鈴鹿付近の一号線は車の通りがとても多い。目を瞬きする間でさえも車は光のように瞬時に去っていく。武田さんにもらったスケッチブックに、鈴鹿サーキット、と書き、僕らは通り過ぎる車にアクションを起こしていた。でも、そう都合よく車は止まってくれることはなかった。僕らのことを興味深そうに見てくれる人は結構いるんだけど、それはカメラのフラッシュのような思考の一瞬の発芽で、そこには余韻なんてもんはない。
夏の日差しは本当にうっとおしいったらありゃしない。外の世界に出た瞬間、太陽はターゲットを見つけると、いじめのようにひたすらそいつを攻撃する。いじめでできた痣ではないけど、僕らの肌は次第に赤くなってきていた。
「あー、もうやだ」
先輩の病気が出始めた。この男は本当にすぐに何かを諦めたりするのだ。これは、ある意味才能かもしれない。
「サーキットの天使にもうすぐ会えますよ」
なぜだか知らないが、年下の僕が先輩を励ますポジションになっていた。
「やっぱやめようぜ。めんどくせぇ」
「近いんだから行きましょうよ」
僕はヤケクソになって言ってるわけではなかった。なんていうか、説明しようがないんだけど、とりあえず、簡単に説明すると、僕は思春期最前線だった。
僕にとって、いや、この年頃の男にとって、考えることといったら、専らそっち方面のことしか考えてない。つまり、スケベなことだ。断言してもいい。とりあえず、どんなにセンチメンタルな気分になっていても、テストの成績が悲劇的なぐらい悪く落ち込んでいても、脳裏に女の子のことが浮かぶと、瞬時に全思考をそっちに向けてしまうところが、この年頃の男の子にはあった。例外なく僕もそうだ。
例え、先輩が、大ボラ吹きのくそったれでも、僕たちは、宮沢賢治の『雨にも負けず』の詩みたいに、近くにピチピチの女の子が近くにいると聞けば、それが冗談としても確かめずにいられないのが、この年頃の男の子なのだ。
先輩が疲れて地面に座り込んでも、僕はがんばって車にアピールした。すると、一台の黒い車が止まった。近寄ってみると、大学生風の男が二人乗っていた。
「鈴鹿サーキットまで行くの?」
運転手の男が話しかけてきた。
「はい」
「二人?」
「はい、あの人と二人で」
「二人なら乗せてってあげるよ。なぁ、いいだろ?」
運転手の男は、助手席の友達に聞いた。
「うん、いいんじゃない」
「じゃあ、乗っていいよ」
「ありがとうございます!」
僕は地べたに座り込んだ先輩を呼びに行った。
「乗せてくれるらしいですよ!」
「マジで!」
先輩はロケットのような爆発力で一瞬で立ち上がり、車の方へ駆け寄っていった。
そして、僕らは鈴鹿サーキットに向けて出発した。