社説:2児拉致事件 厳正な捜査で真相究明を | trycomp2のブログ

社説:2児拉致事件 厳正な捜査で真相究明を

 73年に行方不明になった北海道出身の主婦、渡辺秀子さんの2人の子供が北朝鮮に拉致された疑いが強まり、犯行を主導した工作員とみられる東京・品川の貿易会社役員だった女について、警視庁公安部が国外移送目的略取容疑で逮捕状を用意した。近くICPO(国際刑事警察機構)を通じて国際手配するという。

 女は79年、やはり2児の拉致にかかわった工作員とされる元夫とともに、香港に向けて出国したままだ。現在は北朝鮮にいるとみられるが、拉致問題は解決済み、とする北朝鮮が今後、身柄の引き渡しや日本の官憲による取り調べを容易に認めるとは考えにくい。他に逮捕状が出ている6事件、8人の拉致容疑者と同様、逮捕状が執行できるかどうかは微妙だが、警察当局としては容疑が浮上した以上、証拠の収集や真相の究明に全力を挙げるべきは当然である。

 2児の事件は、他の拉致事件とは様相が異なる。国外に不法に連れ出された点では変わりがなく、許すべからざる主権の侵害だが、渡辺さんの夫は在日朝鮮人で、2人の子供も朝鮮籍だ。日本国民を要件とする拉致被害者支援法の被害者には該当しない。

 拉致の目的も、他の被害者とは違うようだ。渡辺さんは夫が工作員であると友人に打ち明けていたといい、夫が突然、姿を消した後は2人の子供を連れ、夫の勤務先で、女が役員を務めていた貿易会社などを訪ねていた。同公安部などによれば、その直後に母子3人は監禁された上、渡辺さんは殺され、子供2人は北朝鮮に連行されたらしい。渡辺さんが夫や貿易会社の秘密を知ったために口封じにあったのではないか、というのが同公安部などの見方だ。事実とすれば、スパイ映画さながらの大胆不敵で非情極まる犯行である。

 北朝鮮が工作員を頻繁に密出入国させ、在日朝鮮人を協力者に仕立てながら対日・対韓工作を企てたり、在日米軍などの情報を収集していることは昔から知られていた。最近まで暗号無線が飛び交っていた事実もあり、工作員を摘発したことも少なくない。しかし、堂々と東京23区内に構えた貿易会社が裏面では工作機関だったとすれば、衝撃的な事実だ。日航機「よど号」乗っ取り犯の日本潜入や偽造旅券入手にも深く関与していた疑いが濃く、北朝鮮本国の指令を受けながら、組織的な工作活動を展開していたとみるべきだろう。

 渡辺さんの夫は自衛隊幹部らと接触していた、との情報もあり、情報事件としても捜査を進める必要がありそうだ。また、貿易会社の設立には在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の当時の最高幹部の一人がかかわったとされるだけに、朝鮮総連の組織としての関与の有無も究明されねばならない。

 2児らの事件は34年前のことであり、関係者の高齢化、時効の壁などで捜査は難航が予想される。捜査に乗り出したこと自体が6カ国協議の行方に影響を及ぼしかねないが、警察当局は違法行為を取り締まる立場から、端然と捜査を展開すべきである。

毎日新聞 2007年4月27日 0時30分

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