【正論】神谷不二 アメリカの対北外交に落胆 | trycomp2のブログ
■「封じ込め」を毅然として行え
≪侵略者には譲歩するな≫
少々古い話になるが、1959年の夏、引退後郷里ミズーリ州インディペンデンスで悠々自適中のトルーマン米元大統領を訪ねる機会に恵まれた。朝鮮戦争に深い関心を持っていた私が、北朝鮮の侵略に対して米軍参戦の重大決定を下した当事者から、直接話を聞く得がたい時を与えられたのである。
戦争終結後6年と、日もまだ浅く、大統領の記憶も鮮明だった。1938年のミュンヘン会談で、チェンバレン英首相がヒトラーに対して取った「融和」政策が失敗に終わった歴史を肝に銘じつつ、侵略者に譲歩は禁物であり、「封じ込め」は毅然として行わねばならぬと語った彼の熱弁は、今も忘れられない。
さて、北朝鮮の核実験強行から1カ月半、この間における彼我対立の焦点は、結局のところ、アメリカが北に6カ国協議(6者)への無条件復帰を要求したのに対して、北はアメリカが一定の譲歩、たとえば米朝直接交渉とか金融制裁解除などに応じるならば6者復帰を承諾する、とした点にあった。
対立は尖鋭で、両者の妥協は容易でないと思われていた。だが、アメリカは意外に早く10月末に突如軟化し、北に譲歩の姿勢を示した。国連安保理事会がせっかくまとめた対北制裁措置は長期に続けてこそ真価を発揮するものであるにもかかわらず、数週間でアメリカは解除の可能性を示唆したのである。
≪「北」に音をあげさせる≫
ライス国務長官はじめアメリカ当局者は「この指とまれ」から「いち抜けた」への変節を否認し、北への譲歩ではないと言い張っている。しかし「千丈の堤も蟻の一穴から」。重大な譲歩はしばしば、あるかなきかの妥協から始まるのではなかろうか。
6者再開の線は米中朝3国間で合意されたが、それに先立ち米朝間で、ヒル国務次官補、金桂寛外務次官の2者会談が持たれ、席上アメリカは、6者再開後「金融制裁問題に関する作業部会を設ける用意がある」むねを北に約した。これが譲歩でなくて何であろうか。
得たりやおう、と北の外務報道官は「朝米間で制裁問題を論議解決するとの前提の下に、われわれは6者に出席することにした」と述べた。
麻生外相はしばしば、やや唐突ながらこれぞ正論といった発言をする。6者再開合意の報に接したときテレビで彼は、それは結構なことではあるけれど、何も「よかった、よかったと赤飯を炊くような話ではない」と語った。言い得て妙と聞いたのは私だけではなかろう。
6者の無条件再開にかたくなに固執して北に音を上げさせることこそ、核実験強行への対応の第一歩でなければならないのに、アメリカは早々と一歩後退の意中をさらけ出してしまった。
≪緊密な米日同盟関係こそ≫
イラク、イラン、パレスチナなど大変な重荷を負っている以上、かりに中間選挙で勝っていたとしても、ブッシュ政権に対北軍事行動の選択肢はない。ならばアメリカの北に対する切り札は経済制裁の強化継続しかないはずだ。
ブッシュ大統領は加えて、先日ハノイで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の際、中国の胡錦濤国家主席に対して、北が核を放棄すれば見返りとして、朝鮮戦争の平和協定締結に応じると語った。これは北がかねて繰り返し要求している問題であり、大きな譲歩案といわねばならぬ。
このような弱腰のアメリカに、多くの日本人は落胆を禁じ得ないのである。アメリカがもっとも重視する核問題についてさえこのありさまでは、6者の中で日本だけがほとんど孤立して主張している拉致問題に、アメリカから実のある協力を期待することは、とてもできないだろう。
平壌の独善をときにもてあましてはいるものの、北京政府は金正日体制の崩壊を決して望んではいない。北の6者復帰についてアメリカと協力しながらも、中国は6者再開に向けて関係諸国が「柔軟に対応」すべきことを再三訴え、エネルギーや食糧の対北支援もむろん継続する。米中の北に対する基本政策には、依然としてはっきりと格差があるのだ。同様に韓国も、金大中政権以来の「太陽政策」の基軸を変更するつもりはまったくない。
つまり、率直にいえば日米両国は基本的に、6カ国中の多数派ではなくて少数派である。であるならば、かりそめにも少数派2国間にすきま風が吹くようなことは厳に戒めなければなるまい。緊密な同盟関係が日米両国にとって、今ほど必要なときはないのである。(かみや ふじ=慶応大学名誉教授)
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