横田さんと面会の米大統領 背後に綿密な外交戦略 | trycomp2のブログ

横田さんと面会の米大統領 背後に綿密な外交戦略

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 ブッシュ米大統領はこのほど、北朝鮮による拉致被害者横田めぐみさんの母早紀江さん(70)らと面会した。この会談の背後には、ブッシュ政権のどのような外交戦略的意図が込められていたのか、検証した。
(ワシントン・早川俊行)
中韓両国にも警告
政府挙げて人権重視
 「プレッシャーを与えるためにここに置こう。きょうはたくさんしゃべるぞ」――。

 二十八日午前十一時すぎ。ホワイトハウスのオーバルオフィス(大統領執務室)に、ブッシュ大統領は早紀江さんらを笑顔で招き入れた。同席した息子の拓也さん(37)によると、大統領は会談の冒頭、脇のテーブルにめぐみさんのパネル写真を掲げることを提案してきたという。

 「プレッシャーを与える」対象とは、言うまでもなく北朝鮮だ。こうしたやりとりからも、ブッシュ大統領が今回の面会を北朝鮮にメッセージを送る機会と位置付けていたことがうかがえる。

 横田さんらと面会することが公になったのは二日前。急遽(きゅうきょ)セッティングされたような印象を与えるが、実は極めて綿密な外交戦略に基づいていた。それを端的に表しているのが、招待された顔触れだ。

 横田さんとともに面会したのは、北朝鮮を脱出して韓国に亡命したキム・ハンミちゃん(6)一家、韓国で北朝鮮向けラジオ局「自由北朝鮮放送」を運営する脱北者の金聖民代表。

 ハンミちゃん一家は二〇〇二年五月、中国・瀋陽の日本総領事館に駆け込み、武装警官に阻止された。一家は韓国に亡命できたものの、中国政府は脱北者の摘発、強制送還を続けている。

 ブッシュ大統領は、先月二十日の米中首脳会談で、昨年十二月に北京の韓国人学校に駆け込もうとして、中国公安当局に拘束された女性が北朝鮮に送還された問題を取り上げるなど、中国側の対応に強い不満を抱いている。ハンミちゃん一家との面会は、中国に対する強い警告であることは間違いない。

 また、一方、金聖民氏は韓国・盧武鉉政権の対北融和姿勢を批判しており、同氏を招いたことは、韓国の北朝鮮政策に対する苦言にほかならない。加藤良三駐米大使が同席した日本側とは対照的に、韓国側には駐米大使の姿がなかったことも現在の状況を表している。

 このように、ブッシュ大統領は北朝鮮だけでなく、中韓両国にも強い圧力を掛けたといえる。

 今回の面会では、もう一つ大きな特徴があった。それは米政府の上層部が顔をそろえたことだ。

 ホワイトハウス高官では、ボルテン首席補佐官、ハドリー補佐官(国家安全保障担当)、クラウチ副補佐官(同)、マクレラン報道官が同席。また、ヒル国務次官補(東アジア・太平洋担当)やチャ国家安全保障会議(NSC)アジア担当部長、レフコウィッツ北朝鮮人権問題担当特使ら、北朝鮮問題を管轄する幹部も出席した。

 「高官がこれだけそろうことはないといわれるくらいお見えになっていた」と早紀江さん。高官たちは大統領執務室で二列になって座り、「大統領の話を一言も漏らさず、それぞれノートに書き込んでいた」(拓也さん)という。

 この異例の対応について、「救う会」副会長の島田洋一福井県立大学教授は、「大統領が北朝鮮政策の方針を示すために彼らを呼んだ。今回の面会は、政府内に向けた大統領のメッセージでもある」と分析する。

 これまでは米政府の北朝鮮に対する最大の関心事は核問題だったが、大統領が横田さんらと面会したことを受けて、拉致を含む人権問題へのウエートが、今後一段と高まる可能性が高い。その流れの中で、北朝鮮へのブッシュ政権の圧力も強まることが予想される。

米大統領・横田さん面会の意義
「救う会」副会長・福井県立大教授 島田洋一氏に聞く
 ブッシュ米大統領と横田早紀江さんの面会実現は、今後、拉致問題の行方にどのような影響を与えるのか。今回、横田さんとともに米下院公聴会で証言した拉致被害者家族支援団体「救う会」副会長の島田洋一福井県立大学教授に聞いた。
(聞き手=ワシントン・早川俊行)

――ブッシュ大統領が横田早紀江さんと面会した意味は何か。

 ブッシュ政権が人権問題への取り組みを強めていくというメッセージだろう。具体的にどういう動きに発展するかは分からないが、一つはっきり言えることがある。ブッシュ大統領は早紀江さんとお互いにクリスチャンであるという話をし、三回以上も握手をしたそうだ。この事実を受け、米政府は今後、人権問題で明確な進展が見られなければ、核合意が進行しても北朝鮮に経済援助をすることはないだろう。そんなことをすれば、ブッシュ大統領が早紀江さんを裏切ったという話になるからだ。

 また、ブッシュ大統領は「一国のリーダーが子供の拉致を奨励することなど想像できない」と語った。米国の大統領が、金正日個人が拉致を指令したとの認識を示したことは重要だ。

 ――今回の面会は、米国の北朝鮮政策に影響を与えるということか。

 まさにそうだ。面会の場には、六カ国協議の担当者であるヒル国務次官補やレフコウィッツ北朝鮮人権問題担当特使らも同席した。これは、大統領が北朝鮮政策の方針を示すために彼らを呼んだわけだ。つまり、今回の面会は、政府内に向けた大統領のメッセージでもある。その意味で、非常に大きな成果だったと思う。

 ――横田さん以外に、北朝鮮を脱出して韓国に亡命したキム・ハンミちゃん親子も招かれた。

 ハンミちゃん一家を北朝鮮に送り返そうとした中国に対する警告であることは明白だ。また、韓国政府がつぶそうとしている北朝鮮向けラジオ局の金聖民代表も招かれたが、これは盧武鉉政権に対する警告だ。戦略的判断に基づく人選であり、北朝鮮、中国、韓国に対して同時に圧力を強めていく方向が示されている。

 ――拉致問題を七月のサンクトペテルブルク・サミット(主要国首脳会議)で取り上げるべきとの意見が出ているが。

 サミットで取り上げることが大切ではないとはいわないが、それよりも情報収集のほうが重要だ。「救う会」のような小さな組織が調査しただけでも、日本人以外に拉致されたケースが確定している。米国が一九七七、七八年ごろに若者が行方不明になったケースを徹底的に洗い直せば、必ず新たな拉致事例が出てくるはずだ。米国にも拉致被害者がいたことが判明すれば、米政府も本格的に対応せざるを得ない。米議会を中心にその情報収集キャンペーンをやってもらいたい。

 曽我ひとみさんの夫チャールズ・ジェンキンスさんら脱走米兵四人は皆、拉致被害者と結婚している。ジェンキンスさんは、外国人同士を結婚させて、西欧風の顔をした子供を産ませ、彼らを在外米軍基地を狙う工作員として使おうとしていたと証言している。こうした工作員をたくさん養成するために、米国人を拉致してこいという話が出ていたとしても不思議ではない。これは米軍の安全に関係する問題であり、決して日本と北朝鮮のバイラテラルな(=二国間の)問題ではない。

 なぜ七七、七八年かといえば、金正日が拉致の指令を出したのが七六年半ばといわれているからだ。当時の米国は、世界から甘く見られていたカーター政権であり、海外を旅行していた若者などが被害に遭っていたとしてもおかしくない。

 こうした新たな情報が出てくることが国際的な運動につながっていく。
北米・中南米/ワールド・スコープ