昨日、山梨県で2021年に一方的に好意を寄せていた女性宅を訪れて夫婦を殺害・放火した疑いの罪に問われた当時19歳の少年に対する甲府地裁の判決が言い渡され、その少年に対して「年齢は最大限考慮したとしても、刑事責任能力は重く、更生の可能性も低い」として、死刑を言い渡された。

 

この少年、現在21歳だが、少年法の改正で、18歳以上が成人となって以後、重大な犯罪を犯した人物については、少年院送りではなく、従来の20歳以上の青年と同じ扱いで、マスコミが実名報道をしたり、処罰を受けることができる「特定少年」とみなす法律の改正がなされたが、その特定少年に対する極刑(無期懲役や死刑)は初めてだという。

 

よく日本では死刑を廃止するべきか否かというのが今も論争になっている。世界的な人権擁護団体であるアムネスティー・インターナショナルは死刑制度に反対している。その理由として、刑上の裁きとはいえど、人の命を他人から奪うことはあってはならないことを訴えている。犯人によって殺された遺族や関係者にとってみれば、「犯人には一生をかけて償ってほしい。有期刑ではなく、無期懲役、最悪の場合は死刑をもって償うべきだ」とする意見もある。公的な処刑とはいえ、死刑を執行されることは、殺人を認めているのと同じであり、人権侵害、加害者のプライバシーや生きる権利を奪い取ることになるということで反対するといわれている。

 

こちらの高崎経済大学の学生さんの論文によれば、2004年現在であるが、

・死刑を廃止した国:84か国

・通常犯罪については廃止し、条件付き(軍の法制化による犯罪などの例外的なもの。いわゆる国家転覆罪やテロ行為の類)で認める国:12か国

・死刑制度はあるが、過去10年以上にわたり死刑を行っていない事実上の廃止国:24か国

・死刑制度が実際に行われている国(日本はこれに当たる):76か国

とに分かれている。

 

日本では、1995年の地下鉄サリン事件をはじめとするオウム真理教事件など、凶悪性の高い殺人事件の主犯格は死刑になる確率は高いが、強盗・殺人未遂を含む傷害・殺人を伴わない放火や建造物不正侵入・大麻や麻薬などの違法薬物の所持などでは、よほどひどいものでない限り死刑を言い渡される確率は皆無に等しく、それらで最も刑が厳しいのは無期懲役であるが、中国や中東などでは、強盗や違法薬物の売買、中にはブルネイのように同性愛や不倫といった行動があった場合など、人を殺さない範疇の事件の容疑者であっても死刑を言い渡された事例もある。またいわゆる「旧共産圏(東側諸国)」、現在は北朝鮮や一部の中東諸国がそれにあたるが、国家元首に逆らうことによる国家侮辱罪によって死刑を受けることもある。

 

戦後日本においては、2007年までに確定死刑囚は獄中での死亡(自殺なども含む)や、恩赦による減刑などを除けば728人で、その約8割に当たる627人が死刑を執行された。獄中死や恩赦を入れると800人ぐらいは死刑囚といわれていたし、1948年に熊本県で4人が殺害された強盗殺人で、当時23歳の青年だった免田氏が逮捕され、死刑判決を受けたが、免田氏が30年以上にわたり免罪を訴えた「免田事件」や、1966年、静岡県のみそ製造工場での放火殺人事件で、そこの従業員でボクサーだった袴田巌氏が逮捕され、これも死刑を言い渡されてから半世紀以上にわたり冤罪を訴え続け、現在も再審が行われている「袴田事件」など、人権侵害の甚だしい冤罪事件も少なくない。

 

昨年・2023年現在で確定死刑囚と認定されている被疑者は106人いるが、2020年以来3年ぶりに死刑執行が0だったという。最も現在新しい死刑執行例としては、2022年7月に執行された、2008年6月に秋葉原で起きた連続殺傷事件の容疑者だった、犯行当時25歳の青年に対するものである。最近の大量な死刑例では、2018年のオウム事件による主犯格・13人に対する死刑執行は、国家転覆を目的とした大量殺人という特異例であるので別としても、直近では2008年に15人に対する死刑執行がなされた例もある。

 

僕の考えとしては、死刑制度については、地下鉄サリン事件や過激派によるよど号事件などのハイジャックなど、集団的なテロ行為や、大規模な強盗・殺人・傷害行為(京都アニメーションの放火殺人や、和歌山の毒物カレー事件、京都を中心とした青酸毒殺事件もこれに当たる)など、特に社会に大きな影響を与えた「特定重大事件」というのを警察庁が指定し、その主犯格・実行犯とみなされる場合に限り条件付きで死刑を言い渡してもいいと思うが、更生の確率が低いからという理由で、安易に死刑を求刑・判決というのは、やはりその人の将来のことを考えるとあまりよろしくない。

 

いわゆる無期懲役刑というのも刑としては厳しい。死刑とはいかなくても社会に出て更生する確率は低いため、刑法上の有期刑は原則30年までとなっており、それを超える、アメリカでは極端に懲役50年、100年と死んでからも罪を償う責任を負われる国もあるが、それに相当する事実上の終身刑として無期懲役という制度がある。ここでも、一定の更生のめどがついて社会復帰ができると判断された場合や恩赦によって罪が減刑され、中には無期懲役ののちに仮釈放して社会復帰した人もいるが、無期懲役囚が仮釈放されるのは大体30年以上経過してからというのが多く、中には獄中死した人もいる。

 

しかし、テレビのドキュメンタリーを見てると、無期刑だろうが、有期刑であろうが、刑務所では社会復帰に向けて、家具や機械類、アクセサリーなどの製造などの内職をしている人も多く、実際刑務所主催によるバザーも頻繁に行われている。オウムなどのきわめて悪質な事件を犯した人は別としても、放火・強盗などの殺人罪で「更生の道がない」からと死刑にされると、刑務所ではなく、拘置所で過ごさねばならず、特に凶悪犯罪者はそういった更生作業すらさせてもらえず、一定時間の運動や入浴を除けば、独居房で過ごさねばならないため、かなり過酷ではある。

 

僕としては、できれば、極刑を言い渡されたとしても、死刑でどうしようもない被疑者は別としても、更生の道があると判断したものに対しては、事実上死刑を廃止して無期懲役と同等に拘置所ではなく刑務所に拘置して社会貢献に努めたほうが一番良いのではないかと思う。