携帯は放物線をキレイに描きながら道路に転がった。
「あー、あとで後悔しても知らねぇからな」
「しないですよ。そんなもん」
「本当かよ」
「本当です」
先輩は何やら、おかしな表情をしていた。
「じゃあ、後ろ向いてみ?」
先輩はアゴで後ろをしゃくった。
おもむろに後ろを振り向くと、いつの間にか僕の目の前には、雑草のようなごわごわとした無精ひげを顔全体に生やした大男が立っていた。
「携帯を道路に投げたのはお前か?あやうく事故になるところだった」
答える間もなく、大男は僕の襟首を掴んだ。
「えっ、いや、あの・・・」
あまりの迫力に僕はパニくってしまった。
「おい、答えろ」
ゾウの足を髣髴とさせるぐらい大男の腕は太く力があった。
「・・・・僕です。すいません」
「なんで投げた?」
尚も大男の尋問は続いた。
「じっ、自由になりたくて」
大男は何も言わなかった。鋭い眼光で睨みつけていた視線を、ふっと、僕の足元に落とした。
「これは何だ?」
僕の足元には、どこかへ、と書かれたヒッチハイクで使ったダンボールが転がっていた。
「こっ、これはヒッチハイクで使ってました」
「どこへ行くつもりだ?」
「えっ、いや、どこでもよかったんです。こんなつまらない毎日から抜け出せるなら」
僕の言葉に、大男は無言になってしまった。僕はまずいこと言ったかなと思い、一発ぐらい殴られるのはしょうがない、とこの妙な沈黙の間に悟り、いつ殴られてもいいように歯を食い縛った。
「道路に携帯を投げるのは危ない。二度とこんな真似はするな」
確信した。殴られる。
「乗れ。連れてってやる」
「へっ?」
力を入れていた口元から気の緩んだ言葉が出てしまった。
「乗れって言うと?」
「なんだ、抜け出したいんじゃないのか?つまらない毎日から」
僕はこの大男が何を言っているのかよくわからなかった。
「どういうことですか?」
「お前が乗るか乗らないかのどっちかだ?」
そう言うと、大男は踵を返した。
僕はその瞬間、エジソンのようにピンと閃いた。そして大きな声で大男に言った。
乗ります!