Jリーグ発足30年で、東京都内におけるJリーグの本拠地となりうるであろうスタジアムの問題がなかなか解決していない。

 

東京都内でのJ1リーグの開催基準を満たすスタジアムという点では、Jリーグ発足当初は国立競技場1か所しかなかった。ただJリーグ発足時は東京都内を本拠地とするクラブはあえて、極端に都内にファンが偏っては地域密着という点を重視するJリーグの趣旨に合わない恐れがあるとして、本拠地とするクラブを認めなかった。また味の素フィールド西が丘は、Jリーグ発足時は約9000人あった収容人員が現在7000人ほどであり、J1はおろか、J2開催スペックにも満たない。江戸川、夢の島もJ3スペック止まりである。

 

2001年にようやく、調布市に味の素スタジアムが完成し、J1基準を満たしJクラブが使用できるスタジアムが完成し、長らくはFC東京、東京ヴェルディの2チームがここを併用しているが、スタジアムのJ基準への改修・新築の課題は長年の課題になっている。2012年にJ2に一度昇格後、2013年、当時3部だったJFLに一度降格後、2014年にJ3にスライド、そして今もJ2でJ1昇格圏内を伺おうとする町田ゼルビアも、野津田のGIONスタジアムのJ1基準化が完成し、都内ではJ1基準を満たすスタジアムが3か所になったが、23区のJ1基準のスペックを持つスタジアムは相変わらず国立1か所だけである。

 

2021年に行われた東京2020オリンピック終了後、国立競技場を民間に移譲し、球技専用スタジアムにする案が一時検討されたが、日本陸連も「本来は近接地に第3種公認以上の補助トラックを設けること」を第1種競技場の基準にしていたのを「過去に夏季五輪が行われたスタジアムの場合は例外として補助トラックがなくてもよい」とするルールが定められ、2025年世界陸上の開催が決定した。前回の1964年・2021年の五輪、1991年の世界陸上とも、神宮の軟式球場に特設の補助トラックが設けられたが、大会終了後は撤去され、事実上、徒歩20分程度かかる代々木陸上競技場(都営)を補助トラックと見なしていた。今回の改訂で世界陸上でも代々木競技場を使用する可能性は高い。これにより事実上国立の球技専用化は白紙撤回とみてもよいし、FC東京の本拠地化も少なくとも2025年世界陸上終了後までは困難な状態となっている。

 

元々FC東京は、代々木陸上競技場を改修して球技専用スタジアムを建設することも検討していたが、これも現状では難しく、具体的な建設構想も進んでいない。国立をイングランドのウェンブリーみたいに年数回程度しか使えないのであれば、いささか問題もないとは言えないし、維持費だけでも大変なお金もかかるため、ただ五輪が行われただけという記念碑だけで終わってしまう可能性も否定はできない。東京のビッグクラブを目指すというFC東京であれば、この国立進出を少なくとも2026年以後検討できないだろうか。

 

そして今年度はJ3昇格のためのライセンス発行が認められなかったクリアソン新宿。今季関東1部からJFLに昇格し全国リーグに進出し、先日国立に1万人ものサポーターを集め、三浦カズ率いる鈴鹿ポイントゲッターズ戦を大成功させている。JFL・J3ではどうしても予算上大きなスタジアムはオーバースペックであるという意見もある。まぁ、J3・JFLであれば、同じくJFLの東京武蔵野ユナイテッドや、現在関東リーグの南葛SC、東京23FCなどが西が丘を特例で使えるようにすれば問題はないだろうが、J2・J1となると少し基準が厳しくなるので、その点を考えると、クリアソン新宿が全国リーグで定着するようになれば、FC東京との併用で国立を使えるように検討したほうが良いだろう。

 

一方、現在は味の素スタジアムをFC東京と併用する東京ヴェルディ。長年、読売FCとして日本リーグの強豪といわれたクラブであったが、残念ながらここ数年はJ2でも中盤から下位に低迷している。直近ではJ1参入プレーオフに参加したこともあるが、名門ヴェルディもJ2降格から16年もJ1に返り咲けないことが決定している。

 

この味スタ、基は2012年に行われた「スポーツ祭東京」、並びに2014年の「南関東インターハイ」の開会式・陸上競技の会場として設けられた陸上トラックが敷設されることを念頭に、そのトラックの個所をわざと開けて建設されたのだが、その陸上競技場の機能は事実上この2つの大会のためだけで終わり、日本陸連第1種公認トラックを抹消させられた。理由として、本来第1種に付随すべき第3種の補助トラックであるAGFフィールドが完成して、陸上競技場としての機能が強化されると見越していたが、国立の球技場化の不透明さもあって、現状では陸上競技場として使用するには、AGFフィールドで充分というのが陸上競技関係者からの意見ともいわれている。

 

そうなると、西隣、川崎市の等々力競技場(川崎フロンターレの本拠地)と同様に、陸上トラックを撤去して、球技専用スタジアムにリニューアルさせることを検討できないか。実際等々力もJリーグの開催に合わせるために1995年にバック・ゴール裏スタンドを二層化し2万人程度が収容できるスペックへ作り替えたが、長年の懸念である老朽化と、球技場としての魅力を作ろうと、2017年にメインスタンドの増築で約27000人収容に作り替えたが、陸上競技場よりもフロンターレに優先されているという印象があるとして、陸上競技関係者からの意見もあり、近接地にある補助トラックを第2種公認のトラックと簡易的な5000人程度収容のスタンドを設けて市民大会規模のものの開催ができるようにして、現スタジアムのスタンドを改修して、35000人程度収容の球技場にするという案が有力とされている。

 

それと同じで、陸上トラックを併用するというならバックスタンド・ゴール裏にスライド式の移動座席を設けてもよいとは考えていたが、今はほぼ陸上トラックが不要の長物となっている状態なので、そこにも座席を設置し、球技専用で55000人程度が収容できるスタジアムとして、改修し、それを東京ヴェルディが本拠地化するというのはいかがだろうか。

 

さらに2022年から華やかに開幕したラグビー・リーグワン。現在東京都内を(名目上)本拠地としているのは、スピーアズ東京ベイ、東京サンゴリアス、ブレイブルーパス東京、ブラックラムズ東京(以上2023年度1部)、ブルーシャークス江東(同2部)、ウォーターガッシュ昭島(同3部)の6クラブ。この他旧シャイニングアークス浦安からチーム組織を改編しながら2部降格となった浦安D-rocksも浦安市のスタジアムがリーグワン基準を充足していないため、都内を巡回している。

 

リーグワンでもJ1と同等規模の15000人以上収容のスペックを本拠地として求めており、現在、国立以外でリーグワンが主に行われているのが、国立の近接地にある秩父宮ラグビー場であるが、現に浦安を含め7クラブの多くは今年のリーグワンの多くを秩父宮で行った経緯を考えると、Jリーグ発足時の多くの関東のクラブが国立で本拠開催をする、半集中開催状態の解消につながらない恐れが高まる。

 

一部の報道で、江戸川を15000人収容規模に作り替える案が計画されたとかだが、それも今はあまり進んでいない。また夢の島もスタンドの大型化などは現状計画されていない。


この秩父宮も神宮外苑の再開発により現在のスタジアムは少なくとも2027年には撤去(跡地に新神宮球場が設置予定)され、旧神宮第2球場跡地に建設される新スタジアムに移動される予定であるが、多目的用途のスタジアムへのリニューアルとして、密閉型の屋根付きスタジアムになるという。ただ、国際ラグビーボード(IRB)は、規定で人工芝での国内プロリーグ(日本の場合は社会人リーグだが)や国際大会クラスは原則開催できない。これは国際サッカー連盟(FIFA)のそれとほぼ同じことである。

 

神宮外苑の関係者によれば、大規模なコンサートなどにも対応できるようにするため、密閉式・人工芝が理想というのだが、こうなれば、特例が認められなければ秩父宮でリーグワンを開催することが難しくなる。そうなれば、Jリーグと共同で、国立の常時使用、味スタの球技専用化もそうだが、駒沢陸上競技場の施設充足化も考える必要がある。

 

駒沢は基は1940年に東京五輪が開催されることになれば、そこにメインスタジアムが建設される予定だった。ところが、第2次大戦の引き金となった満州事変の影響で、国際オリンピック委員会(IOC)から開催返上命令が下り、ここをメイン会場とすることは無くなった。戦後は東映フライヤーズ(現・北海道日本ハム)の本拠球場が東急電鉄の建設により都に寄付され、いわゆる「私設公営」という、現在の「公設民営」の逆パターンではあるが作られたが、1964年の東京五輪へ向けた再開発で球場が閉鎖、その跡地に陸上競技場、体育館と事実上のサブアリーナである屋内球技場、さらに2面ある屋外の球技場(いづれも人工芝)などのオリンピック記念運動公園にリニューアルして建設された。

 

その後部分的にトラックや座席の張替えなどは行われたが、施設自体の老朽化が進んでいる。さらに2025年にはパラリンピックでは現在聴覚障碍者(ろうあ)の参加が認められていないため、別に行われている聴覚障碍者のオリンピックといわれる「デフリンピック」が都内で行われることが決まり、そのメイン会場に駒沢が指定されている。国際大会を開催するという場合、ナイター設備の設置と、補助トラックは必須であるとされるが、現状はそれらがない。

 

駒沢では過去にFC東京の元母体である東京ガスFCが年数試合本拠地として使用していたが、上記の味スタ完成までのJ基準のスタジアム建設が一つのネックになり、Jリーグ加盟は1999年のJ2発足まで待たなければならなかった。現在もバックスタンドに国立病院機構東京医療センターがあるという理由で、照明による光害の懸念から照明塔が設置できない状態になっているが、近年は照明塔でもLEDの普及により光害予防につなげているという事例が増えている。光害は防げても、サポーターの応援(鳴り物や手拍子など)による騒音公害も懸念されるところだが、その辺は様々なシミュレーションを重ねて、屋根の敷設率を拡大するなど、様々な課題を検討したうえで、将来的なJリーグ・リーグワン開催基準化を含めた国際基準化を進めていくべきだろう。

 

サッカーの本場、イングランドではロンドンだけでも20か所以上のサッカー専用スタジアムがあると聞く。中にはあるライバルクラブの本拠地が、徒歩で5分もかからないまさに近接地に並んで作られているという例もあるほどだが、日本の首都にJ基準を満たすスタジアムが足りなさすぎる現状を考えると、既存スタジアムの拡充で基準化をそろそろ考えたほうが良いかもしれない。