昼食どき、比川集落の「わかなそば」へ。
店内は女性ひとりのワンオペ。小さな鍋から立ちのぼる鰹出汁の香りが、店内に静かに満ちている。
メニューは「わかなそば」とごはん、生ビール、アイスコーヒーのみ。
潔い構成がいい。迷わず「中」を注文。
壁には「Dr.コトー診療所」のキャストのサイン。
静かに流れるBGM。窓の外の強い日差し。
与那国の昼の時間は、どこかゆるやかで、時計が少し遅れて動いているようだ。
ほどなくして運ばれてきた「わかなそば」。
透き通ったスープに太めの麺、控えめに盛られた豚肉。
ひと口すすった瞬間、思わず息をのむ。
うまい。
八重山そばとも違う。
この味は、この島でしか出せない味。
与那国の塩風と水と人の手が作り上げた“島の味”だと、しみじみ感じる。
食後は「DiDi与那国交流館」へ。
展示された年表や文化資料を眺めていると、島の人々の営みと苦難が静かに語りかけてくる。
戦争、台風、交流、移り変わる時代。
それでもこの島に生き続けた人々の誇りが、どの展示にも息づいている。
その後、車で島を一周。
コトー先生が往診で走った道、ドラマで見た風景をなぞりながら走る。
どの場所もどこか懐かしく、まるで過去の記憶をたどっているようだ。
森林公園を歩き、与那国の風と土と太陽を体で感じる。
久部良の集落へ戻る途中、久部良バリに立ち寄る。
かつて妊婦を飛び越えさせたという悲しい伝説の地。
風が強く吹き抜けるその場所で、胸の奥が少し痛んだ。
港へ行くと、ちょうど石垣からの定期フェリーが入港するところだった。
荷下ろしされるコンテナ、ガソリンタンク、生活物資。
この島の暮らしを支える大切な物流の光景に、心が動く。
最後に与那国馬たちに別れを告げる。
彼らは夕陽の中で穏やかに草を食み、風にたてがみを揺らしていた。
人も馬も風景も、そして食べるものも——みんな優しくて、暖かかった。
ありがとう、与那国。
またいつか、ここに帰ってこよう。











