すべての女性にとってあの日というのは憂鬱になるものである。いやなことが重なったりしたらもう最悪である。これは私の人生で最悪のあの日の話である。


 あれは私がまだ新入社員だったときのことである。その日は接待で名古屋に出張していた。先方は名古屋に拠点を置く大企業。その日はあの日だった。しかし、だからといって接待を別の日にできるわけがない。当然である。私の会社が接待する側、すなわちホストであるから接待の席などは私たちが決めるのが通例である。しかし、奇妙なことに先方から場所を指定してきた。


 それは名古屋の料亭だった。先方いわく「ここは名古屋名物がおいしいのでぜひ名古屋名物を食べてみてくれ」とのことだった。断る理由もないので(断ることなどできないので)言われるがままに名古屋名物のみそかつを注文した。私は名古屋にはそれまで縁がなかったので食べたことはおろか、実際に見たことすらなかった。私は好奇心が強い方なので正直楽しみにしていた。


 注文してから料理が出てくるまでの間、どうしてもナプキンを換えたくなったので私はトイレに行った。


 しばらくして、私は席に戻った。その時にはもう注文していたみそかつが出されていた。しかし、出されていたのは私のだけで、先方と上司のものはまだ来ていなかった。当然私が先に箸をつけるわけにはいかないので箸をつけずに待っていた。


 すると、先方が「どうぞお先に召し上がってください。」と言った。私は断った。先方は気を使って「お先に」と言っただけだからである。しかし、私の上司も「早く食べろ」と言ってきた。当時私はビジネスマナーというものをよく理解していなかったのでどうすればいいのかわからなかったが、上司に言われるがままに食べることにした。


 と同時に刺すような苦味が口の中に広がった。それはかつて私が北海道の牧場で味わったのと似た苦味だった。先方と上司を見たら彼らは手を叩いて爆笑していた。私は悟った。私が食べたのはみそかつではなく「クソかつ」だということを。そして私は悟った。先方と上司が私に先に料理を食べるよう勧めたのは、常軌を逸したこのバカげたいたずらを成功させるためだということを。さらに私は悟った。先方が場所を指定してきたのはいたずらのためだということを。


 私はその「クソかつ」を先方、いや顔面油田いんきんたむしに投げつけてやりたかった。接待の相手じゃなかったらそうしていただろう。でもガマンした。我慢したよ、わたし。


 おかげで接待はうまくいったが、私にとっては人生で最悪のあの日となった。上司からは「○○くん、次も頼むよ。」と言われたが、私はもう「汚れ役」はゴメンである。



FUKUYAMA MASAHARU 20th ANNIVERSARY WE’RE BROS. .../福山雅治
¥7,800
Amazon.co.jp