話してみると、やはり二人は大学生だった。運転手の方がアツシさんで助手席に座っている少しばかりクールな方がジュンさんだ。



「鈴鹿サーキットに何しに行くの?」

 アツシさんは興味深そうに聞いてきた。

「僕らF1が大好きでサーキットの風を感じたかったんです。な、海」

「そうそう、僕たち物心つく前からF1が好きで、テレビにかじりついてましたから。ね、先輩」


 さすがにレースクイーンを見に行くからなんて言えるわけがなかった。それと、僕らの会話にF1の話題が出たことは一度だってない。


「ここからどれくらいかかるんですか?」

「すぐだよ。多分二十分もあれば行けるんじゃないかな」

 まぁ、もう鈴鹿市内に入ってるわけだし、当たり前だった。

 そうこうしているうちにあっという間に鈴鹿サーキットに着いた。

 僕らは二人にお礼を言い、車から降りた。

「荷物はそれだけ?」

 アツシさんはパンパンに詰まったスーパーの袋しか持っていない僕たちに疑問を持っていた。

「まぁ。飛び出してきちゃったもんで・・・」

 アツシさんは、トランクから少しくしゃっとしたトートバッグを取り出して、

「これ、いらないからあげるよ」

 と、言った。



 そしてお礼を言うと、がんばれよ、と言って颯爽と去っていった。

 トートバッグは、少し古びているけど、とてもありがたかった。大の男二人が、パンパンに詰め込んだスーパーの袋を持っているのはかなり奇妙な光景だし。

 トートバッグに、袋を全部詰め込むと、僕らはチケットを買い、鈴鹿サーキットの中に入った。ちなみに、チケット代は先輩もちだ。


 中に入ってみると、とてつもなく広かった。僕はてっきり、しょぼくれたサーキットがあるだけだろうなと思っていたんだけど、全然違った。何ていうか、遊園地みたいな趣がそこにはあった。むしろ、どこかの潰れかけの遊園地とかなんかよりも、遊園地らしかった。それにちょいと高そうなレストランやキャンプ場や温泉や更には、結婚式場まである程だった。もうこれはサーキット場の粋を超えていた。ここなら家族で来てもカップルで来ても中学の社会見学で来ても、とにかく男同士で来ても、十分すぎるほど楽しめるつくりがここにはあった。しかし、サーキット内を隈なく探してみても、アレがいなかった。

「先輩いないですよ」

「やっぱりF1が開かれるサーキットのほうだな」



 ということで、僕らはレース場の方へ行ってみた。

 そこには、テレビでしか見たことのないレース場が僕の視界いっぱいに広がっていた。吹き抜けの会場は、心地いい風と雄大な空が、レース場を優しく見守っていた。数々の激戦があり、レーサーたちの熱いドラマがあったこの場所。僕はなぜだかわからないけど、感慨深い気持ちになっていた。多分だけど、自然と肌で何かを感じたんだと思う。