国立競技場は来年・2025年に世界陸上の開催がすでに決定(1991年以来34年ぶり)していたが、今後の利用法については未だ見通しがついておらず、いわゆる民間委託の構想も進んでいない。またJクラブの誘致を念頭に置いた取り組みも、毎試合開催するといわゆる使用量が莫大になるという課題もあり、東京に本拠地を置くクラブ(今季はFC東京、東京ヴェルディ、町田ゼルビア)ですらも常時開催を敬遠している節がある。

 

しかし、東京2020五輪・パラ五輪による一定の使用制限が解除された2023年度、国立ではリーグ戦に限ればJ1の6試合、J2の2試合の8試合が行われ、41万人を超えるサポーターが国立を訪れた。その中には初めて観戦するサポーターや、長いことスタジアムに駆けつけていなかったリピーターも多くいるといわれている。これをきっかけに、Jリーグは2024年度から「THE国立DAY」としてJリーグの国立開催をより一層後押しし、各クラブの主管ホームゲームの観客動員アップにつなげたい取組を始めるようになった。

 

実は、この国立DAY開催には裏があった。現状、Jリーグには東京都心23区を本拠地とするクラブが事実上存在しない。名目上都内全域を本拠地とするFC東京は活動区域としては23区のほぼ全域もカバーしているものの、主たる活動領域は味の素スタジアムのある調布・三鷹・府中市、東京ヴェルディは練習拠点がある稲城市・多摩市など多摩方面が主体である。

 

現在23区では、Jリーグの4部に当たるJFLのクリアソン新宿があり、現状はクリアソンが占有するための本拠地がないものの、国立や味の素フィールド西が丘での開催を前提としてJ3ライセンスを交付された経緯がある。さらに地域リーグ以下では、葛飾区を本拠とする南葛SCや、東京23FC、一時は横河武蔵野との統合を前提に準備を進めながら方向性の違い(横河は結果的には企業レクリエーションの範疇での活動にこだわってJリーグ加盟を将来的にも見送る方針に再転換した)から合弁を解消した東京ユナイテッドなどが有力な候補とされているが、現状はスタジアムの建設用地の確保に苦労している。

 

ラグビー・リーグワンのスピアーズ東京ベイの本拠地であるスピアーズえどりく(江戸川陸上競技場)は、リーグワンもJリーグに倣い、15000人以上収容スペックのスタジアムの建設を求めていること(実現すれば23区内初の公営でのJ1基準を満たすスタジアムにもなる)から、江戸川区と連携協定を結んでいるものの、いまだ改修のめどが立っておらず、一部では親会社・クボタの創業地・大阪・関西方面への移転も懸念されているほどであり、不透明であることは確かだ。

 

またえどりくとは別に、FC東京が国立に近い渋谷区代々木公園の、現在は織田フィールドが立地しているところに4万人規模収容の球技場を建設する構想、これがきっかけでミクシィーとの資本提携を結ぶようにはなったが、これについても大きな進展がみられていないし、来年の秋にデフリンピック(聴覚障碍者のスポーツ大会)が予定される駒沢競技場に関しても、老朽化が著しいうえ、周辺に病院が建設され騒音問題になるという理由でナイター設備の設置を含めた思い切った改修工事が現状も実現できていないという課題もある。

 

2021年、Jリーグのメディアブリーフィングで、専務理事の木村氏は「23区内にJリーグが所有する中立開催地用の専用サッカースタジアムを建設したい。イングランド・ウェンブリースタジアムのように、どのクラブも使えるセントラルスタジアムがあればいい」とする構想を明かしたが、現状ではそれを実現するだけの用地が十分には足りていないし、それを計画から着工・竣工に至るまでは相当な時間がかかってしまうからというのもあって、そのJリーグ専用の23区スタジアムという形ではなく、Jリーグ発足当初からの中立地開催(といってもごく初期は川崎時代の東京ヴェルディや、FC東京など、特に関東に本拠を置くクラブが集客上の問題があって国立は頻繁に開催されていたが)に使用しているという事情もあり、その「23区スタジアム」を国立でという思いで形にしようとしたのではないか。

 

これはこれでいいと思う。僕としては23区志向の強いFC東京やクリアソン新宿が、国立を使用して安定したスタジアム運営をしたほうが一番良いという回答にもつながるとは思ったが、毎試合(J1からJ3は年間19試合、JFLは15試合ホームゲームが行える)開催して国立の使用賃だけで馬鹿にならない状態で赤字経営になるよりは、23区スタジアムのように各クラブ(今年はFC東京・町田ゼルビアの4試合づつを筆頭に、鹿島アントラーズ、ヴェルディ、横浜Fマリノス、関西からヴィッセル神戸も主管試合を組んでいる)が平等に試合をすることで、新しいコアファン層拡大につなげていきたいというJリーグの思いを形にしていくというのなら、「国立=23区スタジアム」という形にしても別にいいかとは思う。

 

FC東京が構想として挙げている新スタジアムに関しては、国立とは別に、近接地にある秩父宮ラグビー場の活用を検討して考えていったほうがいいと思う。それも、現在の構想である神宮球場との施設の入れ替えとか、人工芝の密閉型競技場というのではなく、既存のスタジアムをそのまま活用し、バリアフリー対策(エレベーターやスロープの拡充、旧第2球場跡地に国立の補助トラックの設置など)も取りながら、Jリーグの本拠地開催にも対応できる2-3万人程度収容の球技専用スタジアムとして整備することを念頭に、既存施設の有効活用で乗り切ったほうがいいかと思う。普段使いでは秩父宮をラグビーとの共存を図って使用し、東京ダービーなどビッグマッチに国立を「23区スタジアム」の範疇で使用するという形にしたほうが魅力的かと思う。

 

事実上の「23区スタジアム」を国立で実現させることで、Jリーグの更なる飛躍と、日本のサッカー、ひいてはスポーツ界全体がより一層世界と近づける実力を兼ね備えたリーグへ成長していく試みを期待していきたいと思う。