支局の目:亡命に至る思いは… /秋田 | trycomp2のブログ

支局の目:亡命に至る思いは… /秋田

 北朝鮮東部の清津(チョンジン)から来たという4人の親子が2日、青森県深浦町の深浦漁港に小舟でたどり着いた。「生活が苦しく、1日おきにパンを食べるのがやっとだった」などと、現地での生活の苦しさを訴えていたという。
 私は同日夕に深浦に入り、漁港周辺を取材した。小舟は長さ約7・3メートル、幅約1・8メートル。目撃した人々は一様に「あんな小さな舟でよく日本海を渡って来られた」と驚いた様子だった。近くで菓子店を営む女性は「食べ物がなくて小舟で日本海を渡るなんて、ここでのんびり暮らしてきた私には想像もつかない」と話した。漂流の間、空腹に苦しんだのだろう。6日まで保護されていた青森県警五所川原署で4人は、事情聴取の合間に出された幕の内弁当をおいしそうに食べていたという。
 一方、警察庁の漆間巌長官は7日の会見で、4人が小泉前首相の訪朝や拉致問題を知っていたことを明らかにした。そして「何らかの情報を得る手段を持っていた。また周囲に比べると経済的余裕があったとみられる」との見方を示した。生活苦だけではなく、何らかの思想的・政治的意図をもった亡命だったのだろうか。希望どおり16日、韓国に移送された4人には、いずれにせよ、死の危険を賭してでも脱出しなければならない理由があったのだ。
 拉致問題、外交手法、そして核開発。北朝鮮を主導する金正日総書記の一挙手一投足は世界の注目を集める。これらは重要だし、掘り下げた詳細な報道が必要だ。同時に、食糧難や独裁体制にあえぐこの国の人々が何を思い、何に苦しんでいるのかを、想像することを忘れてはいけない。4人の足取りを追って漁港で取材しながら、そう思った。
 漁港近くに住む男性が「ご苦労さん」と、上陸直後の母親とみられる女性の肩をたたくと、女性はにっこり笑顔を返したという。男性は「言葉がわからなくても、気持ちって通じるんだね」と話した。【岡田悟】

6月17日朝刊

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