昨年の夏のことだ。
私は茨城県の某漁港の堤防にて青物を狙うべくジギングをしていた。
昨年は青物不発の年で、釣れることを夢見ながら通ったのだが、やはり釣れることすらなかった。
ある日のことである。
いつものようにキャストをし、シャクリをしているときに突然声をかけられた。
「どうですか?反応あります?」
正確な言葉のやり取りは本当は忘れてしまったのだが、こういう言葉をかけられたと記憶している。
「いや、ダメですね」
こう言葉を返し、相手を見やる。
何か違和感があった。それはすぐにはわからなかった。
なぜならその人物は私の左側にいて、肩を並べるように話したからだ。
そして私はキャストを続ける。
ふと、先ほど声をかけてくださった方のほうを見て一瞬思考が止まった。
なぜか手でリールを巻いていない。
右側の腰にハンドルノブを押し付けて巻く動作をする。
それもそのはず、その方の左手、いや、左の肩から腕が存在していなかった。
それからその方を気にし、たまに目を向ける。
片手でラインの結ぶことまでやっていたようだった。
この姿に私は感動を覚えた。
『たとえハンディキャップがあったとしても釣りはできる』
健常者の私としては、その苦労は知る由ではない。
そもそも知る術が無い。
だが、それでも釣りができることをその方は実際にやって見せている。
仮に後に私が体に障害を持つことがあったとしても、その姿を見たことはそのときに私に勇気を与えるはずである。
このときの出会いというものは、間違いなく私の宝である。
まだまだ言い足りないことはあるが、これに関してはここまでにしておこう。