サツキと熊バチ その2
障子の奥に寝たるそばに、馴れ顔に寝たる人あり。「稚(いは)けなかりし昔より思し召しそめて十とて四つの月日をまちくらしつる・・・・・かくつれなくてはいかがやむべき」とおおせらる。
「現代語訳」
ふすまの奥で寝ていた私のそばに、なれなれしく寝ている男がいる。
男は「幼い頃から、14才の今日までおまえのことを想っていたんだよ。・・・そんなにつれなくされたら、どうしていいかわからない」とおっしゃる。
面白い本を見つけた。(みんな知ってたらごめんなさい)
「とはずがたり」は鎌倉時代、先の天皇、「後深草院」に仕えた女房(妾)が、自分の14才から49才までの人生を、振り返った自伝です。
宮中暴露的な内容だったためか、知る人ぞ知るものだったようで、七百年もの間埋もれていて、宮内庁書陵部に所蔵されていた原本が公になったのは昭和の初めだったそうです。
作者(後に二条と呼ばれる)は大納言と言う高い位にある「源雅忠」の娘でした。家にとっては栄誉なことですから、付き合っていた男「雪の曙」とも一旦は別れることになります。
そこから当時の習慣通り、御所と自宅での上皇(後深草院)とのお妾さん生活が始まるわけですが、そこはお公家さん、意外に締め付けが弱く、夜尋ねてきた「雪の曙」との付き合いが復活してしまいます。
やがて「二条」は「雪の曙」の子供を身籠ってしまいます。上皇もお忙しやさんです。どうしても2ヶ月出産予定日が合いません。二人は一計を案じ、出産が近づいた頃、具合が悪くなったことにして寝込み、流産したことにして、男が連れ去りよそで育てることにします。
その後も上皇の健康回復を祈願する阿闍梨と出来たり、男遍歴は続きます。
弟の亀山院と後深草院は仲良しだったようで、ある時双方の女官たちを集めてゲームをしました。ま、言ってみれば「王様ゲーム」みたいなものですね。負けたほうが罰ゲームをする。ある時後深草院チームが負けてしまいました。
罰ゲームは「源氏物語」です。「二条」は格下の配役をもらい、腹を立て退出、雲隠れしてしまいます。
出家が希望とはいうものの、「出家」の二文字は流行の言葉だったようです。「私は若くて魅力がある、きっと上皇は探してくれるだろう」と踏んでの行動でした。
ある時、上皇と親しい「有明の月」とも出来てしまいました。そのことに気付いた上皇はむしろ付き合いを勧める余裕を見せました。やがて「有明」の子懐妊。その頃から、上皇の心は離れていきます。次第に御所に呼ばれなくなります。
付き合いを奨めながら、その気持ちが許せなくなる。殿も身勝手ですね~。
やがて彼女は御所を退出させられ東国や西国へと旅立つ。熱田神宮、富士、江ノ島、鎌倉、隅田川、厳島、足摺岬、松山。
やがて、後深草院崩御。
葬送を陰から見ている描写などは哀れを誘いますが、三回忌の法要などの場面では、自分を知る人も次第にいなくなり、さめざめと泣き、「誰か気付いてくれないかなあ」とむしろ自分の存在をアピールしているようなところなんか悲しいですよ。
この「とはずがたり」。宮中、鎌倉時代、おメカケさん生活と、一見、私たちとはかけ離れた世界に見えるが、男と女のうつろう心、過ぎ去った華やかな世界を惜しむ心。なかなか味わい深かったですよ。
また面白いもの見つけたら紹介しますね。
