北朝鮮はやはり「テロ支援国家」――米議会調査局が報告 | trycomp2のブログ
北朝鮮はやはり「テロ支援国家」――米議会調査局が報告
国際問題評論家 古森 義久氏
2008年1月15日
北朝鮮はやはり「テロ支援国家」である――こんな判定が米国議会の調査研究機関によって改めて下された。2007年12月のことである。これでブッシュ政権も北朝鮮の「テロ支援国家」指定解除が、ますます実行しにくくなったといえよう。2008年の日本にとっての北朝鮮問題の行方にも、一つの有力なファクターとなる判定であろう。
北朝鮮による日本人拉致事件の解決は2008年も国民的な悲願として論議の対象となることは間違いない。この拉致問題と密接かつ複雑にからみあっているのが北朝鮮の核兵器開発問題である。その核問題に外部から対処する最大の当事者は一貫して米国だといえる。米国は拉致問題解決にも大きなカギを握る。だから米国の北朝鮮への姿勢は日本の立場をも根底から左右する。
その米国の姿勢はこのところ北朝鮮への軟化や融和のようだったが、そんなアプローチにまた新たな抑制が生じてきた。その抑制の原因の一つこそが、北朝鮮はやはり「テロ支援国家」だという認定だといえよう。
米国と北朝鮮との相互の接近は2007年後半の東アジアを揺さぶる大きな動きとして、日本にも錯綜(さくそう)した波紋を投げ続けた。なかでも米国政府が「テロ支援国家」指定のリストから北朝鮮を核問題での協力と引き換えに外そうとする動きは、日本側に深刻な懸念を生んでいた。その解除は北朝鮮への米国や国際機関からの経済支援を可能にし、日本の北朝鮮への制裁措置を骨抜きにしてしまうからだ。
平沼赳夫衆議院議員を団長とする合同訪米団の昨年11月のワシントン訪問も、米側の政府や議会に日本のその懸念を伝え、北朝鮮の「テロ支援国家」指定解除への強い反対を表明したのだった(本コラム 第62回:拉致問題、米への直接アピールの成果)。
2007年11月というその時点では、ブッシュ政権が同年末までには、その指定解除の措置を具体的にとるという展望が語られていた。日本側の米国通とされる向きの間でも、「ブッシュ政権は北朝鮮の指定解除をもう決定したから、日本側が抗議しても無駄だ」と断言さえされていた。
ところが2007年が幕を閉じ、2008年も2週間が過ぎた現在、ブッシュ政権が北朝鮮を「テロ支援国家」のリストから排するという気配は、まだうかがわれない。それどころか北朝鮮は「テロ支援国家」としての特徴をますます強めてきた、という診断が下されているのだ。こうした事態はブッシュ政権内部でも北朝鮮との融和をとにかく急ぐ国務省をいらだたせ、そんな路線がそもそも不適切ではなかったのか、という懐疑を生んでいる。
約束を果たさない北朝鮮
米国側は北朝鮮が核問題できちんと合意の実行を果たしてこそ、「テロ支援国家」の指定解除に応じるという構えだった。だが北朝鮮は合意を果たさないことが2007年末の時点では明白となった。日本時間の12月31日、国務省のケーシー副報道官は次のように言明した。
「北朝鮮が『すべての核計画の申告をする』という約束を果たしていないことは残念だ。今後、米国政府は北朝鮮にすべての核兵器と核兵器開発計画、核拡散活動を含めた完全かつ正確な申告と、合意した核施設の無能力化の完了を促していく」
要するに北朝鮮は核に関する合意をさまざまな点で実行していない、と断じ、その実行をこれからも迫っていく、というのである。だから現時点では、「合意の実行」への見返りとしての「テロ支援国家」指定解除はできない、というのである。こうした事態の展開は、「指定解除はもう決定ずみ」という解釈とは、あまりにも異なっている。
日本側でこうした解釈が誤っていたことは、もはや明白だといえる。指定解除は今後なお起きる可能性があるにせよ、「既に決定」などという断定には、なんの根拠もないことが判明してしまった、といえそうだ。だから平沼訪米団の効用も、いまではきわめて高かったといえることにもなってくる。同訪米団は訪問の任務を「指定解除への反対」という一点にしぼり、激しく、強く、日本の拉致問題の重要性を訴えたからだった。米国の政府や議会の内部では、日本の議員たちの例のない強硬な抗議は珍しいほどの重みをもって受け止められたようなのだ。
さてこうした背景のなかで、北朝鮮がなおテロ支援国家と呼ばれざるを得ない行動をとっていることを新たに指摘したのは、米国議会調査局の調査報告だった。「北朝鮮=テロリズム・リストからの解除?」と題する報告書である。作成者は議会調査局で長年、朝鮮半島情勢を追っている専門官のラリー・ニクシュ氏だった。議会調査局というのは米国連邦議会の機関で、上下両院の議員の法案審議のために調査や研究を果たすことを目的とする。これら報告書も議員たちの審議資料である。だからそれなりの重みがあるということだ。
今も国際テロ組織を“支援”している
同報告書は19ページから成り、「テロ支援国家」の指定や解除の仕組みを説明したうえで、北朝鮮がそもそもなぜ指定されてきたかを報告したうえで、最新の重要な情報として以下のことを記していた。
北朝鮮はイランを仲介としてレバノンの国際テロ組織「ヒズボラ」に武器を供与して、要員を訓練し、特に2000年以降、レバノンに専門家集団を派遣して、ヒズボラの戦闘要員に地下軍事施設の開発方法を指導してきた。その結果、2006年のイスラエルとヒズボラの軍事衝突ではヒズボラの戦闘能力が強化された。なおヒズボラは米国政府からも国際テロ組織として認定されている。
北朝鮮のミサイル類がイラン領内で組み立てられ、シリア経由でレバノン領内のヒズボラに供与され、2006年の上記のイスラエルとの戦闘で使用された。
北朝鮮は2006年から2007年にかけて、スリランカのテロ組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)に機関銃、対戦車ロケット砲などを数回にわたり、ひそかに輸出した。LTTEも米国政府から国際テロ組織に認定された集団である。
同報告書は結論として「北朝鮮のテロ組織支援のこうした情報を無視する形でのテロ支援国家指定からの解除はそもそもの指定措置の信頼性を奪う」と警告していた。つまり「北朝鮮の指定は解除すべきではない」という総括である。
議会調査局ではこの種の情報は公開の学術発表やマスコミ報道から引用する形が多いが、米国政府機関の情報とも照らし合わせて判断することが普通である。たとえ単なるマスコミの報道の引用であるかのようにみえても、実際には米国政府の情報機関の情報を独自に参照にしている場合がほとんどだといえる。でなければ、米国議員の政策や法案の審議用に提示するはずがない。そういう機関の報告が今回のレポートなのである。
この報告書は、さらに現在のブッシュ政権が「北朝鮮は1987年以来、テロを実行していない」という見解を新たに打ち出して、北朝鮮を「テロ支援国家」の指定から解除しようとしている現状をも伝えていた。しかし、今現在も実際には北朝鮮はテロ組織への武器や技術の供与を続けており、まさに「テロ支援」に匹敵する、と指摘するわけである。
日本との関係にも言及する報告書
同報告書は米国政府がそもそも北朝鮮をなぜ「テロ支援国家」に指定したかの経緯を説明し、その指定の解除のためには「日本人の拉致事件の解決あるいは進展」が前提条件の一つになっていたことをも詳述していた。だが2007年に入ってから北朝鮮の核兵器開発を防ぐための6カ国協議や米朝協議の結果、米国政府は国務省主導で日本人拉致に関する前提条件を引っ込め、日本人拉致を切り離すようになったのだという。
米国政府自身が明確に「前提条件」と宣言していた日本人拉致の解決をいまや北朝鮮の「テロ支援国家」指定とは無関係だとする立場へと変転したことになる。北朝鮮の「核無能力化」と引き換え、ということである。しかし皮肉なことに、北朝鮮はその「核無能力化」や同時に公約した「核計画の全面申告」を果たしてはいない。こうした状況を同報告書は詳しく述べていた。
議会調査局のこの「北朝鮮=テロリズム・リストからの解除?」報告書はさらに日本にとって注視すべき点を強調していた。以下の記述である。
「もし米国政府が日本人拉致の解決や解決への前進を無視して、北朝鮮を『テロ支援国家』リストから外した場合、日本政府はその解除の動きに既に反発しているが、いざ解除となれば、さらに反発を強め、日米関係を傷つけることになる」
日本の反発は米国政府として考慮すべき重要な点だという指摘だった。この点をブッシュ政権の国務省がどの程度まで重視するかが注目される。
ただし、この報告書の最大要素は、あくまで北朝鮮がここ数年来、そして現在にいたるまで「ヒズボラ」と「タミル・イーラム解放のトラ」という米国政府自身がテロ組織と認定した相手に武器類を供与してきた、という情報の提示である。
米国政府はそれでもなお北朝鮮を「テロ支援国家」の指定から解除するという権限は有しているわけだが、この報告書の指摘はその解除へのハードルをまた一段と高くした、とみることはできる。つまり米国の北朝鮮への融和にまた一つ、抑制のブレーキがかけられた、ということである。
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北朝鮮はやはり「テロ支援国家」――米議会調査局が報告 / SAFETY JAPAN [古森 義久氏] / 日経BP社
