縁日にいる露店商のおじさんのように、うさんくさい笑顔をした先輩は僕の方を見ていた。とりあえず、何もなかったように挨拶をした。


「おはようございます」


 しかし、先輩は僕の挨拶を無視し、うさんくさい笑顔のまま僕に言葉を投げつけた。

「だっせー、お前マザコンじゃねぇかよ?」

 先輩の言葉に、何もなかったように振舞う作戦は音を立てて崩れた。

「はぁ?そんなわけないじゃないですか」

 怒りを露にした僕に、先輩はさらに挑発とも取れる言葉の散弾銃を僕に放った。

「散々俺にカッコいいこと言ったくせに、ママに怒られたらもう諦めるのかよ。そんなんだったら今すぐママのとこに戻って、ママー寂しかったよー、って言って泣きつけよ」

「先輩、言ってもいいことと悪いことがありますよ」

「俺には、どう考えてもいい事を言っているとしか思えないけど」

 この先輩の発言で、僕の我慢メーターは測定不能になった。僕は先輩に飛び掛った。

「おい、なにすんだよ!やめろ!」

「やめません!謝れ!」

 

 僕らはとてつもなく狭い空間で喧嘩を始めた。


マザコン野郎!」

「うるせぇ!三浪のくせに!」

「なんだと!童貞野郎!」

「パラサイトのくせに!」

 

 とても程度の低い喧嘩だった。

 しかし、この喧嘩は長くは続かなかった。


「何してるんですか?」

 怒声を聞きつけた漫画喫茶のスタッフが、僕らの部屋に入ってきたのだ。そして、説明するまでもなく僕らは漫画喫茶から追い出された。


 朝だというのに、太陽の日差しはハイテンションで、世界に光を注いでいた。目の前の大道路では目まぐるしく車が通り過ぎていった。

「てめぇのせいで追い出されたじゃねぇかよ」

「先輩のせいですよ」

 喧嘩は終戦したものの、喧嘩の余波は残っていた。

「んで、どうすんだよ。ママのところにでも帰るのかよ?」

 僕は先輩の方を向いて、宣言した。

「帰りません。帰るときは死ぬほど楽しんでからです」


 そう言って、僕は携帯を道路の方へ思いっきりぶん投げた。