記者の目:硬直した日本の北朝鮮政策=大貫智子(政治部)
8日から6日間、北京で行われた北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議で、日本政府は「拉致問題の進展がなければ(核問題を進展させる手段である)北朝鮮へのエネルギー支援は行わない」との方針を貫いた。北朝鮮の核は差し迫った安全保障上の脅威であり、拉致は人権と国家の主権を踏みにじる行為だ。どちらも日本にとって極めて重い課題であるだけに、核問題解決に後ろ向きともとられかねない今回の対応は正しかったのだろうか。拉致の早期解決のためにも、政府は核問題との両立を図るべきだと思う。
「うちは拉致問題が進展すれば、核問題で進展がなくても支援するんだよ」。北京で取材していて最も印象に残った日本政府関係者の言葉だ。日本の「極端」な政策を自嘲(じちょう)気味に語る姿に、私は言葉を失った。
6カ国協議は毎回、全参加国による全体会合の後、米朝など2カ国や3カ国が立ち話を含めて具体的内容を詰め、合意内容が固まれば再び全体会合を開く。
日本首席代表の佐々江賢一郎外務省アジア大洋州局長は05年9月の第4回協議で、共同声明採択に当たり米朝間の調整役として奔走した。同年11月の協議では、今回合意した「テーマ別の作業部会」の設置を提案、協議をまとめる上での「知恵袋」と呼ばれ、関係国の信頼も厚い。
しかし今回、日本は「支援に参加せず」の方針で臨んだため、協議での発言力は低下した。北朝鮮は米国や韓国に対し「電力200万キロワット」などの要求を突きつけたが、日本は間接的に聞いただけ。米中韓による詰めの協議が続いた10日、韓国政府当局者は「今日は日本とは特に議論するイシュー(論点)がなかった」と記者団に語った。
合意文書には、北朝鮮が60日以内に核施設を停止することなどが盛り込まれた。朝鮮半島の非核化に向けた一歩と期待されている。だが、文書策定で日本が目指したのは、見返りにエネルギーを提供する主体を書き込ませないことだった。6カ国の合意という体裁を崩さず、「支援はしない」という日本の立場を両立させるには玉虫色の表現が必要だった。
最終日の13日、首席代表による記念撮影で、佐々江氏が指定された立ち位置は向かって左端。共同声明が採択された時も、昨年12月の前回協議でも、佐々江氏は中央に立つ議長国・中国の武大偉外務次官の隣にいた。
6カ国協議で日本は、常に拉致問題と核問題のバランスに頭を悩ませてきた。2度目の日朝首脳会談直後の04年6月の協議では、核問題の進展があればエネルギー支援を行うと表明。拉致問題は日朝2国間の協議での解決を模索した。
しかし、日朝関係は横田めぐみさんの「偽遺骨」問題で一層悪化し、昨年2月の日朝包括並行協議は成果なく終わった。そして7月の北朝鮮によるミサイル発射。日本は即日、万景峰(マンギョンボン)号の入港禁止などの制裁を実施し、対話の糸は切れた。拉致問題を最重要課題に掲げる安倍政権の発足で、対話路線への転換はさらに難しくなっている。
現時点で北朝鮮との対話の場は6カ国協議しかなく、北朝鮮と顔を合わせる貴重な機会である同協議で、日本が拉致問題を訴えるのは当然だ。一方、北朝鮮のミサイル発射や核実験で、最も安全保障上の脅威にさらされるのは、ほかでもない日本であり、状況は深刻度を増している。まずエネルギー支援を「安全保障上のコスト」(政府筋)と受け止め、日本が核問題解決に責任を持つべきではないか。それが協議の中で拉致問題を訴える力となり、拉致問題解決へのテコにもなりうると思う。物事が動かなければ何も解決しない。
さらに深刻だと感じるのは、オープンな政策論議ができない政府内の硬直した空気だ。今回の日本の対応について外務省幹部に問うと「(安倍晋三)首相に聞いて」と言葉を濁した。別の幹部は各国との首脳会談で「首相の指示がなくても萎縮(いしゅく)して勝手に『拉致』を議題にしてしまう」と嘆く。
もちろん筋の通った政策は必要だが、複数の選択肢を持てる柔軟性も必要だ。今回の協議を、国益とは何かを改めて考え直すきっかけにできないか。
「歴史の検証に堪えられるよう努力したい」。北京での協議が始まる前、協議関係者が語った言葉を私は自分にも当てはめ、取材をしながら反芻(はんすう)していた。この言葉を安倍首相も真摯(しんし)に受け止めてほしい。首相はまず、北朝鮮政策について自由な議論ができる雰囲気をつくることから始めるべきだと思う。
毎日新聞 2007年2月23日 0時56分
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