実体験としては、イギリスに来てから特に最初の3ヶ月位、その後もじわじわとその感じが弱くなりつつも一年位、主観的な時間の流れが遅くなるのを味わいました。加齢とともに(なんとなく嫌な響きですが….)、時間の流れが早くなるというのを皆さん経験されていると思います。子供の頃は一日がとっても長く、夏休みは無限のように感じられ、でも今は一年ですらそれほど長いと感じません。誰に聞いても、これは止められないし、もっともっと早くなっていくよ、というばかりでした。なので、これは生得的なもので、単純に主観的な時間の流れが早くなるんだろうと思っていました。

それが極端に遅くなったのですね。加えてなんだか周りの景色が色鮮やかに輝いて感じられます。言葉の壁を感じて苦しみながら、一方でそれを遥かに凌駕するような解放感・恍惚感をこの時に味わっていました。そして、頭の中の状態が普通でない、というのをはっきりと感じていました。しかもこの最初の三ヶ月の間に、その後今に至るまで数年間で、一番大きな(といってもまあささやかなものですが)研究上の発見が3つありました。そのうち一つは未だに論文になっていませんが、この時のお陰で今でもこの仕事に就いていられるわけです。

そして、思い出せば、その10年ほど前に初めて、三週間の海外旅行に行ったときも、世界が輝いて見えて、そのために写真を撮ったり、スケッチをしたりしましたが、帰国すると絵を描く意欲が無くなったのでした。また、イギリスから日本へ戻った数年間の間に、私の上司であり恩師があっけなく倒れて再起不能になってしまいましたが、このときも一ヶ月間、時間の流れが遅くなりました。特に最初の数日間は、一日がとても長かったのを覚えています。

イギリスにいる間にこの時間の謎についての答を探し求めていたのですが、エックハルト・トールという人の「The Power of Now」と「A New Earth」という二冊の本(邦訳あり https://amzn.to/2J0XLIF, https://amzn.to/2E4IQcC)が答えとなりました。この中に旅行で見知らぬ土地へ行くと、現在の感覚が主となって思考を遮るため、より生き生きしているように感じる、とあります。

 

Some people feel more alive when they travel and visit unfamiliar places or foreign countries because at those times sense perception — experiencing — takes up more of their consciousness than thinking. [A New Earth]

 

 

詳しくはこの本を読んでいただいたほうが良いですが(無人島へ一冊持っていくならこの本かなあ)、この著者は悟り体験をした人で、その仕組を調べたところ、幻である時間(過去と未来)と言葉による思考の2つが、我々の本来あるべき姿から遠ざけているもので、今ここに意識を集中して、言葉による思考を遮ることができれば、悟り状態に近づき、悩みや問題は消えると説いて、古来から伝えられる瞑想や座禅はこれを方法化したものだといいます。

異国の土地で見慣れぬもの、名前の分からないものばかりに取り囲まれ、日本語が通じなくなったことで、言語障害のような状態となり、ある意味、2歳や3歳くらいの子供と同じような状況に置かれたために、時間が遅くなって世界が輝いて見えたのだろうと、考えています。およそ一年でこれが消えたというのは、季節のめぐりを経験して、次に何が起こるか想像できるようになったこと、そして英語が上達して言語障害状態から脱したことがあると思います。上司が倒れたときも、非常事態によってそれまで描いて未来像がガラガラと崩れたために、意識の中の時間軸が壊れてしまい、否応なしに今ここに集中することになって時間が遅くなったんではないかと思います。

この経験と、この本、さらにはバシャールの本などから、過去と未来は幻想で、今ここだけが本物、というのがあまり違和感なく受け止められています。辻褄が合うな、という気持ちです。