“鎖国ニッポン”に異変 | trycomp2のブログ

“鎖国ニッポン”に異変

 欧米各国から「難民鎖国」と酷評されてきた日本の難民認定に“異変”が起きている。今春、入管当局のお目付け役となる「難民審査参与員」制度が発足してから、難民認定数がグンと増え始めたのだ。参与員が政府の御用機関となるのではないかと危惧(きぐ)していた難民支援のNGOなどからも評価の声が上がっている。 (市川隆太)

 全国難民弁護団連絡会議(全難連)の渡辺彰悟弁護士は、三十代前半のミャンマー人女性に対する杉浦正健法相名の通知書(今月七日付)に、目を見張った。

 女性はミャンマー軍事政権の迫害を逃れて来日したが、入管の一次審査で不認定となり、異議を申し立て、参与員による二次審査を受けた。

 通知書は、二次審査結果に基づく、法相としての判断を伝えるものだが「あなたは難民とは認められません」としつつも、日本国内への在留特別許可を認める判断が示されていた。

 しかし、渡辺弁護士を驚かせたのは、結果そのものではなく、通知書の「あなたが本国で迫害される客観的危険性を認めることはできず、(三名の)参与員のうち二名は、前記理由で難民該当性は認められないと述べています。ただし、この二名は、あなたの在留について十分な配慮が必要であると述べています」という誠実な記述だった。

 さらに「これに対し、一名の参与員は、異議申立人(ミャンマー女性)は日本入国後(軍事政権への)反政府団体に入会し、イベントの壇上で反政府的な歌を歌唱し、民主化を訴えてきた。兄は米国で難民認定されているとして、あなたは難民に該当するとの意見を述べています」という、法相決定に反する少数意見まで克明に記載してあった。これまで、法務省は「難民性はない」と、わずか数行から十数行の通知書を出すだけだっただけに、関係者は、ガラス張りに一歩、近づいたことに驚きを隠さない。

 ■「特別許可」も8倍の40人に

 このケースを含め、渡辺弁護士が所属するビルマ難民弁護団が把握しているだけでも、今年、法相が難民認定したミャンマー人は三十六人にのぼり、昨年(十四人)から大幅増。在留特別許可も昨年(五人)の八倍(四十人)である。

 この“異変”は、どうしたことだろう。渡辺弁護士は「“入管体質”を持っていない参与員が、ひたすら純粋に、この人は難民かどうかと見極める制度の効果が出ている」と見る。「参与員たちが『本国で迫害される人を追い返してよいのか』と悩みつつ努力している様子が、しばしば耳に入ってきます」

 興味深いのは難民認定された三十六人中、十五人が入管当局による一次審査であっさり認定されたこと。しかも、十五人中、十人以上は参与員制度の発足後に認定されている。渡辺弁護士はこう推測する。「二次審査も入管が行っていたころは、一次審査を担当する入管職員も“内部の目”が気になって、難民認定しにくかった。参与員制度発足後は、一次審査担当者も、内部に遠慮しないで済むようになったのではないか」

 難民認定制度の対象は経済難民ではなく、国連難民条約で規定された「人種、宗教、政治信条などで迫害される恐れから本国を逃れた人々」だ。

 米国、ドイツ、英国、カナダ、フランスが年間約一万から三万人の難民を受け入れているのに対し、日本は毎年、一けたか二けたで推移している。一九八五年以来、昨年までで最多の年(二〇〇一年)でさえ二十六人という状況に、先進各国から「難民鎖国」というレッテルをはられている。

 ミャンマーの民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏側近で、軍事政権の拘束・拷問を受けた男性さえ難民認定せず、一年半以上も強制収容するという、まるでブラックジョークのような事態を引き起こしたこともある。

 ■お手盛り制度の批判に応え開始

 従来の難民認定は、法務省入国管理局の一次審査で「難民不認定」とされ、異議申し立てしたとしても、二次審査も入管が行っていたため、「お手盛りの制度」との批判が強かった。これに応えるように、今年五月、スタートしたのが参与員制度だ。

 参与員は十九人の民間有識者からなる(別表)。三人一組の六チームからなり、異議申立人への「審尋」(インタビュー審査)を行って、難民認定すべきか否かを法相に意見具申する。

 「入管の判断を、民間人の目でチェックする」がうたい文句だったが、メンバーのうち、日本の難民審査に詳しいのは新垣修・志學館大助教授と市川正司弁護士だけだったことや、河内悠紀・元大阪高検検事長、坂井一郎・元福岡高検検事長という大物検察OBが二人も入ったことから、専門家の間には「入管改革にならない」との声も強かった。

 ■参与員ならば専門知識必須

 「法務省が参与員の意見を曲げるようなことはしないし、そんなことは、できない制度に作ってある。こちらも、そこは割り切っている」。参与員制度の発足直後、ある法務・検察幹部は、なぜか、さばさばした表情で語ったものだが、あながちポーズではなかったようだ。

 ただ、課題も多い。全難連の関係者らは「一次審査で難民認定しなかったにもかかわらず、二次審査前に、入管側の証拠開示が行われていない」と、難民認定申請者の抗弁や防御の権利が不十分であることを指摘する。

 「中には、参考資料をもてあそびながら『こんなのダメ(不認定)だ』と露骨に言う参与員もいる」との声や、「それと同一人物だが、審尋の間、ほとんど居眠りしている」という指摘も出ている。どうやら、参与員の全員が、真摯(しんし)な姿勢で審査しているわけではなさそうだ。

 難民問題に対する基本知識の乏しさも露呈し始めている。ある関係者は「日本に不法入国した難民認定申請者に関して、複数の参与員が、『この人は日本の法律をなんとも思っていないのかねえ』と発言しているのを聞いて腰が抜けるほど驚いた」と話す。

 祖国での迫害を恐れ外国に逃亡する難民。その多くがパスポート不所持だったり、偽造パスポートに頼っていることは、難民問題の国際常識、イロハのイだ。

 「だからこそ、先進国では、難民認定審査の機関と、日本の入管にあたる不法入国の取り締まり機関を別建てにしたり、自分の国の難民認定審査に国連の担当者を関与させている。外国人排除の先入観が強すぎて、本物の難民を本国に強制退去させたあげく、難民が殺されてしまうような事態を避けるための知恵です」。難民支援の関係者らは、口々に言う。「日本は、そういう制度になっていないのだから、せめて、参与員は、勉強して専門性を身につけてほしい」

 【難民審査参与員の顔ぶれ】
▽新垣 修(志學館大助教授)
▽安藤仁介(同志社大教授)
▽石橋義明(元アメリカ松下電子工業取締
      役)
▽市川正司(弁護士)
▽岩沢雄司(東大教授)
▽甲斐紀武(元チュニジア大使)
▽河内悠紀(元大阪高検検事長)
▽坂井一郎(元福岡高検検事長)
▽下方元子(元大阪高裁判事)
▽田中信義(元NHKチーフディレクター)
▽鳥居淳子(成城大教授)
▽中山 猛(元東京海上火災参与)
▽花水征一(弁護士)
▽星野昌子(元神奈川人権センター理事長)
▽松本 進(元衆院法制局部長)
▽丸山俊二(元チェコ大使兼スロバキア大
      使)
▽村上敬一(元東京高裁判事)
▽柳瀬房子(NPO法人「難民を助ける会」      理事長)
▽山田浩三(元読売新聞編集局専任部長)