さっきまでの車内の楽しい空気は、大気汚染された場所のように苦しく泣きたくなるような感じだった。
涼子さんはずっとだまっていた。
僕は何て言っていいか、わからずだまっていた。
先輩と美歩さんはそんな車内の雰囲気を明るくしようとおしゃべりをしていた。
車は京都駅に着いた。ここに来るのは初めてってわけじゃないけど、ここはいつ来ても、空港を思わせるようなほど大きく、アクリルのガラスのように透き通っている開放的な建物に古都というよりも、インターナショナルな雰囲気を醸し出していた。その証拠に日本人だけじゃなく、観光目的の白人やら黒人やらなんやらと外人さん達がたくさんいた。それに、トーテムポールみたいに真っ直ぐに空に伸びた白いタワーがあった。
僕らは京都駅で降ろしてもらった。涼子さんたちが泊まるホテルは京都駅のすぐそばらしいからだ。
「じゃあ、また明日連絡するね」
美歩さんが少しだけはしゃぎながら言った。
「楽しみに待ってます」
先輩の声もはしゃいでいた。
「じゃあね、海君」
「はい、また明日」
最後に涼子さんが話してくれた。
涼子さんが話しかけてくれただけで、沈みかけの僕のテンションは何とか持ちこたえることができた。本当に少しだけだけど。
そして車は消えていった。
「行っちゃったなー」
「はい・・・」
「ああは行ってたけど、明日本当に誘ってくれるかなー」
「はい・・・」
「それにしても美歩さんかわいかったよなー。美人でいてセクシーでいて、それにエロスも兼ね備えていて最高だよなー」
「はい・・・」
「ってテメー美歩さんは俺が唾つけたんだからな!」
「はい・・・」
「ってか話し聞いてんのかよ!」
先輩は僕の頭をカクテルを作るバーテンダーのように上下に振った。
「あぁ、聞いてませんでした。すいません」
「お前俺の純粋な恋心を!」
「はぁ」
またまた僕は気の抜けた返事をした。
そんな僕の態度に先輩は何かを感じたようだ。
「もしかして、お前涼子さんに彼氏いるってことでへこんでんのか?」
「そんなことないですよ!」
僕は激しく否定した。でもそれがいけなかった。こういう時の先輩は麻薬犬ぐらい嗅覚がするどい。
「ははーん、やっぱりそうか。お前のあの態度見てればわかるよ」
核心を疲れすぎて僕は何も言えなかった。
「でも、涼子さんの態度と口調は、もう終わりかけか、別れたばかりだろうな」
「本当ですか!!」
先輩の言葉は救いの言葉に聞こえた。
「ああ。だからお前にもチャンスはある」
「先輩・・・」
僕は泣きそうになった。いや、むしろもう泣いていたかもしれない。目頭がとても熱かったからだ。僕が女の子なら確実に先輩に惚れていただろう。ぼろぼろに傷つきささくれてしまっていた心に、こんなにも素敵で僕を元気づけてくれる言葉を言ってくれるんだから。だから、せめてものお礼に僕は先輩に抱きついた。
「おい、やめろって!」
そんなコントみたいなことを幾ばくかした後、とりあえず、明日のために今日の寝床を求めて僕らは歩き出した。