【正論】小此木政夫 韓国の対北政策は変化するか | trycomp2のブログ
■李政権は「強硬」「穏健」の二重路線
≪宥和的姿勢の行方は?≫
2月25日に韓国で李明博政権が発足した。率直に言って、盧武鉉政権のイデオロギー過剰の政治に辟易(へきえき)としていた多くの日本人は胸をなでおろしたのではないか。この間の日韓関係の悪化について、先方だけに責任があるとは思わない。しかし、イデオロギーや歴史観の押し付けは御免こうむりたい。
その反動もあって、李大統領の「実用主義」は概して好感を持って受け止められているようだ。それによって歴史や領土問題が早急に解決されるわけではないが、それらに固執して「理念闘争」を展開するよりも、李政権は日韓の経済連携を強化して、経済実利を追求すると理解されているからである。それは大筋で間違いない。
しかし、李大統領の登場によって、韓国の北朝鮮政策が大きく軌道修正され、宥和(ゆうわ)的な政策が一掃されると考えるのは誤りである。大統領就任演説で「南北関係はこれまで以上に生産的に発展しなければなりません。理念の物差しではなく実用の物差しで解決していきます」と指摘しているように、そもそも、李大統領は理念的な保守主義者ではないのである。
もちろん、李明博大統領は無条件の宥和主義者でもない。選挙公約の「非核・開放・3000(北の国民所得3000ドル)」を繰り返し、「南北協力に新しい地平が開かれるだろう」と主張しているが、それには「北朝鮮が核を放棄して、開放の道を選べば」という条件が付けられている。南北首脳会談の呼びかけにも、「そのためであれば」という条件を付している。
≪主導権奪回に主眼が≫
いいかえれば、李政権の対北政策を「強硬だ」「穏健だ」と表現するのは、あまり適切でないのだろう。その第1の特徴は北朝鮮政策への企業家的な「実用」概念の導入であり、相手側の出方によって「強硬」と「穏健」を使い分ける「二重路線」ないし「相対主義」である。それによって、李大統領は南北対話の主導権を奪回しようとしているのである。
第2の特徴は、その北朝鮮政策が対外関係、とりわけ米国との「戦略的同盟関係」によって強く拘束されていることである。李大統領は米韓関係の再強化を掲げてきただけでなく、たびたび「米韓関係が良くなれば、南北関係も良くなる」と指摘してきた。大統領就任式後のライス国務長官との会談でも、それを繰り返している。北朝鮮への「理念的な共感」が失われたことの帰結だろう。
米韓同盟を基礎にして北朝鮮政策を設定しようとすることは決して悪いことではない。それは日米韓の協調を復活させ、これまで以上に6者会談の枠組みを重視することでもある。しかし、それが韓国から対北政策の独自性を奪うことを忘れてはならない。もしブッシュ政権が北朝鮮の核計画申告問題で再び妥協すれば、韓国もそれに追従せざるを得なくなるだろう。
第3に、北朝鮮が「非核・開放」に応じない場合、李明博政権は「ムチ」を振るうことができるだろうか。いまさら開城の軽工業団地を閉鎖して、韓国の中小企業を撤退させたり、食料、肥料などの人道援助を停止したりすることはできないだろう。李大統領自身もそれに否定的である。しかし、大規模な経済支援を提供しないだけならば、李政権の対北政策は盧武鉉政権の宥和政策とほとんど同じだということになってしまう。
≪変化の可能性は総選挙後≫
いま一つ李明博大統領の対北政策を拘束するものがあるとすれば、それは国内政治、とりわけ4月9日の総選挙である。周知の通り、総選挙は少数与党になったハンナラ党が過半数を獲得する好機であるが、北朝鮮政策に関する限り、李政権はより宥和的な旧与党系の統合民主党と理念的な保守政党である自由先進党によって挟撃されている。李政権の二重路線はそのような国内政治的な立場を反映するものでもある。
以上のことを総合すれば、李明博政権の対北政策が具体的な形を整えるのは、早くても総選挙後、4月後半に予想されるブッシュ・李首脳会談以後のことである。その間、北朝鮮はできるだけ李明博政権に関する評価を避け、米国との核交渉に全力を尽くすだろう。これは一種の迂回(うかい)戦術である。
今後に予想される最悪のシナリオは、北朝鮮が「非核・開放」に十分に応じないにもかかわらず、ブッシュ政権が核計画の「完全な申告」のハードルを下げて、北朝鮮と妥協してしまうことである。その場合、韓国はそれに追従し、北朝鮮から「当事者能力を欠いた」「無思想な」政権として嘲笑(ちょうしょう)されつつ、寛大な援助を提供することになる。(おこのぎ まさお・慶応義塾大学教授)
【正論】小此木政夫 韓国の対北政策は変化するか - MSN産経ニュース
