about 伝重親分 in 「同心暁蘭之介・恐怖の町」 | All the best for them

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好きな人と好きな人に関連するあれこれ、好きな物、家族とのことを細々と、時間があるときに綴っています。





















 

そこへ、浅吉が現われた。

「あさ、浅吉じゃないか」

おとっつぁん、あれほど頼んどいたのに、上総屋に手を出したね。

「あれが総元締めだ。やむを得まい」

親1人子1人だったんだぞ。それを娘1人にしちまいやがって。

「わ~しだって同じだ。この世の中に血のつながった者はお前しかおらん。

お前が可愛いからこそ、蓄えを残してやろうと思うのだ」

人の血を吸って自分の血を太らせんのか?

「弱い者は死ぬために生まれてくる。強い者は生きるために生まれてくる」

だから死神の伝重なんて言われるんだ。もうこんな暮らしから足を洗ってくれ!

とオヤジの胸ぐらをつかむ浅吉。

そこへ、岩蔵以下が入ってきた。

浅さん、貸し元から手を離しなせえ。罰当たりな息子だぜ。

てめえらのような奴がいるから、江戸が片っ端から血で染まっていくんだ!

貸し元に触るんじゃねえと連れて行かれそうになる浅吉。

「あさに手を出すな!」と、どすの効いた声が飛んだ。

「なあ、あさ、今にわしの生き方が分かってくる。

力のない者はこの世に生きていてはいかんのだ」

おとっつぁん、俺はこれより下のねえ力なしだ。

だからっておめえさんたちに押しつぶされるのはまっぴらだ。

と出て行こうとする浅吉に、親分が言った。

「浅吉!間違っても十手を持ったり、わしらの通り道の邪魔立てするな」

だったら俺も言っとく。小網町から手を引いてくれ。

「だめだ」 どうしてもか? 「どうしてもだ」 浅吉は不服そうに出て行った…



目を細めて小鳥の世話をしていた人の好さそうなおじさまが

手下が登場した途端に強面のやくざの親分に一変、

息子に自分のポリシーを力説するのであった。

やけにメッセージ力があるその言葉に、思わず私もふむふむと頷きかけた。

それにしても…

伊吹隊長から10年ほど経ったくらいかなあ。ハンサムぶりは相変わらず。

根上さんらしい気品と華のある、

そして貫禄たっぷりに悠然と構えるやくざ姿に、ドキドキラブラブ

しかも思ってたより若かったビックリマーク



蘭之介たちが出入りするそば屋の主人から、

上総屋の娘・おゆうが証人として名乗りを上げたことを教えられた浅吉。

仮牢で足止めされているおゆうに会いに行く。

おゆうは、浅吉の初恋の人だったのだ。

お嬢さんの代わりにあっしを証人に使ってほしいと蘭之介に訴える浅吉。

そして、自分の力ではどうにもならない親父を助けてほしいと。

もう少し早く組をつぶして、自訴でもすりゃ話は別だったがな…

今じゃ何しろ死神の伝重だ、と蘭之介はつぶやく。



浅吉は早朝、伝重を訪ねた。

障子を開けて外に出てきた伝重が、息子の来訪に気づいた。

「あ~何の用だい?」

おとっつぁん、何も言わねえで自訴してくれ 「何?」

子どものころから俺は親父に何一つねだった覚えはねえ。

これが生まれて初めての俺の頼みだと浅吉は頭を下げた。

「おめえ、わしをはりつけにでもしたいのか?」

おとっつぁん1人を死なせやしねえ。俺もきっと後から…

「おめえって奴はよくよく負けグセがついてやがるなあ」

手下どもが入ってきて、浅吉を取り囲む。

伝重の表情もこわばった。

おめえたちは引っ込んでろ!これは俺と親父の話し合いなんだ、と浅吉。

岩蔵がそうは行かねえんだと脅す。



一方蘭之介宅には、

浅吉が親父を自訴させると言い残して出かけたと知らせが入る。



連中が浅吉を連れて行こうとする。

どうして分かってくれねえんで。この上、人を泣かすのはやめてくれ!叫ぶ浅吉。

「じゃあ泣かされる方に回るのか?」と伝重の声が飛んだ。

おとっつぁん! 

「世の中、泣かすか泣かされるかどっちかだ!おめえたち、どっちを取る?」

周りは一笑する。

笑ってられるのも今のうちだ!

おめえさん、まさか…岩蔵がこぼした。

そうとも、あと小半時もすりゃお上がなだれ込んでくらあ。

証拠も証人もなしにか? 俺が証人だ!

お上に売りやがったな。  そうでもしなきゃ目が覚めねえからだ!

浅吉の言葉を受け、連中がいっせいに刀に手をかけた。

「待て!」 伝重が一喝した。

貸し元…と岩蔵。

「組の示しはわしがつける」 浅吉をキッと睨みつけて、庭に下りてきた伝重。

ゆっくりと浅吉に歩み寄り、側にいた手下の懐の匕首を素早く抜き取るやいなや、

浅吉を一気に刺したのだ!

刺した匕首を抜き取ると、浅吉は崩れていった。

泣きながら息子を抱きかかえる伝重…

これでいいさ…親父の手にかかって死ぬんだから…

「わしの子になんぞ、わしの子になんぞ生まれなきゃ…あさ!」

駆けつけた蘭之介に気づき、伝重は浅吉から離れた。

蘭之介が浅吉を抱える。

小網町の一件は親父とこの一家の仕組んだことに相違ござんせん。

お聞きおきねげえやす…息も絶え絶えにしぼり出した浅吉。

死ぬんじゃねえぞ! 蘭之介が伝重と岩蔵を睨んだ。

伝重、なるほどてめえは死神だ。

親を助けたさに戻ったわが子まで手にかけやがった。

「負け犬は、せめて始末してやるのが親心よ」と言い捨てる伝重。

六本松の伝重とその一党、数々の罪状によりお召し取りになる。

神妙にしろい! 十手から刀に持ちかえて、蘭之介が次々と斬りつけた。

六本松一家は次第に劣勢に追いやられ、

ついに右腕の岩蔵までも倒れてしまった。

とうとう追いつめられてしまった伝重…

1万5千人のヤクザの頂点に立つ彼ももはやこれまで、覚悟を決めたのか、

「おてむかえ致しません」 最後はわなわなと地面に崩れゆく伝重であった。



伝重に刺された息子の浅吉は、蘭之介の粋な計らいにより

懐かしい小網町に運ばれ、息を引き取った…



いくら組の者に示しがつかないと言っても、

愛する息子への非情な仕打ちに愕然とする私であった。

きっと伝重自身も、断腸の思いであったと想像するが。

手下の前では強面の親分でも、

たった一人の息子の前では、優しい親父の笑顔を見せていた伝重。

息子や小鳥たちと過ごす時間が唯一のホッとできるひとときだったんだろうなあ。

ヤクザの世界で孤高に生きるのもきっと大変だったろうに。

もしかしたら一番に足を洗いたかったのは彼自身だったのかも…

最後まで毅然とした態度を貫いた伝重親分を

憎む気持ちにはなれない私なのだった。