神さまが語る病気のはなし⑤完結

 

「わっ、こわっ!こんなの危ないじゃないかっ」

 

思わずオレが言うと

 

「いやいやお前さんだけでなく人間みんなそういう状態なんじゃよ」

 

神さまはおかきをボリボリ噛みながら言った。

 

「谷底へ落ちれば死ぬ。ところが現実世界のお前さんたちは目を開けていても自分が谷底、つまり死に近づいているなんて見えんじゃろ?」

 

オレはもう一個おかきを口に入れてから頷く。

 

「死に近づいていることを、それを見ることができないお前さんたちにどうやって知らせたらいいんじゃろうのう?」

 

オレはおかきの旨さに気を取られ、危うく神さまが言ったことをスルーするところだった。オレは突然理解した。

 

現実世界のオレたちは例え目を開けていても自分がどれくらい谷底、つまり死に近づいているかを見ることはできないし、知ることもできない。

 

オレたちは目をつぶって運転しているかの如く死に対しては盲目なのだ。だから突然に死ぬことだってありうるわけだ。

 

そんなオレたちに

 

『ここから先は危ないよ』

『これ以上進んだら落ちるよ、死ぬよ』

 

というメッセージを嫌でもオレたちに分かる現象で知らせてくれるのが病気なんだ。

 

それが「がん」であれ「糖尿病」であれ「脳卒中」であれ。

 

オレは病気が人を死にいざなう忌み嫌うべきものだと思っていた。しかし事実は逆で、死という谷底を見ることができないオレたちが落ちないように、これ以上死に向かわないように守ってくれていたんだ!

 

”病気というガードレール”

「病気になって助かったのう」って神さまが言った意味がやっと分かった。オレは病気に感謝しなければいけなかったんだ、、

 

「神さま、やっと意味が分かり、、」

 

おかきの食べ過ぎか声が擦れた。

茶を啜ろうと目にした湯呑が空であることに気づいた途端、急に視界がぼやけた。

 

気が付くとオレはいつもの自分の布団の中にいた。

 

あれ?なんかさっきまですごく面白い夢を見ていたような気がする。お茶を飲んでおかきを食べて誰かとおしゃべりしていたような。

 

でももう思い出せない。

まあ夢なんてそんなもんだ。

 

オレは妙にノドが乾いていることに気づいた。

それにすごくおしっこがしたくなったので起き上がってトイレに急いだ。

 

おわり