脱北者に誘導工作「肉親の情」悪用…電話で帰国促す
北朝鮮を脱出し日本で暮らしていた日本国籍の女性が6月、生活への不満を口にし北朝鮮に戻った。女性のもとには北朝鮮に残る家族から「早く会いたい」などと戻るよう促す電話が頻繁にあった。2年前に北朝鮮に戻った別の脱北女性にも、同じように“電話攻勢”があったとされる。専門家は「日本にいる脱北者はほぼ全員が電話を受けている」と指摘し、「肉親の情」を利用した北朝鮮の“誘導工作”が浮かび上がる。
関係者によると、女性は川崎市出身の朝鮮名「ト・ツジ」さん(57)。日本名は石川一二三(ひふみ)で、在日朝鮮人の父と日本人の母の三女として生まれ、1960年に両親と北朝鮮に渡った。
2003年10月に中国へ脱北し、その後、日本に帰国して千葉県内に住んでいた。先月26日、北京の北朝鮮大使館で記者会見した後、北朝鮮に戻った。
2年前には、在日朝鮮人と結婚した日本人妻、平島筆子さん(68)が帰国後に再び北朝鮮に戻っている。
2人とも、北朝鮮に残した家族をしきりに気遣っていた。トさんと日本で付き合いのあった脱北女性は「家族から『早く会いに来てほしい』という電話がしょっちゅうあると話していた」と証言。生活保護費がコレクトコールの国際電話代で消えることもあったという。
この女性は、トさんが離日する前日に2万円を貸した。「中国に行って(中朝国境で)子供と会い、2、3日で戻ってくる。生活保護のお金が出たら払うので、貸してほしい」と頼まれた。
「肉親の情」につけ込む工作は北朝鮮の常套(じょうとう)手段だ。日本人拉致事件でも、北朝鮮にいる家族・親類を“人質”に、在日朝鮮人を犯行に引きずり込んだ。今回も北朝鮮当局が家族を通じて「帰国」を促したことは、ほぼ間違いない。
「救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク(RENK)」代表の李英和関西大学教授は「100%北朝鮮の工作活動だ」と断言。「北朝鮮は肉親の情を逆手に取り、『帰らないと(家族が)迫害を受ける。戻るしかない』と思わせる。日本政府、関係機関は(脱北者を守る)対策を立てるべきだ」と話す。
「工作」をうかがわせる点は他にもある。突然、北京の北朝鮮大使館に現れて会見を行い、すぐに北朝鮮入りする手際の良さ。李教授は「右も左も分からない脱北者がいきなり飛行機に乗り、北京の大使館へ直行できるわけがない。日本に事前手配をする工作網があり、北側と連携しているはずだ」と指摘する。
北に戻ったトさんの動静は伝わってきていないが、平島さんのケースでは、北朝鮮メディアが「(脱北は)誘拐、拉致された」と平島さんが主張していると報道、宣伝活動に利用された。拉致問題は「解決済み」と主張し日本の世論の沈静化を狙う一方で、対外的には「日本も拉致をしている」との印象をうえつける戦略が透けてみえる。
「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の三浦小太郎代表は「北朝鮮当局が拉致被害を演出し、自らの拉致犯罪への追及をかわす手段にしている」と話している。
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