2007年を斬る:北朝鮮に起死回生策アリ(後編) | trycomp2のブログ

2007年を斬る:北朝鮮に起死回生策アリ(後編)

6カ国協議は停滞、プルトニウム型放棄は核放棄に非ず

NBO 前回、この夏に南北首脳会談が行われるのではないかというお話を伺いました。仮説に仮説を重ねてしまいますが、だとしたら、6カ国協議はどうなるでしょう。

武貞 ここまでの読みが正しいとしたら、6カ国協議は、北が首脳会談に向けての雰囲気づくりをしていることと関連があるということになる。6カ国協議が続いているかぎり、国際社会は外交的努力で核問題を解決する流れにあると思うでしょう。米朝の協議も同様です。そのムードが続いていれば、南北は首脳会談の開催が決まったと発表しやすい。
6カ国協議はどうなるか

NBO すると6カ国協議は、「米国や、国際社会がいくら絡んでもうまくいかない」ということになりますか。

武貞 6カ国協議が膠着状態であり、かつ続いているという状態であることで、南北首脳会談への注目度が増す。そこに「核兵器開発問題で、北朝鮮が韓国に譲歩した」という展開になると、ニュースのインパクトが大きくなる。

 そもそも6カ国協議は、物別れになりましたけど、北が一番儲けちゃいましたよね。

NBO あれはそう取るべきなんですか。

武貞 中国に対して6カ国協議再開の提案をして、中国、米国と調整をして、「金融制裁停止」の一本槍で通すパフォーマンスをしたことまで、すべて北朝鮮の作戦勝ち。

NBO なぜです?

武貞 要するに、北京での会議では核問題の議論ができないまま終了して、米朝協議に期待が高まっている。米朝直接協議を提案してきたのは北朝鮮です。米朝協議で、金融制裁中止と韓国への米国の軍事コミットメントを低下させるための要求を米国に突きつけるためです。そのための米朝協議をやろうという考えです。米朝協議が続くために、6カ国協議は膠着状態のままになり、時間が過ぎていく。その間北は核問題に関して、何の義務も課されないままでいられます。

 時間が経つことで困るのは、北の弾道弾の射程内にある日本と、大量破壊兵器拡散防止を進めたい米国です。米国はイランの核開発問題、イラク情勢をにらみつつ、北朝鮮から外部に流れ出る核兵器、核技術、ミサイル技術が心配。時間が経てば拡散してしまう。北は時間があるほど核開発が続けられます。

NBO 北の経済がじり貧になるので、時間は北に不利に作用しているというのは。

武貞 むしろ時間が経てば、問題意識が風化して、対ロシア債務返済の免除、韓国からの経済支援、中国の北の地下資源への投資などがやりやすくなる、という見方もあります。
中国・韓国・ロシアはどう動く

NBO 核実験後、中国・韓国も態度を硬化させたとする報道が目立ちましたが。

武貞 核実験の後の10月、中国の北への原油輸出は前年同月比で87%余りも増加した。中朝間の貿易量は増える方向にある。そこに政治的意味があるのかどうかは不明ですが、核実験をしたからといって、中国、韓国、ロシアが北への経済支援、貿易を自粛したことはない。

 むしろ、「そのような北だから、経済的な動機を与えるために支援を加速しよう」という見方が目立ちます。韓国は太陽政策を続ける方針で、その方針を堅持する人が統一省長官になった。南北協力基金を減らすことはしない。中国は、長期的な50年計画で北の東北部にある茂山(ムサン)の鉄鉱石を開発するため、吉林省の会社が14億ドルを投資する契約に署名している。

 中国が対北経済制裁で米国と完全一致しているかと言えば、必ずしもそうじゃない。むしろ、船舶検査は米国、日本が実施する話で、中国と関係ないという感じです。中国には「6カ国協議が続いている間は、制裁という話じゃないはずだ」という姿勢が目立ち始めている。

 実は、北が中国に対して、6カ国協議再開のための調整を依頼したのは核実験の2日後です。調整役を快諾した中国は、米国との間で協議再開のための労を厭わなかった。そして、昨年10月末に6カ国協議再開の発表となった。

 中国には「6カ国協議を再開すれば、制裁を論議する流れは、外交的解決のありかたを論議する流れに変わる」という読みが早くからあったのです。北も北で、「6カ国協議から退場さえしなければ、中国は米国と一緒になって北への制裁をするわけにはいかないだろう」と計算していた。

 6カ国協議は、そもそも当初から北が「米国の軍事オプションへの楯」として考えていたフシがある。中国、韓国、北にとっては、北朝鮮問題を軍事問題から外交問題に転換させるための舞台作りという感があった。6カ国協議が継続して、査察、制裁、検証などの話が出ないまま、時間が経過することについて、「困る」と思う日本と米国、それほど困らないと思う4カ国の間には、温度差があると言わざるを得ない。

NBO 中国の北政策はそんなに米国や日本と違うのでしょうか。

武貞 中国にとっては、北朝鮮と日米双方から妥協案を出させて、新たな合意声明でも出せればベストだった。しかし、金融制裁問題で米朝が真っ向から対立してしまい、そこまでいかなかった。そこで6カ国協議をいったん仕切り直しにして、日取りは決めないけどもまた会おう、ということになった。

 でも、中国はホスト役の立場を守れたでしょう。「中国のメンツは壊された」という見方がありますが、6カ国協議を続けることで合意し、制裁論議を後退させたという点で、中国外交はそれほどダメージを受けてはいない。

NBO 顔を潰されたというところまではいっていないと。
中国の目的は「半島の現状維持」にあり

武貞 中国の目的は「朝鮮半島の現状維持」だと私は思っています。北朝鮮、米国と中国の関係をうまく維持して、米朝間を仲介しつつ、北への経済支援を続ける。そうしながら、金正日体制の崩壊を阻止し、朝鮮半島での戦争を防止することが中国の政策目標です。

 この2つの目的のためには、中国は朝鮮半島から核をなくすという目的は重要ではない。重要ではないので、中国は制裁には熱心ではないし、核拡散防止構想には冷ややかなのです。北を追い詰めることは、「体制崩壊防止、戦争防止」という、より上にある政策目標に反することなのです。延々と膠着状態の6 カ国協議が続くのは、中国にとっては困ることではない。

NBO そして時間稼ぎができ、朝鮮半島の核問題で閉塞感が高まれば高まるほど、前回お話を伺った「南北首脳会談開催」と「南北間の合意」というニュースのインパクトが大きくなり、首脳会談の実績が光り輝くと?

武貞 そういうことですね。いずれにせよ、これからの朝鮮半島情勢は、12月の韓国の大統領選挙を軸にして、北がどのように南への働きかけをしてゆくか、韓国の政権が国内政治をにらんでどう北と接してゆくか、という点が注目点です。そして、韓国の次の大統領が誰になるかで、米韓同盟の行方が決まり、その結果、「金正日の核戦略」がどう進むかも決まるでしょう。

NBO しかし、首脳会談の結果が本当に核放棄につながるなら、それはそれでいい話かもしれませんが、そんなことがあり得ますかね。そもそも、武貞さんの見方では、北の核放棄は金体制の考え方からしてあり得ない、ということでしたよね。
核兵器開発は「濃縮ウラン型」に注目を

武貞 実は12月の6カ国協議の前後、北から「近いうちに大きな展開がある」という話が出ていました。金融制裁の解除の仕方によっては、プルトニウム型の核施設の一部放棄があり得るということでしょう。可能性はあります。

 しかし、もうひとつの核兵器開発計画、濃縮ウラン型のほうを中止することはない。なぜなら、北朝鮮はその存在そのものを認めていないから。

 むしろ、北にとって、濃縮ウラン型の核開発計画を温存するために、プルトニウム型を衆人環視の下で解体するという選択は合理的かもしれない。世界に存在を知られてしまって、インターネットで施設の写真までが流れているプルトニウム型の核開発施設を解体することは、覚悟しているのではないか。だから、米国の専門家に寧辺(ニョンビン)の施設を進んで見せることまでした。「米国の譲歩案の中身次第で、プルトニウム型核兵器開発を放棄する」とは、北が一貫して言っていることです。

NBO 本来、6カ国協議はその、濃縮ウラン型核開発計画の存在を北に認めさせて、それを完全に解体することを承諾させるための枠組みだったはずですね。

武貞 ええ。ところがそれが今は、6カ国協議や米朝協議では濃縮ウラン型核開発計画の頭文字(HEU)さえ出てこない。このことは、2002年以降の交渉のなかで、北がいかに巧妙に立ち回ってきたかを物語っています。

 北はこの流れにヒントを得た。「プルトニウム型施設解体と引き換えに、米国から大きな譲歩を獲得できるのなら、それを解体して、米国の影響力を北東アジアから駆逐したうえで、濃縮ウラン型核開発計画を温存して、核保有国として北主導の統一戦略を完成する」という積極外交に出始めているんじゃないか。

NBO しかし、それでうまくいくと考えているとしたら、あまりに虫が良すぎる気がしますが…。
「自国開発の」核兵器、という意識を軽く見るな

武貞 もちろん、仮に北が「我が国では濃縮ウラン関連は国防関連の話であり、核開発とは関係しない」と言ったところで、それが国際社会でどのように認定されるかは別問題ですけどね。申し上げたいのは、プルトニウム型の放棄を言い出したことが、もしかしたら、濃縮ウラン型の開発が順調に進んでいることの裏返しである、そうした可能性もあるということです。

 自主開発の核兵器を持った、ということの意味を北朝鮮、金正日がどう考えているかを、我々はもっと真剣に捉え直した方がいい。

 昨年10月9日の核実験から6か国協議再開の提案、北京での6カ国協議を経て、1月1日の新年共同社説に至るまで、北は、核実験を長い主体性(チュチェ)追求の歴史の中で総括しているんです。彼らは「中国、ロシアに頼らない自主開発による核抑止力を持ったのだから、米国や中国、ロシアは北の政策に耳を傾けるべきだ」という積極外交を展開し始めた、という印象があります。ブラフや交渉材料というだけでなく、国の動かし方を変えるくらい重要な意味が、彼らにとっての核兵器にはあると思う。

 先に申し上げたように、韓国の対北感情を好転させ、米国の影響力を削ぐためになら、核放棄のステップに足をかけることはあるかもしれない。私たちが考えているような意味で、本当に核を廃棄することは、まずないでしょう。
2007年を斬る:北朝鮮に起死回生策アリ(後編) (ニュースを斬る):NBonline(日経ビジネス オンライン)