現在放送中のNHK1chの朝ドラ「とと姉ちゃん」の主演は、東大阪が生んだスーパーヒロインの高畑充希さんであるが、みつきさんは女優の傍ら歌手活動もしており、実際、山口百恵さんのトリビュートミュージカルでデビューしたり、「ピーターパン」などミュージカルの経験も豊富である。最近では、CM「チョーヤ梅酒・酔わないウメッシュ」や「かんぽ生命」でもその歌声を聞くことができる。

 

ところが、このドラマのテーマソングは歌手でもあるみつきさんではなく、宇多田ヒカルさんが本格的にシンガーソングライター活動を再開した第1作となった「花束を君に」という曲である。清涼感のあるみつきさんの歌声でもよかったなと思ったが、NHKとしては歌手が主演するドラマであろうとも、その歌手に主題歌を歌わせないのは、恐らく「俳優・女優としてお芝居に専念してほしい」という思いでもあるのだろうか。

 

実はこれ以前にもあった。

 

NHK1chが2000年にゴールデンタイムの番組編成の大幅な見直しを行ったことがあり、夜21時にあったニュース枠を事実上22時に移す代わりとして21時と23時を日替わり番組で編成する民放的な攻めの姿勢の編成を行った。その中で、火曜日23時からの枠として放送されたのが「ドラマ・Dモード」というシリーズだ。これは現在のBSプレミアム「プレミアムドラマ」の事実上の源流となるシリーズ群であるが、既存のホームドラマとは違う、若者向けの深夜ドラマを提供することを目的として発足した新しい連続ドラマ枠だった。これは2002年に帯番組の「よるドラ」に発展し、2006年3月の「ブルーもしくはブルー」(但し最後の1クールはアンコールだったので実質2005年12月放送「どんまい」が最後だった)で21時台の報道枠の設置などの再編などで終了してしまった。

 

これに、ハウンドドッグの大友康平氏が主演し、現在バラドルとしても絶好調の片瀬那奈さんらが出演した「FLY 航空学園グラフティー」と、鈴木亜美(あみ)さんが主演した「深く潜れ~八犬伝2001~」、さらに今夏の参院選立候補のうわさもあるというSPEED・今井絵理子さんの「ルージュ」という、本来であれば歌手が主演するドラマが3本あった。

 

ところが、実際に主題歌を歌っていたのは彼ら主演の歌手ではなく、それぞれ別の歌手が歌っていたのだ。「FLY」が矢野真紀さん「大きな翼」、「深く潜れ」がtohko(籐子)さん「パズル」、ルージュは福原裕美子さん「Get your groove」と、それぞれ主演者とは別の歌手である。

 

朝ドラでも、半世紀以上にわたる長い歴史の中で、主演者が歌っているのは1994年前期・大阪製作(当時は、1991年度「君の名は」が1年作品であったので、できるだけ東京・大阪を交互に制作するルールに沿う形で、上半期が大阪製作だった)の「ぴあの」で当時タカラジェンヌ現役のヒロインとして知られた純名里沙さんが歌った程度だ。

 

もちろん劇中歌として、のちに「ふたりっ子」のオーロラ・輝子(河合美智子)さんや、「だんだん」におけるスィートジュノーことマナカナさん、「てるてる家族」(劇中歌多数)、「あまちゃん」の能年玲奈さんなどのGMT47やアメ横女学園(これも劇中歌多数)というのはあるが、主題歌でヒロインはおろか出演者が歌った楽曲は歴史的にもおそらく純名さんぐらいだろう。

 

NHKのドラマ出演者は、恐らく年末の紅白を狙って少しでもヒットをさせようという狙いもあるのかもしれないが、どうせヒットを狙うなら、主演者自身が主題歌を歌ってもいいのではないかなと思う。例えば「花束を君に」は現在は宇多田さんバージョンであるが、それを1週おきに宇多田さんのバージョンと、みつきさんのバージョンで入れ替えてみるというのもいいかもしれない。みつきさんの歌手としての才能もショーアップさせると、よりドラマとして、また歌手・アーチストとしてのみつきさんを評価できると思う。