時が時だけの北朝鮮旅行 | trycomp2のブログ

時が時だけの北朝鮮旅行

 横田めぐみさんの夫とされる男性が韓国人のキム・ヨンナムさんらしいと判って、日韓の拉致被害者家族会が連帯し、ワシントンのホワイトハウス前でデモをしたり、横田早紀江さんら家族会の一行が米国での公聴会に向かうなど、被害者救済に向けた国際圧力が強まりつつあるこの時期、共同通信社加盟の新聞社二十三社の社長や幹部などが、六泊七日の旅程で北朝鮮旅行をしていたことが週刊文春で明らかにされ、波紋を広げている。共同通信社の肝いりで実施されたこの旅行は、あくまで北朝鮮要人と会見し、日朝間にわだかまる問題を探るという目的だったようだが、文春誌のサブタイトルに「拉致被害者家族の気持ちを踏みにじる6泊7日の物見遊山」とヤユされたように、国民感情を逆なでした印象を拭いきれない。
 文春誌が参加各社に取材したところ、いずこも口をつぐんだというが、それはタイミングが悪すぎたと反省しているからにほかなるまい。参加社名は公表されていないが、どうして調べたのか、インターネット上では全社名が列記され、その見識を問う声が噴き出している。共同通信社並びに加盟代表団による会見記を読んだ限り、何の新味もなく、一方的なご意見拝聴の趣きで、わざわざ出かけていった意義が感じられず、当事者ならずもこれでは弁明が苦しくなるだろう。
 取材が主目的ならば、ベテランの記者を派遣することで十分。日程も二、三日あれば事足りる。なのに書かざる大記者、つまり社長や幹部が一人当たり百二十万円もの経費をかけて行く必要が、とりわけ拉致問題解決へ国論が高まりつつあるこの時期に、あったのかどうかとなると、これは大いに疑問が残る。
 自前で旅行する(社の経費であっても)分には何泊であろうと外野がとやかく言う筋合いはない。国交が閉ざされ、神秘のベールに包まれた国だからこそ、せっかくの機会をとらえて「なんでも見てやろう」という記者魂がなせるわざという解釈も成り立つ。だが、家族会の感情からしても、一般常識からしても、あまりにも無神経ではなかったか。実際、この企画に参加しなかった沖縄タイムスは「自前の記者同行なら参加する余地があった。しかし拉致問題の経緯をみても現状の北朝鮮では、こちらが狙いとする取材、報道ができるとは思えない。拉致問題で、政治的、心情的にむずかしい状況では、訪問の大義を立てるのは危険性があると判断した」と文春誌の取材に答えている。引用が長くなったが、これが報道人としてのまっとうな感覚だと思う。
 報道管制、報道規制された国で取材し、その真の国情を伝えるのは難しいことである。かって中国が「竹のカーテン」と呼ばれた当時、その実像を知るのは容易でなかった。招待されて熱烈歓迎され、いい面ばかり見せられて帰国してからあたかも同国が「地上の楽園」とばかり喧伝する向きが多く、まずは眉にツバして聞き、割引する必要があった。現在の北朝鮮も同様で、記者が取材して帰国しても、せいぜい行間に批判をにじませるぐらいの結果しか期待できない。それは入国に便宜をはかってもらうからであって、おのずと制約というものがそこに生じる。二十三社は、招待でなく、あくまで自前なのだから、何の遠慮も要らぬはずである。だからこそ、社長あるいは幹部は自らペンをとり、「この目で見た北朝鮮」といった紀行文なり、ルポなりを発表すべきだろう。でなければ新聞の名が泣く。(英)