北朝鮮・核問題:「核」無能力化、年内完了困難か
◇核燃料棒、抜き取り/「激しく汚染」作業に支障
北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の合意に基づく「第2段階措置」として、米国の専門家グループが1日、北朝鮮入りする。北西部・寧辺(ニョンビョン)にある三つの核施設の無能力化作業に当たる。10月3日の合意文書には年内完了を盛り込んでいるが、技術的な理由から年内終了は困難との見方が早くも出ている。
具体的な作業内容は明らかにされていないが、韓国の宋旻淳(ソンミンスン)外交通商相は31日、ソウルでの記者会見で、3施設の無能力化は「10程度の分野にわたる作業」になると語った。黒鉛炉の核燃料棒を抜き取り、貯蔵プールに保管する作業などを実施する。
米民間シンクタンク「科学・国際安全保障研究所」(ISIS)のデビッド・オルブライト所長は、核燃料棒抜き取り以外に短期間に実行可能な措置として▽原子炉にカドミウム粉末を散布する▽原子炉制御盤に塩水注入する--ことなどを挙げ、これを実施すれば、修復まで6~12カ月を要すると指摘している。
また、韓国の聯合ニュースによると、米朝両国は11~12項目の技術的措置に合意。黒鉛炉では、連続的な核分裂反応を不可能とするため、制御棒の駆動装置などを撤去する措置なども併せて実施する。撤去した機器や部品は、北朝鮮内に保管、国際原子力機関(IAEA)や協議参加国が監視する。
ただ、年内の作業終了の見通しについては「核施設が激しく汚染している」(ロシュコフ露次官)などの理由により困難だとの見方も出ている。協議関係者の間には「作業そのものが実際に続けられているなら12月31日を過ぎても問題はない」との指摘もある。
寧辺核施設は、1年間で核兵器1発分に相当する約6キロのプルトニウムを生産できる。このため、北朝鮮は、94年の米朝枠組み合意では核施設の放棄に応じなかった。核兵器や大量のプルトニウムなどの核物質を保有した現時点では、施設の戦略的価値が低下し、北朝鮮側には無能力化に大きな抵抗感はないといわれる。【北京・西岡省三】
◇米が重視「核計画の完全申告」--シリアへの拡散も焦点
6カ国協議合意の履行で米国にとって核施設の「無能力化」以上に重要な意味を持つのは、同じく年末が期限の「核計画の完全申告」だ。現在の核危機につながった高濃縮ウラン(HEU)計画疑惑の解決やプルトニウム抽出量の正確な申告という課題に加え、北朝鮮からシリアへの核協力疑惑が急浮上したため、米国は申告で過去の拡散行為も明らかにするよう求めている模様だ。
複数の協議筋によると、北朝鮮はウラン濃縮用の遠心分離機に使うために外国から調達したと見られる高品質アルミ管を米調査団に視察させる意思を示している模様だ。事実なら、濃縮計画の存在を否定してきた北朝鮮が「米朝双方が満足する問題の解決」(ヒル米国務次官補)へ柔軟性を示し始めたと言える。
同問題では、アルミ管など関連資機材の調達を北朝鮮がどう説明するかに関心が集まる。ヒル次官補は「(申告で)進行中の計画がないと確信できるだろう」と述べており、米国は資機材を北朝鮮が放棄すれば、計画の真相は深く追及せず決着を図る可能性が高い。
一方、米国で急浮上したのが北朝鮮の拡散行為への懸念だ。イスラエルが9月に行ったシリア空爆の標的が北朝鮮の関与する核施設だったとの疑惑に対し、米政府が沈黙を決め込んだため、議会は強く反発。北朝鮮へのエネルギー支援の予算措置や北朝鮮の求めるテロ支援国家の指定解除などで議会の協力が欠かせないだけに、政府は慎重な対応を迫られている。
ブッシュ大統領は先日の会見で、申告では過去の拡散行為や核兵器も対象になると言明したが、北朝鮮がどう反応するかは不透明だ。【ワシントン笠原敏彦】
◇「実効性」確保、課題に--プルトニウム製造阻止が狙い
寧辺の核施設で実施する無能力化作業は、核兵器増産に直結するプルトニウムの製造阻止が最大の狙いだ。ただ、作業終了目標である年末までは2カ月間しか無く、応急的な措置にとどまる見通し。核計画の完全放棄には、施設解体が不可欠で、継続的な取り組みが今後の課題となる。
94年の米朝枠組み合意は、核施設に封印を施す「凍結」だけにとどまった。北朝鮮は施設の劣化を防ぐため、補修・点検も実施していた。このため、02年10月に高濃縮ウラン問題発覚をきっかけに同合意が崩壊すると、北朝鮮は黒鉛炉や再処理施設を容易に再稼働させ、プルトニウムを増産することができた。今回は、その反省をもとに「施設の一部破壊や機器の撤去など、すぐに稼働できない措置」(6カ国協議筋)を実施することに注力した。
原子炉から抜き取る8000本の核燃料棒は、94年合意と同様、隣接する貯蔵プールに保管する。プールに移した核燃料棒を原子炉で再使用するのは不可能な上、北朝鮮は核燃料棒を使い切っており、予備の在庫は無い。核燃料棒製造には半年~1年程度の期間が必要で、北朝鮮が6カ国合意を破棄し、原子炉の再稼働を決めた場合でも、最低でも半年間は原子炉を再稼働できない。
核燃料棒を再処理すればプルトニウム抽出が可能となる。これを防ぐため再処理施設でもパイプ切断などの作業を実施する見込みだ。また、核燃料加工施設でも、新たな核燃料が容易に製造できないよう機器を撤去する。
無能力化に続く、今後の焦点は、核爆弾1~2発分のプルトニウムを含む核燃料棒や、すでに抽出済みのプルトニウムの国外搬出だ。黒鉛炉で使用した核燃料は長期保管に適さない性質があり、再処理する必要がある。黒鉛炉用核燃料の再処理施設を保有する英国やロシアなどで再処理する可能性が指摘されている。【ウィーン中尾卓司】
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◇6カ国協議が10月3日に発表した合意文書(要旨)
(1)北朝鮮は12月31日までに寧辺の黒鉛減速炉、再処理施設、核燃料加工工場の3核施設を無能力化する。
(2)無能力化は米国が主導、当初の費用を提供する。訪朝する専門家グループも米国が主導する。
(3)北朝鮮は12月31日までにすべての核計画を完全かつ正確に申告する。
(4)北朝鮮は核物質や核技術・知識を移転しないことを再確認する。
(5)米国は北朝鮮のテロ支援国家指定の解除と敵国通商法の適用除外について作業を開始し、北朝鮮側が取る行動と並行して履行する。
(6)日朝両国は日朝平壌宣言に従って過去を清算し、懸案を解決することを基礎として、国交正常化のため努力する。
(7)北朝鮮には、100万トンの重油(すでに提供された10万トンを含む)相当規模の経済、エネルギー支援が提供される。【中国総局】
毎日新聞 2007年11月1日 東京朝刊
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