こんにちは、絶學無憂です。

 

私は筋肉反射テストを独習しましたが、自分で勉強してみて、どうにも分かりにくいなと感じたのが、キネシオロジーに使われる言葉や名前です。どうもいろいろな流派が並立しているためにわかりにくくなっているようで、全体像をつかむのに数ヶ月を要しました。

 

前回の記事で、「筋肉反射テスト」という呼称が実は、多くの場合誤用であるということを書きました。筋力に物を言わせて行う筋肉検査 muscle testing は、瞬時に筋肉が弱くなる現象(これを伊東聖鎬氏は筋肉反射と呼んだ)を利用した、力を使わない方法(筋肉反射テスト)と区別されるべきだということです。ところが実際には、筋肉反射テストは muscle testing の訳語として今日広い意味で使われています。

 

もうひとつ、この話題を扱うに当たってとても厄介な言葉があります。

 

それは、…. 他ならぬ、キネシオロジーです。実にいろいろな意味でこの言葉が使われるので、誤解を招きやすいのです。

 

そこでキネシオロジーという言葉にはどういう使い分けがあるのか、現在セラピーとして行われるキネシオロジーという概念に含まれるものにはどういうものがあるのかを概観してみたいと思います。

 

スポーツ科学としてのキネシオロジー

まず、「キネシオロジー」と呼ばれる、人間の心身に関する学問があります。ギリシャ語の κίνησις kinēsis 「運動」movementという語と、-λογία -logia「学」study がくっついて誕生した言葉です。 もともとのキネシオロジーというのは、大学などで研究される科学の一分野であり、文字通り運動学ですから、筋肉や脳の神経生理学などを含み、スポーツ科学のようなものも含まれます。

 

国立情報学研究所のデータベースで「キネシオロジー」に関する本を探すと、数例の例外としてジョージ・グッドハートの研究を紹介するものがありますが、1983年より前の本はほとんどがこのスポーツ科学・運動学としてのキネシオロジーを指す内容です。

 

この分野の人と会話したことはありませんが、おそらくセラピーとしてのキネシオロジーと名前が混同されるようになって、とても迷惑していると感じているものと想像されます。

 

ジョージ・グッドハートの応用キネシオロジー

このもともとのキネシオロジーに対して、1960年代に起こった「応用キネシオロジー」(アプライド・キネシオロジー)applied kinesiolgy というものがあります。これはカイロプラクター医であったジョージ・グッドハート George Goodheart (そうです、Goodheartすなわち、「良心」さん。きっと良い人だったに違いない!)という人が始めたものです。

 

これは科学研究の一分野としてのキネシオロジーとは別系統であり、健康法・代替医療・セラピーの一分野です。筋肉には「強い」「弱い」という状態があり、それが特定の身体症状や精神状態と密接に関係しているということをグッドハート氏は見出したのでした。

 

さらに彼は特定の筋肉の状態と特定の臓器、さらに中国伝統医学に伝わる14経絡とが密接に関係していることを見出しました。この関係は双方向性であって、これらの筋肉の状態を調べることで個々の経絡の状態を知ることができるようになり、またこれらの筋肉の状態を調整することで経絡の調整も行えるようになりました。

 

ところがグッドハートの応用キネシオロジーは、医師免許保持者、あるいはカイロプラクター医免許保持者(日本ではあまり馴染みがありませんが、アメリカのカイロプラクターの訓練精度は相当に厳しくD.C.という学位が授与されます)のみに入門が許されるという、超シリアスな学問であり、極めて狭き門なのでした。

 

これは法的にも病気の診断が許され、治療の専門知識と技術を持った医師・カイロプラクター医が、さらに深い治療を目指すための、いわば「奥義」のようなものとして位置づけられていました。この知識体系の発展は目覚ましいものでしたが、その性質から、応用キネシオロジーを身につけた人というのは少なく、恩恵に預かる人も限られていました。

 

タッチ・フォー・ヘルスとその派生物のキネシオロジー各派

グッドハートの直近の弟子でもあったジョン・シー John Thie というカイロプラクター医は、患者の診療時に、患者をただ帰すのではなく、時々このツボを刺激しなさいという宿題を与えたところ、宿題を与えられた患者の状態が明らかに優れているということに気づきました。

 

そこで彼は、一般人のために、応用キネシオロジーの中でも比較的安全で効果のはっきりした、簡単なテクニックを公開してはどうかということを考え、グッドハートに相談しました。グッドハートはそんなことなら自分でやったらどうだと言い、それに応じてジョン・シーが編み出した、応用キネシオロジーの一般向けダイジェスト版、それが「タッチ・フォー・ヘルス」Touch for Health です。

 

ところが、医療専門家だけで知識を共有していた応用キネシオロジーとは異なり、この一般向けタッチ・フォー・ヘルスは爆発的に普及しました(爆発的に、というのは大げさですね。いまでもキネシオロジーが「一般的」になったとは言えませんから。あくまで応用キネシオロジーに比べれば、よほど普及したということです。)。

 

その中から様々な独自進化を遂げた各種のキネシオロジーが出現し、現在ではかなり多くのキネシオロジーの流派が混在しており、それぞれが少しずつ異なるため、初めての人には何がなんだか非常に分かりにくい状況になっています。

 

あまり意味が無いかもしれませんが、どれくらい派生しているのかリストアップしてみましょう。下の図はタッチ・フォー・ヘルスの公式ページからの引用です。

 

TFH Tree at http://www.etouchforhealth.com/community/tfhtree/

 

この他に、私がよく名前を聞くものとしては Integrated Healing (IH)というものがあります。

 

本家の応用キネシオロジーのほうでは、キネシオロジーはあくまでカイロプラクティックや西洋医学の補助という位置づけだったので、「キネシオロジスト」などという専門家はそもそも存在しないはずでした。しかし、タッチ・フォー・ヘルスや、それから派生したキネシオロジーのほうでは、多数のプロの専門家キネシオロジストが誕生しており、活動しています。

 

バイ・ディジタルO-リングテスト

上に長大なリストを掲載しましたが、じゃあこれでキネシオロジーをほぼ網羅したと思ってよいかというと、そうもいきません。実は日本人が開発した流派が上には含まれていません。

 

バイ・ディジタルO-リングテスト (bi-digital O-ring test, BDORT)は、ニューヨーク医大教授の日本人心臓外科医、大村恵昭(おおむら よしあき)氏が1977年頃に考案した方法で、1981年に最初の論文を発表しているそうです(資料)。大村氏がこの方法を考案した経緯については、伝記などをまだ読んでいないため、どの程度グッドハートの応用キネシオロジーの影響を受けていたのか現時点では私にははっきりしませんが、影響を受けていたという記述は目にしたことがあります。

 

一般的には略称のO-リングテスト(オーリングテストと読む)として80年代に国内ではかなり名前が広まりましたが、後述するようにこれらのほとんどすべては指の形だけを大村氏の方法から取ったもので、大村氏の方法の体系とは似て非なるものだと考えるべきです。

 

バイ・ディジタルOリングテストという長い名前の由来は、親指と他の指で作った輪っか(Oリング)を、もう一人が開くことが出来るかどうかを調べる検査法に由来しています。バイ・ディジタルというのは検査の結果が プラス, マイナス の二値を取るところに由来しています。

 

 

本来の形のBDORTは、バイ・ディジタルO-リングテスト医学会が中心となっていますが、「医学的補助診断法なので、会員資格は医師・歯科医師・鍼灸師・看護師・薬剤師の医療有資格者のみ」となっています(資料)。つまり、一般人向けの内容ではなく、医療有資格者の診断と治療の補助のためのものということが明確にされています。この点では会の性質が、グッドハートの応用キネシオロジーと似ています。

 

バイ・ディジタルO-リングテスト医学会は、日本医学会に属してはいませんが、独自の認定医制度を持っており、ホームページから認定医を探して受診することができます。

 

最近では大村恵昭氏自身の一般向けの著作が複数出ているようなので、いずれ内容をご紹介したいと思います。

一般的な O-リングテストの現状

一方で、O-リングテストの名称で一般に行われているのは、筋肉反射テストのひとつの形として指で輪を作ったO-リングを用いるというだけで、はっきりとした指導者もいない状態のため、まとまった知識体系のようなものはないのが現状だと思われます。

 

筋肉反射テストとしては有用ですが、筋肉反射テストの性質や、成立条件については、タッチ・フォー・ヘルスなど、他のキネシオロジーの体系から学ぶ必要があるでしょう。たとえば、スイッチング(エネルギー極性反転)をどう発見し、回避するかを知っていないとまったく出鱈目な結果を得ても区別ができないということになってしまいます。

 

この O-リングテストの広まりを、既に筋肉反射テストの本を出版していた伊東聖鎬氏は次のように観察していたそうです。

私の「筋力応用治療学・基礎編」が出版されて2年後のことでした。 鳴り物入りで出版された「Oリングテスト」はまたたく間に広がりました。 しかし、私は当初から知っていました。

 

心臓外科医が臨床で使っているものですから、心臓外科以外の治療を行っている人が使いこなそうとしてもそれは無理があるということを・・・・・・。

 

そうとも知らず「Oリングテスト」はどんどん広がり、いつの間にか大村先生の意図したものとは違うものになっていきました。 それぞれの人が、自分の都合のいいように解釈し、使い出したのです。 それは時間が経つにしたがって益々ひどいものになっていきました。その結果「Oリングテスト」は信頼されなくなっていきました。 元々が無理だったのです。多分そこまで大村先生は考えておられなかったのでしょう。

 

伊東聖鎬プロフィール第二章

 

こうしてやや無秩序に広まったためにいろいろな弊害を生じたO-リングテストですが、少し練習すれば一人でも行うことが出来るので私自身も、筋肉反射テストのひとつとしてはよく利用します。

 

読脳法・脳反射検査法

これは日本における筋肉反射テストの先駆者の一人(筋肉反射テストという言葉の生みの親)、伊東聖鎬氏(いとうせいこう)が筋肉反射テストをさらに進化させたものとして、YouTubeの読脳チャンネルや書籍を通じて紹介している方法で、読脳法というのは一般向けの名前で、脳反射検査法というのが医療者向けの名前で、どちらも同じ方法のことを指しています。

 

私の調べる限りでは、伊東聖鎬氏は読脳法について詳しく書かれた書籍を発表していないため、講習会を受けて学ぶか、膨大な数の動画から学ぶかしかできない状態です。

 

まだ私の理解も不十分だと思いますが、特徴としては以下のものが挙げられます。

  1. 筋肉反射テストよりも遥かに弱い力、産毛を触るくらいの力しか必要としないので、いくら沢山質問しても疲弊しない。

  2. ひとつの筋肉全体に対して検査を行うというよりは、筋繊維一本に対して検査を行うイメージらしい。

  3. 動きも小さいので、人前でもあまり目立たずに高速で情報を集めることが出来る

 

 

 

 

入江フィンガーテスト(FT)

入江フィンガーテスト(入江FT)とは、昭和57年(1977年)に漢方家の入江正氏(いりえただし)が考案したもの。これは片手の二本の指の間の滑りの良さで YES(smooth 滑りやすい)とNO(sticky 滑りにくい)の反応を区別する方法で、その他の筋肉反射テストやO-リングテストとは異なり、初めから一人で行うことが前提となっています。筋力を使わないので、繰り返し行なっても疲労することもありません。

 

 

こちらは漢方の治療体系の中での診断法という位置づけになっていますが、フィンガーテストの検査法自体は誰でも容易にできるもので、一人で行う筋肉反射テストの方法としては一番良い方法の一つかもしれません。

入江FTのホームページを見る限り、西洋のキネシオロジーとの関連は見つかりませんが、実質的にはこれもキネシオロジーの筋肉反射テストのひとつの形として考えることができます。

入江FTとは

 

 

それで結局キネシオロジーって何?

呼び名は本当にややこしい状況にあるのですが、科学研究の一分野としてのキネシオロジーと明瞭に区別するためには、代替医療やセラピーとしてのキネシオロジーは「応用キネシオロジー」の名前でくくられることも多いようです(英語のWikipediaなどはこの立場)。

 

しかし、本家の応用キネシオロジーのほうでは、後から派生した流派と、自分たちの「元祖」応用キネシオロジーとを一緒にしてほしくないという気持ちから、派生キネシオロジー全般に対して「キネシオロジー」という呼称を使っていたりします(彼らにとって応用キネシオロジーといえば自分たちの元祖「応用キネシオロジー」のみを意味します)。

 

ですので誠に分かりにくくて申し訳ない状況ですが、キネシオロジーという言葉の使われ方は、以下のように整理できるのではないかと思います。

  1. 運動学・スポーツ科学としてのキネシオロジー

  2. グッドハートの開発した医師・カイロプラクター医だけのための応用キネシオロジー

  3. 応用キネシオロジーから発展した、それ以外の多くのキネシオロジー。タッチ・フォー・ヘルスを含む。

  4. 2と3とまとめて応用キネシオロジーと呼ぶこともある

といろんな名称のキネシオロジーがあって、初めての人にとっては頭が混乱しやすいのですが、とりあえずセラピーとしては一番メジャーなのがタッチ・フォー・ヘルス」だと覚えておいて下さい。

 

そしてそのいろいろあるキネシオロジーの流派はどれも、筋肉検査あるいは、筋肉反射テストをその中心に置いています。筋肉反射テストなくしてセラピーとしてのキネシオロジーはあり得ないのだと理解して下さい。それでおおよそ間違いがないものと思います。

 

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