「ごろつき犬」~中編 | All the best for them

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好きな人と好きな人に関連するあれこれ、好きな物、家族とのことを細々と、時間があるときに綴っています。





















 

さて、有馬が殺された関西紡績の社長室にて。

「社長、第一営業部の有馬課長の死因は何だとお考えです?

射殺。これはむごいですな。

しかも犯人の目星もついていない。

私はそのことでお礼をいただきに来たんです」

紺色のスーツに身を包んだ稲取が、足を組んでソファに身をもたげ、

サングラス越しに鋭い視線を向けていた。

社長はすっとぼけた表情で、君の世話になったことがあったかな?と答える。

「さあどうですかな?

営業課長の死で内心ホッとしてんのは社長じゃないですか?

もし営業課長が他の会社にあの書類もろとも寝返りを打てば、

関西紡績はひっくり返る…

有馬さんは今度の新製品ポノレオンの輸出責任者でしたな。

輸出進展のためにダンピングを計画した。社長命令でね。

表面上は適正価格の輸出という建前で通産省の輸出認証を取っている。

一応金額通りに外国バイヤーから送金を受け…」  それで?

「こっそり安くした分だけリベートに当てる外貨は香港で手に入れる。

外貨を買うための金として円を支払う。外国為替管理法違反ですな。

それが警察にばれりゃどうなります?

業界にばれりゃどうなりますかね、関西紡績の立場は?」

恐喝する証拠でもあるのかね? 社長は顔色一つ変えず澄まし続けた。

稲取は最後の切り札を胸ポケットから取り出すと、

さっと開いてみせた。

「神戸、香港、闇取後の契約書の写しです。社長のサイン、会社の印。

殺された有馬さんが女にうつつを抜かしている間に取られたんです」  女?

「そう、奥さん以外のね」  それで、私のために有馬を消したと言うのかね?

「分け前が欲しい。五割の10万ドル。

これ(胸をたたく)と引き換えなら、安いもんだ」  断ると言ったら?

「あんたは有馬とは違う」 

と言いながら胸にしまっている物に手をかけようとする稲取であった。



インテリやくざらしく、私には理解不能な経済用語が、

稲取の口からとうとうと出てきた。

大会社の社長を前に、蛇のように睨みをきかす稲取の迫力が

恐ろしくもあり、しびれるほどかっこよくもあり。

根上さんの悪役サングラスってここに端を発していたのかな?

ビシ~ッと着こなされたスーツ姿もめちゃくちゃシャープで、

すっかり心を奪われたシーンでしたな。



自分が相手をしたあの有馬が殺された…

新聞でそのことを知ったまゆみに川勝が迫る。

寸でのところを鴨井に助けられたまゆみ。

鴨井は、自分のハジキが殺人に使われたことに業を煮やして、

まゆみを訪ねてきたのである。

そんな鴨井にまゆみは、辺見の仇を討ってほしいと訴えるが、

鴨井は振り切った。



まゆみを振り切った鴨井は、街で例の美女・葉子と再会、

そのままホテルへとしけ込んだ。

ベッドの上でいちゃつこうとしたとき、

鴨井は背後に気配を感じてとっさに顔を上げた。

正面の鏡には、鴨井に銃を向ける稲取らしき姿があった。

稲取が引き金を引いた瞬間、鴨井は身を翻した。

弾丸は鏡に当たり、稲取は逃げた。



警察に呼ばれた鴨井。

とうとう死神がつきよったな…ショボクレが声をかけた。

ショボクレは部屋に残された弾丸を鴨井に見せた。それに見覚えがある鴨井。

白浜温泉で出くわした男が持っていた弾丸だ。

警察の中で稲取の顔を唯一知っていた宮本が射殺された今、

頼りになるのは鴨井だけ。

ショボクレに懇願されて、鴨井はモンタージュ作成に協力する。

出来上がった写真を見て、同じく連行されていたまゆみがつぶやいた。

「稲取だ…」



警察から解放されたばかりの鴨井は、川勝の一味に拉致されてしまった。

そこでまたドンパチドンパチが始まって…

鴨井の後を追いかけてきたまゆみが負傷してしまう。

そして、物陰に隠れて、川勝を背後から狙う稲取…

サングラスの奥の目を光らせて銃口を向けた。バーン。

川勝が倒れ込む。とどめの一発を撃った稲取は、足早に車で逃げて行った…

駆け付けたショボクレにまゆみの手当てを任せて、鴨井も去る。



さて、警察病院に入院しているまゆみを鴨井が見舞いに来た。

まゆみは鴨井にこっそりメモを渡す。

退院したら連絡をつけろ、との組長からの指示であった。

組長の顔も知らないから見舞客を装って襲われたらどうしよう、と怯えるまゆみに、

まかしとき!と言い残して、鴨井は組長のいる白浜へと向かった…



ホテルの受付で教えてもらったヨット・REDWINGの船室へ忍び込んだ鴨井。

なにやら男女の声が聞こえる。

よしてよ! そんな脅しにでも乗ると思ってんの?

「脅しじゃねえよ、こっちは本気だ」  離して、離してよ。

鏡に映った声の主は…

ベッドの上で裸でシーツにくるまっている葉子に、

ノーネクタイ・黒いスラックス姿の稲取であった。  ドアの向こうで驚く鴨井…

(根上さんのワイシャツ姿がこれまたダンディーなんやなあ~)

「組長と言うより俺は葉子と呼びてえな。

おめえの計画は俺が肩代わりしてやったぜ。

もともとおめえを組長と奉ったのは、表向き金貸しで会社の情報を取れるのと

かつ上げた金を隠すのに便利なだけだ。

それを何だ?仲間が積み立てた金を独り占めにしたうえ、

俺たちと縁を切るつもりで鴨井なんてごろつき犬をたらし込みやがって。

よくも消そうとしやがったな」  ちょいと憤る稲取。

自分の身を守るためよ。あたしがやんなかったからあんたがやるわ。

鴨井を雇ったのだって、あたしが消されやしないかと思ったからだわ。

「おめえに先手を打たれるほどドジじゃねえよ」  葉子の耳元で稲取は囁く。

「辺見と川勝は俺が消したぜ。

どん尻はおめえの番というところだが、おめえは生かしといてやる。

分け前は半分で辛抱する代わり、おめえというものをいただくよ」

稲取は葉子を抱こうと迫るが、嫌よ!と振り切られた。

「いくら嫌がったって俺は狙ったものは必ず手に入れる!」 力を込める稲取。

「お金はあげるわ。あんたの物になるのはまっぴらよ!」 葉子も負けてはいない。

「えらく風向きが変わったな。変えたのは鴨井か?」

お金だったら全部あげるわ。こっから出てってよ!

「ふっふっふ。やがてまゆみがここへ来る」  まゆみが?

「ふっ、お前の名前で呼びだしたんだ。

まゆみさえ片付けりゃ証拠はみんな消える。

大金ひっつかんで香港だよ。快適な旅を楽しませてやるぜ」

ベッドサイドに置いてあった煙草をくわえながら、不敵な笑みを浮かべる稲取。

結構強引で自信家かもよ?

その時だ。バタンとドアが開いたかと思うと、ドヒューン。

鴨井の銃から放たれた弾が、稲取の煙草を弾き飛ばした。

驚き、そして顔を背けた稲取。

いよいよサシで勝負する時が来ましたな。

鴨井にそう言われた稲取は、鴨井の顔をギロッと睨んだ…



大方の予想どおり、

組長は葉子だったし、しかも稲取とはただならぬ関係だったよう。

しかし、この船底での場面、よく考えると疑問が一杯。

何で葉子と稲取が一緒にベッドの上にいたのか?

愛人関係にあったとしたら合点は行くのだが、

じゃあ何で葉子は拒んでるの?

拒んでるくせに、葉子は何で裸?

シチュエーション的に事をやり終えて、

稲取が先に着替えたというならまあ分かるんやけど、

ならば稲取は再度葉子に迫ったということなん?

などなど細かなことですが…

まあ48年も前の映画のこと、さらりと流しておきましょうかね。

ときおり甘い笑みを浮かべながらも

力づくで葉子を奪おうとする稲取があまりにもcool&sexyだったことに免じて。