自動車教習所に入り4ヶ月が経った。これまで大きな事故も無く違反も無く仮免ドライバーの鑑たる走りをしていた。だが、遂に私は罪を犯してしまった。

 人を轢いてしまったのだ。

 住宅街を走っている最中、子供が不意に公園から飛び出したのだ。十分に気を配りつつ走っていたつもりだったが、公園には垣根があり、死角が出来ていたのも事故の大きな要因となった。脇目も振らず飛び出た子供に対してブレーキをかけるのが遅れた。結果、車は子供に衝突。慌ててブレーキをかけるも事故は避けられなかった。子供を撥ねてからしまったと思うも時既に遅し。背中に冷や汗を感じながら私はボヤく。
「クソゲーかよ」と。
 注釈を加えると、上記の文は全てシミュレーションの話である。生身の人間を撥ねたという事は断じて無い。

 夜の教習所に生徒が三人、シミュレーションルームに集められて椅子に座る。そして順にシミュレーションを行えと指示をされ、三人はジャンケンで勝った者から乗ると決める。最初だけは何としても避けたいと息巻いてグーを出すも物の見事に大勝利。結果的に殆ど前情報もなく乗車し、上記の如く事故を起こして皆の見世物となったわけだ。どうやって避けろというのだ。初見殺しにも程がある。理不尽を糾弾したい気持ちを抑えながらも再び車を走らせ、何とか目的地までのシミュレーションを終えた。
 唇を噛み締めながら下車をすると、それから程なく二人目が乗る。屈辱的な事故を起こした私は、他の二人も事故を起こしてしまえと卑劣な心で呪っていた。が、二人目の男は快調な運転で問題の住宅街まで進んだ。因縁の路地を一つ進むたびに「今だ、子供よ現れろ!」と念じる。しかし、子供はおろかサッカーボールすら転がり現れないではないか。これは流石にゲームバランスが崩壊していないか。結局、何のハプニングもないまま二人目は無事にシミュレーションを終えた。
 そして次に乗った三人目。まず交差点に差し掛かった。対向車線には右折を試みるトラック。そんな中右折を試みた瞬間、トラックの陰から命知らずのバイクが飛び出した。彼女はこうなる未来を全く予期していなかったのだろう。勢いよくライダーを撥ね飛ばしてしまった。凄惨な事故の様子を無言で見詰めながらも、内心では同族を見つけた喜びにガッツポーズを決めていた。それから尚一層気を引き締めたらしいドライバーは、その後は大きな事故も無く完走。そして授業は終わった。
 シミュレーション終わり、次の講習を待つ私の元に馴染みの教官が現れた。そして「シミュレーションはどうでしたか?」と尋ねられる。私は心に浮かんだ感想を率直に伝えた。「意地が悪いですね」と。そして公園から不意に飛び出した子供を撥ね飛ばしたと説明を加える。それを聞いた教官のアドバイスは以下の通りだった。「あれは撥ねても仕方ない。諦めましょう」。いや待て、短絡的過ぎる。これが現実の事故だったら諦めても諦めきれぬ大事故だぞ。相変わらず我が教習所は人の命を軽んじていた。