「圧力」強化に知恵絞る | trycomp2のブログ

「圧力」強化に知恵絞る

 北朝鮮の日本人拉致問題解決を目指す政府の「拉致問題特命チーム」(議長・鈴木政二官房副長官)が「圧力強化」の動きを本格化させている。具体策を練るのは下部組織の「法執行班」で、7月5日の弾道ミサイル発射を受けて直ちに発表した9項目の制裁措置の取りまとめも法執行班が裏方となった。国連安全保障理事会決議を履行に向けた制裁措置の検討も進めている。省庁連携の強みを生かし、現行法の厳格適用や不法行為の摘発で知恵を絞っている。

 「法執行班の連携が実を結んだ」。5月12日、警察当局は北朝鮮ルートの大規模な覚せい剤密輸事件を摘発、韓国籍の男を覚せい剤密輸容疑で逮捕し、北朝鮮籍の貨物船を捜索した。警視庁組織犯罪対策第五課と海上保安庁が合同捜査によるものだが、摘発の裏には法執行班を通じた省庁間の情報共有や捜査連携があったという。政府は北朝鮮が外貨獲得の手段として麻薬密輸など不法行為にかかわっていると見ており、今後も監視を強化する。

 法執行班は法務、財務、経産、警察、金融、海保の各省庁のメンバーで構成する。昨年12月に安倍晋三官房長官の肝いりで組織した非公式チームを母体に今年3月に発足、通常は首相官邸で毎月2回会合を開く。4月からは警察庁の前外事情報部長で北朝鮮事情に精通する三谷秀史内閣情報官を加えるなど態勢強化も図った。首相官邸の3階南会議室で開かれる同班の会合は鈴木副長官の冒頭あいさつ以外、会合の議事録は一切公開されない。「圧力の手の内を明かさない」という緊張感が漂う。

 省庁連携の「成果」は麻薬取引の摘発だけではない。5月中旬、政府が北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射の兆候をつかむと、法執行班は発射に備えて詳細な対応策の検討に着手。過去の制裁措置の実例なども研究しながら6月半ばには制裁措置のメニューを大筋でまとめていた。実際、北朝鮮が1発目のミサイルを発射したのは7月5日の午前3時半ごろだったが、政府は8時間後には「万景峰号の6カ月間入港禁止」など9項目の対策を決めて発表した。9項目とは別に、7月末には北朝鮮の外貨獲得の資金源とされる「偽タバコ」の流通経路などを徹底調査することを決めるなど「圧力」の手を緩める気配はない。

 北朝鮮向けの情報戦も仕掛けている。6月28日、横田めぐみさんの夫だった可能性が高い韓国人拉致被害者、金英男(キム・ヨンナム)氏と母親の崔桂月(チェ・ゲウォル)さんが28年ぶりに再会した。同じころ法執行班のメンバーは横浜で、海上保安庁の巡視艇が01年に鹿児島県の奄美大島沖で撃沈した北朝鮮工作船を視察していた。当初、視察は別の日に予定していたが「北朝鮮は金英男氏の肉親との再会で拉致問題の幕引きを狙っている」と判断。工作船の視察をぶつけて「未解決である拉致問題」をアピールする効果を狙ったようだ。通常の会合では「非公開」を貫く法執行班も、この日ばかりはメディア各社に視察への同行を働きかけた。

 省庁横断の組織にありがちな「縦割り主義の弊害」が今のところ目立たないのは、早急に対処すべき懸案が多いためと、9月の自民党総裁選で最有力候補となった安倍晋三官房長官が主導していることが大きい。法執行班は「ポスト小泉政権」に引き継がれる見通し。北朝鮮が譲歩姿勢を見せないなか「圧力」を「対話」につなげられるかどうか、厳しい駆け引きが続きそうだ。
NIKKEI NET:風向計