私には一つだけ誰かに誇りたいもののあまりのくだらなさに誇ることができない密かな特技がある。いざ誇らしげに自慢すればそのくだらなさに失笑を買うこと違いない。だが、当人はそれでも胸を少しだけではあるが立派に張っているのだ。この場を借りて自慢させてもらいたい。その特技とはイントロクイズである。イントロクイズといえば楽曲の冒頭のみを聴いて曲名を当てるという形式のクイズだ。私はこのイントロクイズが地味に、しかし苛烈に強いのだ。
どこかの(架空の)読者に鼻で笑われた気がしたが気にせず話を進める。どれくらい強いかといえば、かつて大学入学直後に訪れた放送部での新入生歓迎レクリエーションの場にて、イントロクイズ大会で比類無き強さで他の新入生を寄せ付けぬ無双をした結果、上級生から「君は空気を読め」「他の人にもチャンスをあげて」と冷ややかに窘められた過去を持つ程である。ちなみに注意勧告を受けて尚「クイズの場に情けは要らぬ」と果敢に挑み続けた結果、司会者からあからさまに無視され、その後は肌を刺す冷たい視線と居心地の悪さに部を門前払いされることとなった。強すぎるものは時に過酷な運命を歩むものである。
どこかの(架空の)読者があまりの不憫っぷりに涙を零した気がしたが気にせず話を進める。一時期はこのクイズだけで2時間ものの特番が組まれるほどだったが、近頃は姿を消してしまったようで物寂しい。イントロクイズの腕を発揮する場を奪われ、技術が持ち腐れすっかり役に立たない今は家庭で母や妹相手にイントロクイズを互いに出し合いその知恵と技術を不毛なまでに磨いている。だが、この腕が役に立ったことは一度としてない。
まったくもって無駄で無為な特技である。こんな事を履歴書に記載すれば軽くあしらわれ不採用となること間違いなしである。芸は身を助けるとは言うが、この芸が身を助けたことは一度として無い。せめてイントロクイズ大会なる大規模なイベントで活躍し勝利を収めればこの芸も我が身を助けるというのに。いやはや、まったくもって無意味である。誰かこの芸に意味を与えてはくれないか。