青森・脱北者保護:韓国に移送 スピード出国優先、「犯罪行為」は不問
◇異例ずくめの対応
青森県深浦町の漁港で保護された脱北者家族が16日、希望する韓国に到着した。厳しい生活を送った北朝鮮を脱出し海を渡り、日本に流れ着いて2週間。北朝鮮人権法により人道的処遇に努めた日本側対応もあり、4人は最後まで姿を見せることはなかった。船で直接日本に入ってきた脱北者という極めて異例のケースに日本の関係当局はどう対応したのか。連絡体制などに課題を指摘する声もある。
●人道的方針●
「日本海を漂流する不審な小型船がいる」との釣り人からの110番が入ったのは2日午前4時15分ごろだった。工作船の可能性もあり、地元の警察から青森海上保安部への電話連絡は約15分後。海保では、小型船の捜索に全力を挙げた。
3時間後には船は深浦港に接岸、4人を保護した警察の調べで「北朝鮮の公民証を持っている」「韓国行きを希望している」ことなどが判明、工作員の可能性は低く脱北者と判断されたことが、警察当局から午前10時過ぎには首相周辺に届いた。
こうしたことから、政府は、昨年施行された北朝鮮人権法の趣旨にのっとり、入管法による逮捕・取り調べではなく、入管の一時庇護(ひご)で対処する「人道的方針」を決めた。
海保が2日、周辺海域に派遣した航空機は9機、船艇は23隻に上る。小型船が、母船という大型の工作船から出された可能性を最後まで探るための捜索だった。
●覚せい剤●
3日の日韓外相会談。韓国の宋旻淳(ソンミンスン)外交通商相から話を切り出し、「人道的扱いを考慮してほしい」と求め、移送の流れが決まった。入管は警察施設での保護期限が切れる7日をめどに上陸許可を与え、出国させる方向で調整に入った。
ところが4日夕、20代後半の次男が微量の覚せい剤を所持していたことが報道される。警察庁サイドは「書類送検した段階で公表する予定」だったというが、入管幹部は「聞いてない。当初の予定はどうなるのか」と頭を抱えた。
警察の保護が切れるとはいえ、適当な施設は乏しい。インドシナ難民を受け入れた難民の一時受け入れセンターなどは05年3月までに次々と閉鎖、民間施設は警備上の問題が障害となった。
結局、4人は茨城県の入管関連施設の寮にヘリで移された。入管は「これは『収容』ではないから」と人道上の措置であることを強調した。
●連携に課題も●
青森地検は11日、次男の覚せい剤取締法違反について▽約0・6グラムと少量▽日本で使用、譲渡する意図はない--として起訴猶予にした。不法入国罪も問わなかった。「出国を最優先に考えたスピード決着」(検察関係者)だった。韓国は、施設に大使館員を派遣し、4人に意向を最終確認した。
一連の経緯を振り返り、法務省幹部は「今回のような『保護的ケース』ばかりとは思えず、各省庁の連携について新たな検討も必要だろう」と指摘した。
◇「自由、民主」叫ぶ--仁川空港到着
【仁川・堀山明子】16日午前11時55分ごろソウル近郊の仁川国際空港に到着した脱北者の家族4人は帽子を深くかぶり、白いマスクを着け、空港職員の案内で入国ゲートへ足早に移動した。
ベレー帽をかぶった高齢の男性は韓国に入国を希望した理由などを尋ねる報道陣の質問をさえぎり、「自由、民主主義、人権」と叫んだ。また、「韓国に来て気分がいいか」との記者団の質問に「いいです」と一言。「韓国料理は食べたか」と聞くと、「まだ、食べてないですよ」と短く語った。他の3人はうつむきかげんで黙って歩き、報道陣の質問に答えなかった。
空港ロビーには日韓の報道陣50人以上がカメラを構え、一時騒然となった。
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■脱北家族をめぐる動き■
5月27日 4人を乗せた船が北朝鮮の清津付近から出港?
6月 2日 船が青森県深浦港に接岸、4人を五所川原署で保護
3日 日韓両外相が4人を韓国に移送する方向で基本合意
4日 次男の覚せい剤所持が報道される
6日 4人を茨城県牛久市の入管関連施設に移送
入管が仮上陸許可
青森県警が次男を書類送検
11日 青森地検が起訴猶予
12日 入管が一時庇護(ひご)のための上陸許可
16日 未明に牛久市の施設から成田空港に移送され出国。韓国に到着
毎日新聞 2007年6月16日 東京夕刊
青森・脱北者保護:韓国に移送 スピード出国優先、「犯罪行為」は不問-アジア:MSN毎日インタラクティブ