きっと帰ってくる 松本京子さん失踪、あす30年
北朝鮮による拉致被害者と認定された鳥取県米子市、松本京子さん=当時(29)=が失跡して二十一日で丸三十年を迎える。昨年十一月に政府が拉致事件と断定したことで全容解明への期待が高まったが、これまでのところ進展はない。しかし兄、孟さん(60)は「三十年は長かったが、これからはそんなことはない」と自らを奮い立たせ、問題解決に取り組んでいる。
京子さんが拉致認定されてから、孟さんは家族会の会合や内閣府からの情報提供がある度に上京するようになった。各地から講演会への招請も相次いでいる。「忙しいが、裏を返せばありがたい話。これまでいろんな人に支えてもらったので協力しないと」と言い切った。
■希望を胸に
昨年十一月の拉致認定は家族にとって大きな希望になった。家族会に入ったことでほかのメンバーから情報が入るようになった。県内では、帰国後の支援体制を準備するための協議会も発足した。「拉致」の疑いを口にすることもためらわれ、相談する当てもなくむなしく過ごした二十九年間との決別だった。
それだけに安倍首相の退陣は衝撃的だった。就任早々に拉致問題対策本部を設置し、経済制裁を発動するなど素早い対応に期待は高まったが、裏切られた格好に。それでも「拉致が確実視されているのに認定されない人もいる。妹が帰国できれば命の恩人は安倍さん」と深く感謝している。
一方、最近の情勢変化には神経をとがらせている。朝鮮半島の非核化をめぐって米朝両国は協調路線に転じたことから、家族会はテロ支援国家指定継続を求めるため訪米を予定。韓国大統領選の行方も拉致問題に大きく影響するとして訪韓も計画している。孟さんもこうした活動にかかわらざるを得ないという。
その家族会も長年代表を務めてきた横田滋さんが退任を表明。福田政権は北朝鮮との対話路線を打ち出しており戦略の練り直しを迫られている。
■待つ母の思い
母、三江さん(84)は「どうにもこうにも、息をしているうちに帰ってくれれば」と祈るような気持ちでいる。自室に写真を飾り、片時も京子さんのことを忘れたことはない。今年も好物だったたくあんを漬けるつもりだ。畑でダイコンを育てるほど元気だが、最近は物忘れも多くなってきた。京子さんが就職してからこまめに整理していたアルバムを見ると、せきを切ったように思い出話が出てくるのだが…。「三十年の月日は怖い」と孟さんは漏らした。
時折、京子さんの友人が三江さんを気遣って訪れ、畑で一緒に弁当を食べていくこともあるという。孟さんは「妹はいい友達をもった」と目を細めた。
家族会メンバーも特定失踪者の家族も高齢化が目立つ。孟さんも「本当に手遅れになってしまう」と焦る気持ちを漏らしたが、問題が解決する条件は整ってきたとみている。「来年の桜の花が咲くころにはきっと何かが見えてくる」と自らに言い聞かせるようにうなずいた。
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