更に十五分が経過した。


 次第に、ダンボールを掲げている二の腕の筋肉がぴくぴくと震えだした。

 先輩はそんな僕の姿を見ながら、悪代官のように、にやにやと笑っている。

 それでも僕は二の腕の悲鳴を無視しながらダンボールを掲げた。

「もうやめようぜ」

 先輩の悪魔の誘惑が聞こえる。

「やめないです」

 僕は子犬のように首を大きく振った。

「どうしたらやめてくれんだ?」

「やめないです」

「車ぜんぜん通らないし、もう眠たくなってきたし。なぁ、漫画喫茶行こうぜ。あー、もうこのさい俺の負けでいいからさ」

「嫌です。車が通るまでここを動きません」

「はー、これだからお子ちゃまは困るぜ」

 先輩はアメリカの俳優のように大袈裟なリアクションでため息をついた。

 僕は、心の中で何度もおまじないを唱えた。

 神様、仏様、天地創造の神様、七福神のみな様、インリン様、ペレ、ジーコ、タイガーウッズ、尾崎豊さん、桜井一寿さん、誰でもいいから僕の小さな小さな、そしてささやかなお願い事を叶えてください。叶えてくれた暁には、僕のキスでも何でもあげますから。

 僕個人の適当でいい加減な思いつきで、勝手に祭り上げた人たちに願いを込めて僕は何度も祈った。

 すると、暗闇の世界に一筋の光が灯った。ヘッドライトの光だ。間違いない、車だ。黄色のビートルが僕たちに近づいてきた。

 僕は、ビートルに気持ち悪いぐらいの目線とダンボールでアピールした。

 

とまれとまれとまれとまれとまれとまれ

 

 この時ばかりは、生まれてから八番目ぐらいにがんばったと思う。

 本当にそう思った。


 それでも、車は残酷にも当たり前のように止まることはなかった。


「まぁ、残念だったな」

 僕の肩をポンと叩いて先輩は言った。

「はい・・・」

 もう帰りましょうか、と喉まで出掛かったとき、僕はそんな腐った言葉を飲み込んだ。

 通り過ぎたと思ってたビートルが、僕らの五十メートル先で、ハザードをだして止まっていたのだ。

 そう、それは九回裏逆転ホームランのようだった。