北朝鮮からのシグナル(佐藤優) | trycomp2のブログ
◆在日団体への法適用で拉致問題動く
最近、北朝鮮が本格的に逆ギレしている。日本ではあまり知られていないが、北朝鮮が公式シグナルを発信する重要なウエブサイトがある。
「ネナラ(朝鮮語で「わが国」の意)・朝鮮民主主義人民共和国」(http://www.kcckp.net)で九カ国語版のホームページがあるが、そのうち筆者が理解できる朝鮮語、英語、ロシア語、ドイツ語を比較してみると、テーマや内容に少しずつ違いがある。工作のプロが各国別に情報操作を行っているのである。三月末に重要なシグナルが出されたのでその意味を解読してみたい。
〈米国と日本の情報・謀略機関、右翼保守勢力にあやつられている反共和国団体や個々の人物が「人道主義」の美名のもとに「非政府機関」の仮面をかぶり、白昼公然とわが国の公民に対する誘拐・拉致行為を行っている。われわれはこうした行為を、われわれの国家主権と公民の身辺に対する重大な侵害、われわれの体制転覆をねらう策動の一環とみなしている。これに基づき、朝鮮民主主義人民共和国刑法および刑事訴訟法の該当条項に則して、一次分として日本の「非政府機関」の成員であるY、K、N、R(注「ネナラ」ではいずれも実名)に対する逮捕状が発された。以上の者は、日本で暮らして祖国に帰ってきたわが国の公民とその子女、在朝日本人女性をはじめ、朝鮮民主主義人民共和国の公民に対する誘拐・拉致事件を裏であやつったり、これに直接関与した。われわれは外交ルートを通じて、逮捕状が発された者を引き渡すよう日本政府に要求した〉
この報道は、朝鮮中央通信記者の質問に対して、三月二十七日に北朝鮮人民保衛省スポークスマンが答えたという体裁になっている。通常、この種のシグナルは北朝鮮外務省スポークスマンの声明の体裁で流されるのだが、今回は秘密警察である人民保衛省が表に出てきている。
この人民保衛省こそが日本人を拉致した特務機関だ。北朝鮮の人民保衛省はその活動をできるだけ秘匿しようとするのであるが、今回はスポークスマンという形を取って表に姿を現してきたこと自体が重要なシグナルなのである。
もちろん北朝鮮が主張する日本のNGO関係者が北朝鮮人の拉致に関与しているなどという言い掛かりにまともに対応する必要はない。ましてや北朝鮮が関係者に対し、逮捕状を出し、日本政府に対して外交ルートで引き渡しを要求するなどというのは笑止千万の話なので、日本外務省はその場で拒否すべきだ。ただし、ここで北朝鮮の内在的論理を正確にとらえなくてはならない。
北朝鮮外交は「求愛を恫喝(どうかつ)で表現する」文化を持つ。今回、今まで表に出てこなかった、日本人拉致に直接関与し、恐らくは横田めぐみさんの偽遺骨引き渡し工作にも関与したであろう人民保衛省が日本政府と「日本人による北朝鮮人の拉致問題」を巡り協議するという形でチャンネルを開きたいというシグナルを送ってきたことを軽視すべきではない。このチャンネルから北朝鮮と接触すれば、これまでとは異なる交渉ができるかもしれない。試す価値はある。
なぜ北朝鮮はこのタイミングでシグナルを送ってきたのか。このヒントは「ネナラ」に掲載された三月二十八日の北朝鮮外務省スポークスマンの声明にある。
〈日本当局は三月二十三日、警視庁公安部の主導のもとに数十人の大阪府警察機動隊を動員して、在日本朝鮮人大阪府商工会とわが同胞が経営する商店や家宅など六カ所に対する強制捜索を強行するなど、総聯の弾圧に平然と国家権力を投入した。のみならず、日本当局はすでに総聯の中央会館や東京都本部の会館、出版会館に対する固定資産税減免措置を取り消して差押処分を下し、ついで「現行法の厳格な適用」という美名の下に、全国のすべての総聯関連施設に対する地方自治体の固定資産税減免措置を完全になくそうとするなど、総聯を崩壊させるための財政的圧迫をさらに強めている〉
日本政府が朝鮮総連の経済活動に対し「現行法の厳格な適用」で圧力を加えたことに北朝鮮が逆ギレして悲鳴をあげたのだ。「敵の嫌がることを進んでやる」のはインテリジェンス工作の定石だ。
政府が「現行法の厳格な適用」により北朝鮮ビジネスで利益を得ている勢力を牽制(けんせい)することが拉致問題解決のための環境を整える。
FujiSankei Business i. ラスプーチンと呼ばれた男 佐藤優の地球を斬る/北朝鮮からのシグナル(2006/4/13)
