段は別の門から入るために滅多に通らないその道を通る時、ある違和感を覚えた。そう、かつてそこに軒を連ねていたラーメン屋が小綺麗な洋食店に変貌していたのだ。記憶が正しければ、店を構えはするものの長らく休店する日々が続いており、オープンして以来回転している日数より閉めている日数の方が数倍近く長いのではないかともっぱらの噂だった曰く付きの店だ。最後に食べたのは2年ほど前だったか。閉店してしまうなら最後に一度行きたかったものである。
 ところで、そのラーメン屋は如何なる店かというと、端的に言えばドロッと系の鶏スープが魅力の店だった。ただドロッと系と言ってもそんじょそこらのドロッとしたスープとは格が違う。最早スープと呼ぶのも烏滸がましいまでに麺に重く絡むスムージーのようなスープである。加えて、それは鶏のササミか何かの肉をミキサーで流動体になるまでかき混ぜた物質をそのまま麺にかけたような逸品である。加えて、味は鶏のマイルドさを損なうことなく表現したまろやかな味だ。
 端的に言おう。味がない吐瀉物のようなスープが麺に重くのしかかる苦行のような一杯である。こんなラーメンを誰が好き好んで食すのが甚だ理解に苦しむところである。普段は如何なるラーメンにも慈愛を持って包み込むように食すこの私が匙を投げる一杯だ。その顛末が長期休店からの閉店というのはこのラーメンの犠牲者ならば頷けるだろう。
 かくして、私を唯一苦しめたラーメン屋は暖簾を畳み、洋食店に店舗を明け渡すこととなった。当然の帰結である。開店休業状態で赤字を垂れ流すよりは余程賢明だろう。新しく大学の前という激戦区に名乗りを上げた洋食店には頑張ってほしいものである。

 ラーメンを出さないならば私は行かないだろうが。