テレビの地上デジタル放送が開始されてから20年以上になるが、デジタルテレビ放送で特に注目すべき点の一つに、「ワンセグ」と呼ばれる、携帯端末を利用したテレビ放送のサービスがある。デジタルテレビは1つの周波数帯に13のセグメントがあり、このうちの1つをワンセグ専用端末が搭載された防災テレビ(ラジオやランタン搭載)や、ガラケー、カーナビで見ることを目的とするサービスのことである。

 

多くの放送はフルセグメントと呼ばれる通常の地デジのテレビで見るものと同じ内容を放送しているが、地震・津波・台風などでライフラインへの影響に支障をきたす場合など、身近な公共財として放送を活用するという動きが必須になっていた。それが故、NHKのEテレや東京MX、奈良テレビ、南海放送はワンセグの別編成を行っていた。ただ、当初は重宝されていたワンセグの分離放送は、現在は東京MXと南海放送のみで行われるのみで、東京MXのそれはフルセグのマルチ編成と同じものであるため、実質的にワンセグ専用番組を放送しているのは、南海放送のみで、それもラジオスタジオの同時放送や、自社制作をしていない時間はフィラーの天気カメラなどにとどまっている。

 

この度の能登震災においては、輪島市など能登半島の一部で地上波のテレビやワイドFMが放送休止に陥り、NHKが旧BSプレミアム2K放送の103を使用して、当面の暫時的処置として金沢総合テレビの番組を全国に同時放送して補填しているが、災害に備えた放送の在り方を考えたとき、ワンセグ放送についてもう一度考える必要があるのではないかと考える。最も、マルチチャンネル編成は民放は収益の問題を考えるとあまりやりたがろうとはしない。ハイビジョンの高画質をありのままでというのが視聴者やスポンサーの意向なのかもしれないが。

 

今回の能登震災では大津波が発生し、いまだライフラインの復旧も進んでないところも多く、テレビ・ラジオがまともに見れないという視聴者も多くいる。能登半島は、過去に珠洲市が2011年のアナログ完全終了を前に2010年1月に試験的に2日間だけアナログを停止、その後同年7月に全国に先駆けてアナログ完全停止を行った。総務省が地上アナログの停波の社会実験に協力する自治体を募ったところ、珠洲市は地元のケーブルテレビなどを通して多くはデジタル放送を視聴できる環境が早くから整っていたことによるものだった。

 

そのアナログ先行終了となった珠洲市を含む能登半島が被災し、テレビがまともに映らなくなった、予備の送信所のモーターを動かす燃料も不足している(道路の寸断などにより通行止めが影響しているため)ことも災いしたのだが、いざというときのためのワンセグ放送をもう一度見直す必要がある。例えば、地震や津波・台風など、人的被害の影響が強い災害が起きたときや、コロナなどの非常事態が発生した場合、フルセグとは別の番組編成(ワンセグ専用チャンネル)を立ち上げ、災害関連情報やライフライン、物資の提供情報、行政からの告知などを、アナウンサーが読み上げたり、字幕スーパーを入れるなどして対応し、またスマホでも一部はワンセグが搭載されているものもあるが、双方向機能を使い視聴者からもデータ放送のメール機能を使って情報提供を呼び掛けてもよいと思う。

 

県域放送の関係もあり、あまり詳しい市区町村単位の情報まで手が回らないという課題もあり、コミュニティーFMやケーブルテレビを活用するものの、近年はコミュニティーFMがネットの普及などで廃止される傾向も強くはなっているが、必要に応じて、各テレビ局が自治体に委託してもらって、いわゆる「エリアワンセグ」形式で、その特定の市区町村に向けた防災・減災情報や被災地支援情報、外国人被災者のための複数言語による放送、ライフラインや住居の情報など細かいサービスにも手を加えたが方がいいかと思う。それを家庭のフルセグテレビが使えないときの情報手段として活用することで、少しでも被災地の被害削減につなげるためにも、ワンセグを再活用するように提案したい。